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コラム

[第28回] 鍵となるのは「コネクション」。銀行の新たな役割とさらなる未来像

更新日:2018年03月23日

各種の規制緩和を受けて、金融ビジネスに参入するハードルは年々下がり続けている。利便性の高いサービスを提供するベンチャー企業、豊富な顧客基盤を持つ小売業界、テクノロジーとビッグデータを保有するIT業界など、従来の銀行とは異なる武器を持った異業種からの銀行事業参入はもはや珍しくない。

その一方で、銀行側も自分たちの強みを生かした新規事業を開発したり、異業種に参入する動きを活発化させている。金融・非金融問わず事業領域がボーダーレス化する時代の中で、銀行の役割がどのように変化しつつあるのかを探る。

銀行業の領域にさまざまな異業種が参入

かつて銀行業務とは旧来からの金融専門のプレイヤーが行うものだったが、近年は他の業界で名を馳せた有名企業が銀行業務に参入してくるケースが目立っている。2000年代以降に次々と誕生したイオン銀行、楽天銀行、ソニー銀行といった「ネット銀行」はその代表的な例だろう。

異業種の企業が銀行事業に関わる目的はいくつか考えられるが、“顧客資産の流れ”といったデータを保持できる意味は特に大きいといえる。また、ユーザー利便性の向上という視点でも、APIを用いた預貯金と、企業の持つ外部サービスとの連携が重要な役割を担っていることは間違いない。

一口に銀行事業と言っても銀行の持つ機能は多岐にわたるが、例えばAmazon、楽天といったECプラットフォーマーがEC店舗への「融資」を積極的に行っているのも、非金融プレイヤーによる銀行業務への進出の一例といえるだろう。自社のプラットフォームを支える店舗を活性化させつつ、店舗支援で囲い込むといった狙いが伺える。

Amazonについては、先日The Wall Street Journal紙で、投資銀行のJPモルガンと組んで預金口座に類似した金融商品提供の計画が報じられた。楽天やAmazonはすでにクレジットカード事業を展開しているが、さらにユーザーの預金までを管轄とすることでサービスの利便性を高め、より競争力の高いプラットフォームになることを目指しているのかもしれない。

なお、最近新たに銀行業への参入を準備しているのは、店舗を全国展開している流通系の企業が多いようだ。2016年から準備会社を設立しているローソンがその一例で、そうした企業は全国の店舗に自社の銀行ATMを設置することで手数料収入を得たり、ATM目当ての入店者へのクロスセルを目論むこともできるだろう。

地方の中小企業を活性化せよ! 銀行が主導するオープンイノベーション

異業種が銀行事業に参入してくる一方で、逆に銀行が従来の業務領域外に進出し、新たな役割を担うケースも増えてきている。

例えば、各地で盛んに行われている銀行主導のオープンイノベーションのイベントもそのひとつだ。

京都銀行は地元の中小・ベンチャー企業を活性化するべく、大手企業との連携や、事業パートナー開拓のサポート等を目的とした「京銀・KIIS ビジネスフォーラム」を2016年から開催している。今年もAI、IoTといったテクノロジーを活用したサービスや新事業展開を模索するベンチャー企業によるプレゼンテーションや企業交流会が行われた。

また、中国銀行は山陽新聞社、サンマルクホールディングスとともに、地元・岡山の創業機運の醸成を目的とした「岡山イノベーションプロジェクト」を実施。その一環として行われる「岡山イノベーションコンテスト」では大賞受賞者にシリコンバレーへの研修ツアーを進呈するなど、岡山を「創業のメッカ」とすべく積極的な施策を行っている。

メガバンクでは三菱東京UFJ銀行が本邦初となるデジタル通貨ハッカソン「Fintech Challenge 2018」を開催した。同社は「MUFGコイン」というデジタル通貨の発行を検討しており、近い将来訪れるであろうキャッシュレス社会に備える姿勢を見せている。このハッカソンでは利便性、新規性、完成度を考慮して審査が行われ、優れたアイデアについては同行と共同で実用化を検討するという。

このように、銀行が中心となって場をつくり、地元中小企業、フィンテックベンチャーなどが交わることで、新たなビジネスアイデアが生まれる場となっているのだ。

地銀の強みである「地元とのコネクション」を生かしたインバウンド支援

現在、地方でもっとも勢いがあるビジネス領域のひとつがインバウンド、すなわち訪日外国人向けの観光事業だ。2013年に初めて年間の訪日外国人が1000万人を超えたかと思えば、2017年は2800万人を突破し、この流れはまだまだ加速していくと考えられる。

しかし、急増するインバウンド景気に沸きつつも、実際に外国人観光客の受け入れ体制が整っている観光事業者、商店、宿泊施設は少ない。そこで、銀行が海外の旅行会社やインバウンド向けのサービスを展開するベンチャー企業の窓口となり、地元企業とのマッチングを行うケースが増えている。

まず大きなトピックは、住宅宿泊事業(民泊)サービスで世界的に注目されるAirbnbとみずほ銀行、そしてみずほ銀行とWiLグループの合弁によるフィンテックベンチャーBlue Labの三社による業務提携だ。みずほ銀行の持つ豊富な取引先企業とのコネクションを活用し、住宅宿泊事業と親和性の高い事業者にAirbnbの民泊サービスへの参入を促し、宿泊施設供給、新たな旅行体験の形成、損害保険等の周辺ビジネスを創出するという。宿泊施設の充実による地域経済の活性化にも期待が集まる。

地方銀行においても、企業とのコネクションを生かしたインバウンド産業へのサポートは積極的に行われている。

例えば紀陽銀行、福井銀行、北海道銀行といった地方銀行は、世界最大の宿泊予約サイトBooking.comと業務提携契約を結んだ。地元の宿泊施設事業者に対して地銀がBooking.comを紹介し、各宿泊施設の魅力を観光客に向けて発信するという枠組みで、地域観光事業の活性化に地銀が一役買う形となる。

また、もみじ銀行、山口銀行、北九州銀行は、外国人観光客対応のための消費税免税システム機器を販売およびレンタルしているビジコムとビジネスマッチング契約を締結し、各地銀の取引先である地元企業に免税システムの導入サポートを行うことで、地域経済の活性化に取り組んでいる。

琉球銀行は、ウェブサイト多言語化ツールを提供するミニマルテクノロジーズと業務提携。宿泊施設や飲食店のサイトを多言語化するサービスを、琉球銀行の取引先に紹介し、導入支援を行うことで、外国人観光客向けの情報発信をサポートしている。

最後に地方自治体と組んだ事例として、京葉銀行は千葉県と連携して「インバウンド食文化研修」を開催した。成田国際空港を擁する千葉県の課題である訪日外国人の受け入れ体制を、「食文化」の面から整えることを目的とした研修で、観光施設・宿泊施設のスタッフや自治体・各種観光団体を対象に、ユダヤ教のコーシェル、イスラム教のハラールといった特別な対応が必要なメニューや、接客などの注意点について、ミニ講演や講座が行われた。

アプローチは異なるが、いずれも地元の企業・商店と太いパイプを持つ地銀の強み、資産を生かす形で地域の活性化に貢献している例といえるだろう。

銀行の役割が変化する中で注目される新たなビジネスモデルとは?

今後も銀行が従来の業務領域以外の場で新たな役割を担うケースは増えていくことは間違いない。

キーワードのひとつは、キャッシュレス化への対応だ。日本は他の先進国と比較してキャッシュレス化が大きく遅れており、日本政府は2027年6月までに達成する目標として、日本のキャッシュレス決済比率を4割程度を目指すとしている。

例えば北國銀行はVisaデビットカードの低価格な端末を北國銀行の加盟店に提供すると同時に、自らもVisaデビットカードの取り扱いを2016年から開始するなど、北陸でのキャッシュレス化を積極的に推進している。

メガバンクでは三井住友銀行が2016年に「iD」「Visa payWave」といった非接触決済に対応したSMBCデビットカードを発行。今年からはVisaデビット機能一体型の多機能キャッシュカードも発行したほか、従来は申し込みが必要だったインターネットバンキングを標準搭載とするなど、キャッシュレス化を推進する施策を次々と展開している。

また、三井住友銀行や、前述の通り自行でのデジタル通貨を準備している三菱東京UFJ銀行は、IIJが新たに設立したデジタル通貨の取引・決済にまつわるプラットフォーム事業に出資している。近い将来訪れるであろうデジタル通貨を法定通貨と同じように使える社会を想定した動きといえるだろう。

もうひとつ大きな動きとして注目したいのが、金融庁が銀行業務の規制を緩和することで、地方銀行が人材紹介業を展開できるようになるというニュースだ。各地で人手不足が深刻化する中、銀行が取引先の企業に人材紹介を行うことで雇用問題の解決に寄与し、地域の活性化に貢献すると同時に、銀行自体の収益力向上にもつながる施策として期待が集まっている。

従来の銀行業務だけではビジネスが縮小するという状況だが、その一方で「銀行ならではの強み」である地域のコネクションや情報を生かすことによる新たな可能性も見えつつある。

新しい時代の銀行のあり方について、今後も注視していきたい。

ライタープロフィール

ライター:上野 俊一
ゲーム雑誌編集者、音楽制作雑誌編集者、VR雑誌編集者、フリーライターを経験。特にデジタルエンタテインメント分野に詳しい。最近はFinTech関連の記事を多く執筆している。


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