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[第22回] 銀行業務にも活用できる! AI技術で広がるチャットボットの未来
更新日:2017年8月28日
チャットボットとは、人間がテキスト入力した質問に対して会話形式で応答する自動プログラムのこと。近年、人工知能や機械学習などのテクノロジーを取り入れることで進化を遂げ、ビジネスシーンへの活用が増えてきている。
こうした新しいシステムは、商品・サービスへの問い合わせや窓口業務など、顧客対応における業務効率化やユーザー利便性の向上に寄与できるだろう。
そこで今回は、チャットボットのトレンドを追いながら、ビジネスへの効果的な活用方法を考えてみたい。
「チャットボットブーム」を牽引する、AI技術の進歩
チャットボットはいま、数あるITトレンドの中でも世界的に注目を集めている分野だ。アメリカのPR NewswireがReportsnReports社の調査をもとに発表した記事によれば、チャットボットの世界全体の市場規模は、2016年の時点で7億ドル以上に及び、2021年までにその4倍以上の市場規模に拡大することが予想されている。日本でも市場規模はそこまで大きくないものの、ビジネス系やIT系のニュースメディアで頻繁に取り上げられており、チャットボットを導入する企業も徐々に増えてきている。
チャットボットはもともと「人工無脳」と呼ばれており、コンピュータにあらかじめ複数の文章をインプットしておき、ユーザーがテキスト入力した単語やフレーズに対して適切な文章をマッチングさせることで、会話が成立しているように見せるしくみのことを指していた。その歴史は意外と古く、1960年代の簡単な自然言語処理プログラム「ELIZA」に始まり、日本でも1990年代を中心に様々な人工無脳プログラムが登場して一部のインターネットユーザーのあいだで親しまれていたという。しかし、エンターテインメント性はあったものの対話自体の精度が高いとはいえず、文脈を読み取ることや推論することもできないので、ビジネスシーンへの活用はごく一部に限られていた。
それが年月を経ていま、大きなブームとなっている理由のひとつには、人工知能技術の発展が挙げられる。日々進歩する人工知能を取り入れることで、会話の文脈を認識したり、大量の情報を処理したり、自ら学習して対話の精度を高めたりなど、チャットボットにできることは劇的に広がったといえる。
それに加え、2016年に入ってからFacebook、Google、Microsoft、LINEといった大企業が続々とAI(人工知能)型チャットボットを開発するためのプラットフォームをリリースしたこともブームに拍車をかけた。
また、チャットボットの認知度が高まったことで、従来の人工無脳型チャットボットにも再びスポットライトが当たりつつある。
様々な業界に展開する、AI型チャットボット
現状、企業が導入しているチャットボットの多くは、AIを活用したサービス提供が主流のようだ。その業種は多岐にわたり、小売・EC企業はカスタマーサポートや商品提案に、航空会社は航空機の予約・確認や旅行計画の相談に、物流会社は再配達の依頼や不在通知にと、サービス用途も様々。金融業界においても、大和ネクスト銀行がサポートセンターの24時間対応に導入したり、三井住友フィナンシャルグループは問い合わせ対応のほか、株価照会や投資信託の銘柄選びなどのサービスへの展開も視野に入れるなど、導入に積極的な様子だ。
先述したチャットボット開発のプラットフォームの中でも、特に日本企業の活用が盛んなのが、LINEのAI型チャットボットである。
たとえば、ライフネット生命保険は2016年7月15日に、生命保険会社で初めてLINEの企業アカウント上でチャットボットによる生命保険に関する相談サービスの提供を発表。20〜40代の子育て世代を中心に、気軽に生命保険の相談ができるサービスとして好評を博した。同社は2017年1月23日にサービスを刷新。わずか1分で自分にぴったりの保険が見つかる「ほけん診断」機能や、生年月日・性別・保険商品の入力だけで保険料が簡単にわかる「保険料見積もり」機能を追加した。さらに、Facebook
Messengerでも同様のサービスを用意し、事業拡大を狙っている。
AI型チャットボットのメリットが大きく取り上げられる一方で、リスクをはらんでいる点についても議論が起こり始めている。それは、人工知能の“自ら学習する”という特性から、製作者やサービス提供者が意図しない返事をする可能性を秘めていることだ。雑談レベルならまだしも、FAQやカスタマーサポートなどの場面で正しい情報が提供されなければ、サービスとして成立しないだろう。
近年も、Microsoftが開発したAI型チャットボットがTwitter上の会話を学習して不適切な発言を連発するようになるなど、自主的に学んでどんどん賢くなっていく人工知能をどうコントロールしていくかが課題のひとつとして挙げられる。
こうしたリスクに対応する手段として注目されているのが、人工無脳型チャットボットの活用である。人工無脳は事前に設定したルールに従って会話をするため、製作者やサービス提供者が意図しない返事をする可能性は極めて低い。ルール外の質問に答えられないデメリットはあるが、たとえば、よくある質問への回答やマニュアルで対応できるサービス案内などは人工無脳に登録し、人工無脳が答えられない質問が出た場合には有人のカスタマーサポートにつないでもらうなど、工夫次第で様々なシーンに活用できるだろう。
生産性向上にとどまらない、チャットボットの新たな可能性
優れたAI技術を搭載したチャットボットの登場は、主に業務効率化やコスト削減への寄与が期待されており、実際に生産性の向上を目的とした導入事例が多くみられる。ただ、AIの可能性は人間のアイデアとともに日々進歩を遂げており、単なる生産性向上にとどまらない新たなチャットボットも生まれている。
米Facebookの人工知能研究チームは現地時間2017年6月14日に、“交渉”できるAI型チャットボット「ダイアログエージェント」を発表し、ソースコードと論文を公開した。同チャットボットは、人間同士が交渉するケースを集めて繰り返しトレーニングすることで、交渉における言い回しや推論、優先順位の付け方などを学習。その結果、人間や別のチャットボットと交渉して、時には妥協もしながら共通の決断を導き出すことができるようになったという。
さらに、実際に人間とオンラインで交渉させてみたところ、ほとんどの人がチャットボットだと気づかなかったことから、完成度も非常に高いことがうかがえる。オープンソース化したことで今後さらに研究が進めば、人間よりも優れた“交渉のエキスパート”として、チャットボットが活躍する日も遠くないかもしれない。
一方、日本ではLINE Beaconとチャットボットで目や耳の不自由な人をサポートする「&HAND」が、2017年のLINE BOT
AWARDSでグランプリを受賞して話題となっている。
同サービスは、身体・精神的な不安や困難を抱えた人と、手助けをしたい人をLINE
Beaconでつなぎ、チャットボットを通じて具体的な行動をサポートするもの。手助けが必要な場面でBeaconをONにすると、周囲にいる手助けをしたい人に通知が届く。両者が承諾すると、チャットボットを介してメッセージのやり取りができるようになり、必要なサポートを享受・提供することができる。
このサービスが優れている点は、チャットボットを活用することでサポートを受けたい人・サポートしたい人の「声をかけにくい」というハードルを下げ、プライバシーも守られた状態でコミュニケーションが取れるところだろう。
2017年6月15日には大日本印刷、東京メトロ、およびLINEと連携して事業化を進めることを発表。社会問題を解決する可能性を秘めたプロジェクトに今後も注目したい。
銀行業務においても、様々なカタチで応用が可能!
では、こうした新しい技術は、銀行業務においてどのような使い方ができるだろうか。
問い合わせサービスやFAQのチャットボット活用については、既に導入している銀行も少なくない。昨今の業務効率化が求められる傾向や、地方銀行における人手不足の問題に対応するためには、テクノロジーの力を上手に取り入れていく必要がある。マニュアルやルールで対応できる業務はチャットボットに任せて、クレーム対応や高度な接客を必要とするシーンに人材を活用できれば、生産性を高めるだけでなく、顧客満足度の向上にもつながるだろう。
また、ライフネット生命保険の事例のように、金融商品にあまりなじみのない若年層にリーチする手段として、チャットボットを活用するのも効果的だろう。金融商品に興味があっても十分な知識がないゆえに、いきなり行員と話すことに不安や抵抗感を感じる人もいるかもしれない。ふだん使い慣れているLINE上で、ロボットに気兼ねなく相談できるサービスであれば、金融商品へのハードルをいくらか下げてくれることは間違いない。 金融商品ではないが、レイ法律事務所が提供するAI型チャットボット「レイ子」も好例のひとつ。法律事務所へ相談することに「敷居が高い」と感じている層に対して、LINE上で債務整理や過払い、養育費などについて気軽に相談できるサービスを提供している。このように、見込み客の“はじめの一歩”をサポートする役割も、チャットボットの得意とするところだ。
あるいは、米Facebookの交渉できる「ダイアログエージェント」のような、新しい価値をもたらすチャットボットも銀行に導入できる可能性は大いにある。たとえば、他行の金融商品・サービスへの乗り換えを検討している顧客が、解約についてWebやスマホ上で問い合わせをした際に、交渉のエキスパートであるチャットボットが離脱を抑止する……といったしくみも実現不可能ではない。
人工知能技術の飛躍的な進歩と人間のアイデアによって、新境地を開拓しつつあるチャットボット。数年後には顧客対応の新たなスタンダードとして、あらゆる企業が活用するような未来が待っているのかもしれない。
ライタープロフィール
ライター:松山 響
大手広告代理店や電気通信事業者のオウンドメディアにて、取材・ライティングを担当する。若者の実態調査、地方創生プロジェクトに関する記事を継続して執筆。また、生協の週刊情報誌の編集に創刊から携わり、食と安全にも明るい。