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コラム

[第20回] 未来の顧客獲得につなげる、新しいマーケティングのカタチ

更新日:2017年6月28日

世界規模で大きな変革期を迎えている金融業界。「2025年までに銀行の主要業務で収益の10~40%を喪失するリスクがある」という予測もある中で、既存の金融機関には革新的なサービスの提供が求められるだけでなく、顧客獲得のための効果的なマーケティング施策も必要とされている。そこで注目したいのが、ビッグデータの活用や情報のパーソナライズ化、オウンドメディア(企業やブランド自身が所有するメディア)の活用などを通して顧客とのコミュニケーションを深める「デジタルマーケティング」の手法だ。近年、新しいマーケティングのカタチとして様々な業界に拡がっており、その流れは金融機関にも波及しつつある。そこで今回は、地方銀行に特化したデジタルマーケティング・ソリューションを提供するトライベック・ストラテジー株式会社に話をうかがい、未来の顧客獲得のために目指すべきコミュニケーションのあり方を考察する。

トライベック・ストラテジー株式会社 執行役員 佐孝 徹氏

トライベック・ストラテジー株式会社 執行役員 佐孝 徹氏

若年層の“銀行離れ”改善が、長期的な顧客獲得につながる

IoTやビッグデータ、AIといった先端技術を活用しながら、金融のビジネスモデルを新たに構築しつつあるFinTech(フィンテック)。こうした技術革新によるイノベーションは、従来の金融サービスのあり方を変えるだけでなく、マーケティングの手法にも変化をもたらしている。

そのひとつが、先端技術を駆使して顧客とのコミュニケーションを深めていくデジタルマーケティングだ。多くの消費者が日常的にデジタルメディアに触れるようになったいま、デジタルマーケティングはあらゆる企業にとって重要な施策である。特にSNSやスマートフォンの普及によるユーザー行動および広告に対するユーザー意識の変化、IT技術の革新に伴うツールやソリューションの進化はめざましく、それにどのように対応していくのかが企業の未来を左右すると言っても過言ではない。

金融業界においては、インターネットや電子メールが普及する1990年代後半よりデジタルマーケティングを活用するようになり、時代の変化やIT技術の進化に伴ってマーケティングの手法もアップデートされてきた。その先陣を切るのはやはり大手銀行であり、例えばみずほ銀行は2008年より、顧客に行動変化が生じるタイミングに合わせて、その変化に適した金融商品のレコメンドを行う「イベント・ベースド・マーケティング(EBM)」という手法を導入。さらに、2016年には顧客の行動変化を事前に察知し、イベントの発生を予測する「ビヘイビア・ベースド・マーケティング(BBM)」に取り組むなど、新しいマーケティングの手法を積極的に取り入れている。

一方で、地方銀行のデジタルマーケティング施策については、大手に遅れをとっている状況のようだ。Webコンサルテーション、インテグレーション事業を行うトライベック・ストラテジー株式会社にて、地方銀行向けマーケティングソリューションを統括する佐孝徹氏は、地方銀行の課題をこのように述べる。

「リサーチやヒアリングを重ねていくと、ITにまつわるノウハウ面においても、コスト面においても、新しいことに挑戦するには時間を要する状況であることがわかりました。人口減少の問題や、地方銀行の統合が相次ぐ中で、“なんとかしなければ”という意識はお持ちのようですし、一部の地銀さんは積極的にマーケティング改革に取り組んでいると思います。しかし、地銀さんの多くはマーケティングにおいてITを生かしきれていないのが現状です」

また、若者の“銀行離れ”も大きな課題だと佐孝氏は述べる。
「中長期的な顧客獲得を考えると、若年層の投資無関心層を関心層へとシフトさせることが重要な施策のひとつです。しかし、セミナーや講習会、Eラーニングといった従来の投資教育では、継続的に参加してもらうのが難しかったり、投資行動につながったのかという効果検証が十分にできず、なによりも自分ゴト化されにくいという課題があります。では、効果検証や継続的な情報発信が可能なオウンドメディアでどのくらい投資教育が行われているかというと、地銀さんのほとんどが投資教育コンテンツを持っていなかったんですね」

実際に同社が地方銀行のオウンドメディアにおける投資教育の状況を調べたところ、コンテンツを持っているのはわずか6%にしか満たず、残りの94%はセリング(商品紹介)中心で、資産形成や投資に関する知識がない若年層の興味喚起につながるような情報が提供できていなかったそうだ。

潜在層と接点を持ち、いかにコミュニケーションを継続できるかがカギ

ITを活用した効果的なマーケティングが十分でない、若年層にリーチできていないといった地方銀行の課題解決を目指して、同社は地方銀行に特化した総合的なマーケティング支援を行っている。地方銀行におけるデジタルマーケティング施策の一例として紹介しよう。

地方銀行に特化したマーケティングソリューションの軸となるのは、若年層向けの体系的な投資教育コンテンツの提供だ。金融庁が示す「金融リテラシー・マップ」に沿った8つのテーマに加え、銀行の注力したい商品に特化した動画・漫画コンテンツ、資産形成を自分ゴト化するためのシミュレーターなどを、SEO施策やターゲティング施策を行いながら様々なチャネルで発信し、将来顧客が見込めそうな若年層のオウンドメディア集客をねらう。さらに、アクセスログのビッグデータを分析することで、サイトの効果を“見える化”。訪問者一人ひとりのサイト内行動に応じたコンテンツの自動レコメンド、コンバージョンへの貢献度の高いコンテンツの即時特定、セグメントごとに合わせたメール配信などを通じて、緻密な効果検証を行いながら、継続的に顧客の育成に取り組めるという。

「まずは、潜在的にいる若年層と接点を持っていただくことが第一。そして、その方たちと継続的なコミュニケーションを築いていくことが、例えば新しく口座を開設しようと思ったときに選んでいただくことにつながり、その先の金融商品の紹介につながり、最終的にはLTV(ライフ・タイムバリュー=顧客生涯価値)の充実化につながるのです。だからこそ、一回限りの情報発信ではなく、効果を分析しながら、いかにユーザーが欲しがっている情報を届けられるかが大事なんです」と佐孝氏。

実際に、とある銀行のオウンドメディア上で投資教育を目的としたコンテンツを制作したところ、閲覧来店予約および資料請求数が10%向上したという。地方銀行のオウンドメディア活用が不十分な現状だからこそ、ユーザーの目線に立ったコンテンツの提供は差別化を図るチャンスなのかもしれない。

トライベック・ストラテジー株式会社 執行役員 佐孝 徹氏

スタートしやすい外部サービスを、積極的に有効活用してほしい

同ソリューションは、それこそマーケティングのプロが知りたいような深い情報まで追える機能を備えている一方で、初期費用・月額の運用費が比較的安価にスタートできる点も特徴だ。佐孝氏はこの料金設定について、「担当の方々の問題意識は年々高まっていると感じますし、オウンド領域での情報発信も増えてきているからこそ、消費者側からすると差別化ができていない現状が非常にもったいないんですよね。コスト面でデジタルマーケティングを導入できないのであれば、まずは最初のきっかけとしてでも貢献できればと思ったんです」と語る。

また、この“はじめの一歩”を契機として、デジタルマーケティングに関するリテラシー向上やノウハウの構築も期待しているという。
「これからの時代は、Webサイトを作って終わり、情報発信して終わりではなく、数字やデータをきちんとチェックすることがとても大切です。メール配信や滞在時間などはもちろん、店舗来店につながったかも重要なコンバージョンですよね。いままでブラックボックスだったものが全部わかるようになるので、それを継続的に見ていくことで、新しい施策を思いついたり、サイトのあり方を検討したり、そういった動きが内部から出始めるとまた変わると思うんです」(佐孝氏)

最後に、未来の顧客獲得に向けて、いまから銀行にできることを、佐孝氏はこのように語ってくれた。
「当社のソリューションもそうですが、それこそFinTechベンチャーのサービスにも比較的安価にスタートできて、かつ担当者の負荷が少ない形で運用できるものが増えてきています。イメージがつきにくい分野かもしれませんが、課題を解決するソリューションのひとつとしてまずは導入してみて、半年後に進むかやめるか判断するという発想でも良いと思うんです。外部の資源をどんどん有効活用していただきながら、いっしょに課題解決に取り組んでいけるとうれしいですね」。

<プロフィール>
佐孝 徹:2010年よりトライベックにて、戦略マーケティング室メンバーとして参画。IT、商社、通信、銀行、エンタテインメント、アパレル、官公庁・自治体など様々な大規模サイトのリニューアルプロジェクトに従事。定量・定性データの両面から生活者のインサイトを抽出しUI/UXの観点からクライアント課題を解決するプロフェッショナル。現在はトライベックの営業業務を担うプロデュース部とプラットフォーム事業を担うデータドリブンマーケティング部を統括し、マーケティングプラットフォームを活用したKPI、PDCAプランなどのデータドリブンマーケティングの実現や、新規事業の推進に向けて尽力している。

ライタープロフィール

ライター:松山 響
大手広告代理店や電気通信事業者のオウンドメディアにて、取材・ライティングを担当する。若者の実態調査、地方創生プロジェクトに関する記事を継続して執筆。また、生協の週刊情報誌の編集に創刊から携わり、食と安全にも明るい。


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