~平準化に向けた連携が物流の未来を切り拓く~
「荷主・物流事業者の連携・連動による物流生産性向上セミナー」レポート

更新日:2018年3月14日

2018年2月16日、TKP東京駅日本橋カンファレンスセンターにて、国土交通省主催の「荷主・物流事業者の連携・協働による物流生産性向上セミナー ~明日を切り拓く物流平準化の取組~」が開催された。物流業界をめぐる課題解決に向けて、どのような取り組みが必要とされているのか。行政や研究者、民間企業による充実した講演の様子をレポートする。

「強い物流」の実現を左右する、「繋がる」という視点

2017年7月28日に閣議決定された「総合物流施策大綱(2017年度~2020年度)」及び、2018年1月31日に決定した「総合物流施策推進プログラム」では、今後の日本の経済成長と国民生活を支えていく「強い物流」を構築するために、物流の生産性向上に向けて総合的かつ一体的に推進していくことが示されている。
同セミナーは、施策のキーワードである「強い物流」への理解を深めるとともに、荷主・物流事業者などの連携をどのように取り組めばいいのか、具体的な事例を交えながら実践方法について考えることを目的としたもの。第1部では政府や研究者の視点から、現状の課題と取り組みの方向性について提言がなされた。

総合物流施策大綱を軸に、政府が考える強い物流の方向性を解説したのは、国土交通省大臣官房物流審議官の重田雅史氏。同氏は今後5~10年程度で発生する物流を取り巻く事柄として、人口減少と少子高齢化、IoTや自動運転技術の進化、EC市場のさらなる拡大、アジア(特にASEAN10)の成長、地震・台風災害等の日本が抱えるリスク、パリ協定の発効をはじめとする環境対策といったトピックを提示。これらに対応するために、政府としては6つの視点を掲げて物流の生産性向上を推進していくという。

その中でも「一番大切にしたいもの」として挙げたのが、「繋がる」という視点。総合物流施策大綱では、「サプライチェーン全体の効率化・価値創造に資するとともにそれ自体が高い付加価値を生み出す物流への変革(=繋がる)~競争から共創へ~」というテーマで示されている。
「物流の課題に応えるためには、売る人、買う人、運ぶ人、それぞれが対等なパートナーとして情報共有し、連携することが欠かせません。キーワードは平準化と標準化。今日届かないといけない荷物なのかを検討したり、共同配送を構築したり、業者ごとにフォーマットや荷姿の違うものを統一していったり。みんなで何ができるかを考えることが大切です」と述べる同氏。

国土交通省としては、物流総合効率化法に基づいて、平準化と標準化に向けた取り組みを財政等で支援するスキームを有する。
重田氏は、「チャレンジしたい思いがあれば、先進的な改革ということで支援できると思いますので、ぜひお声がけください」と、事業者の積極的な取り組みを後押しする言葉で締めくくった。
国土交通省 大臣官房物流審議官 重田雅史氏

物量の変動が大きい農・水産物にみる、「平準化」のポテンシャル

物流の生産性向上に関する提言を行ったのは、朝日大学で物流システムを専門に研究している土井義夫教授。生産性向上の前提となる労働生産性の定義や、先行研究を紹介したうえで、トラック運送業における生産性向上について解説。少ないコストで同じ売上・利益を維持する方向性(例:省エネ運転の推進で燃料コストを削減)、同じコストで売上・利益を増加させる方向性(例:自社の業務内容に適合したソフト開発・導入)、多いコストで増加コストを上回る売上・利益の増加を狙う方向性(例:帰り荷の確保で実車率を上げる)を示し、「さらに今後期待されるのは、少ないコストで売上・利益を増加させる方向性。運送業務の取り組みだけでそれを実現するのは難しく、物流センター業務と輸配送業務を一体化したサービスが必要とされます」と述べた。

第1部の最後に登壇したのは、日通総合研究所の大島弘明氏。同社が取り組んでいる「物流平準化調査」の概要と途中経過を報告した。同調査の目的は、物流の平準化に向けて、荷主や物流事業者等の関係者の協働・連携や情報の共有等を推進すること。そのために、現状のトラックや鉄道、船舶における物量の変動を「波動」のマクロデータとして把握し、波動が発生する要因についてアンケートを中心に調査。物流の変動を緩和するための効果的な手法を分析することを目指している。

今回はさまざまな視点で抽出したマクロデータの中から、営業用トラックなどの自動車に関する波動分析結果の一部を解説した。例えば、貨物量は多いが曜日ごとの変動が少なかった品目は「取合せ品・食料工業品・日用品」。一方、貨物量は少ないが曜日ごとの変動が大きい品目は「畜産品・野菜果物・水産品」など。この結果をもとに、「考え方の一例として、食料工業品や日用品など輸送量の大きな品目のマッチングを図り、その中に貨物量が少なく波動の大きな農・水産品を吸収させることで平準化が期待できるでしょう」と平準化の方向性を提案した。

次いで、波動の大きな部分を対象に、その要因を深掘りするアンケート調査の結果を抜粋して紹介。波動の要因を荷主に聞いたところ、「顧客の発注が特定の期日、曜日などに集中するから」「ゴールデンウィーク、年末年始、年度末、就業時間等があるから」「季節商品だから」といった回答が上位3項目として挙がったという。

さらに、それらの要因に対して現状どのような取り組みをしているか、発荷主と着荷主の双方にヒアリング。発荷主側は「納品指定時間の変更もしくは緩和(幅のある時間指定・リードタイム・午後納品等)」「月末等集中納品の廃止等、繁忙時期の前倒し/後ろ倒し」「配送ロットの取り決め(ユニットロード単位の発注や最低発注単位の取り決め等)」を上位3項目に、着荷主側は「納品指定時間の変更もしくは緩和(幅のある時間指定・リードタイム・午後納品等)」「納品前の事前情報の共有による検品作業の免除等による作業時間の短縮」「月末等集中納品の廃止等、繁忙時期の前倒し/後ろ倒し」を上位3項目に挙げたという。「これらの取り組みを実施するためには、着荷主の協力を中心に、荷主と物流事業者の協働が不可欠です」と同氏は断言した。

また、今回は平準化を切り口とした解決策として、2つの成功事例をピックアップ。
ひとつが、とある卸売業者における配送ロットの見直しや配送曜日の変更による平準化だ。この企業では、配送量が少なく、かつ近隣の配送店舗密度の低い地域に対して、配送の定時化を提案。さらに、地域的に近い店舗に対しては、集約的に配送を行うことや、配送頻度を毎日から週2日へ変更することで1回あたりの配送量を増やし、必要な車両数やコストの抑制を実施した。この結果、トラックの出発時には、ほぼ満載の積載率で出発できるようになり、1回の配送で回る軒数も削減。配送距離や配送時間の短縮が実現できたという。

もうひとつの事例は、とある紙パルプ製造会社における、車両台数に合わせた出荷量の調整。従来は出荷量に合わせてトラックの台数をオーダーしていたが、当日利用可能なトラックの台数に合わせて出荷量を調整する方法に変更。車両が足りない場合は営業と折衝し、翌日到着でなくてもよいものの輸送を遅らせる、逆に車両に空きが出る場合は、倉庫等への出荷量を増やすようにした。これにより、閑散月の輸送の前倒しができるようになり、明らかにトラックの確保がしやすくなったという。

大島氏は、平準化を実施できた要因を荷主にヒアリングしたところ、「着荷主等の合意が得られた」を挙げる荷主が半数を超えていることを指摘。関係者の協働が不可欠であることを改めて強調した。

「すでにさまざまな取り組みが進められていますが、平準化に向けてやれることはまだたくさんあります。例えば、アンケートでは“波動のある荷主をマッチングさせるサービスの普及”を希望する荷主が半数以上いました。こうしたニーズに応えられると、平準化への道のりはまた一歩前進するでしょう。荷主・物流事業者の連携に向けて、ぜひ検討を進めていただければと思います」(大島氏)

サプライチェーン再設計の実現に向けて、業界全体の連携が鍵を握る

休憩を挟んだ第2部では、物流効率化に向けて積極的に取り組み、確かな効果を生み出している企業による、事例を交えた講演が行われた。

その中でもサプライチェーン最適化の好例として印象的だったのが、三菱食品による「製・配・販連携による効率化活動」の発表だ。登壇したのは、同社ロジスティクス本部統括GMの宮村陽司氏。同氏は現状の課題として、「社会環境の変化や食品物流環境の変化は周知のとおりですが、私どもは発着荷主の関係性にも大きな課題があると認識しています。すなわち、コミュニケーション不足に起因する需要のアンマッチが、サプライチェーンの非効率を助長しているのです」と提言。ひとつの企業単位での効率化追求や部分最適は限界に達しているという見解を述べ、「製・配・販を巻き込み、各社の垣根を超えた効率性の追求によって、業界全体として持続的な成長をしていく必要があります」と語った。

こうした課題解決のヒントとして、今回はいくつかの事例が紹介された。

最初に挙げたのが、「メーカー納品状況の見える化」だ。とあるメーカーと卸売業者の納品における荷待ち時間の常態化を調査したところ、納品時間は10年前に定めたものから変わっておらず、実態に即していないにもかかわらず、双方のコミュニケーション不足から可視化されていないことがわかったという。また、ドライバーの待機時間やその他付帯作業の情報は運送会社の内部で保有されており、ブラックボックス化している問題もあった。そこで、メーカーと卸売業者の双方で納品実態の把握ができるように三菱食品が保有する「受付・荷卸し・検品・受領」までのデータをメーカーへ提供。このデータを活用して発注タイミング・ボリュームや荷受け時間・接車バース等の運用調整を行い、待機時間の短縮を図るという。

次に、「カット商品(註:終売商品)計画終了」の事例も紹介したい。従来、小売サービスにおいては、商品の販売期間中にその商品が絶対に欠品しないように在庫を持つことが多かった。そのため、終売時に必ず在庫が余るので、無駄な返品や廃棄につながっていた。そこで、三菱食品と小売業者のあいだで、欠品了承期間を設けることで、残在庫発生を低減。さらに、商品カテゴリーや商品特性に応じて、欠品了承期間を細かく設定し、残在庫を限りなくゼロに近い段階まで持っていくことに成功。最終段階として、商品が欠品となった場合に発注を停止して代替商品を発注する、あるいは残在庫が発生した場合に他の店舗へ配荷するなど、欠品終了期間に起こりうる事象への対応ルールと役割の明確化を行うことで、残在庫発生を抑制しているという。

もうひとつの好例として、「情報共有の高度化による在庫適正化」を挙げる。同社がAIを活用することで自動発注ができないかを検証したところ、自動化できたのは46%で、残り54%は何かしら人が介在するのが現実であった。しかし、適切な発注数を判断するための情報が少ないがゆえに、いろんな人の思い入れや勘ぐりで無駄な在庫が生まれていた。そこで、各店舗の詳細なデータを物流センターに提供してもらい、発注・在庫コントロールを実施。店頭在庫やPOS実績はもちろん、店頭の陳列数までも把握してセンター在庫と連動させることで、廃棄ロスと返品の削減に貢献したという。

こうした取り組みに加えて、近年は同業他社との連携も推進しているという同社。「業界全体での効率化と異次元での連携が、生活者への貢献につながるのです」と大島氏は話した。

最後に同氏は、身の回りによく出てくる話題として、「納品(入荷)状況の可視化」「受付予約システム」「検品レス(小口ロット)」の3つを提示。これらの実現のためには、業界全体で一本の仕組みを作ることが不可欠であることを説明した。
「例えば受付予約システムにしても、すでに世の中にいろんなシステムが乱立していて、導入も容易にできます。結果的に卸売業者はストレスを感じなくなるかもしれませんが、各社に溜まったデータをメーカーや物流会社がどうやって活用するのか? それを考えると、現状では将来的に使われなくなる仕組みになりそうです。つまり、情報のプラットフォーム化が絶対に必要で、これは私ども一企業では取り組めないこと。そこをどうやって解決していくのか。そういったことをみなさんとディスカッションしていきたいと考えています」(大島氏)

セミナーの終わりには、総括として土井教授があらためて登壇。「かつては着荷主と小売がダイレクトにつながっていた時代があり、情報共有も十分にできていました。それが成長の歴史の過程で子会社化し、専業化して運送業が生まれた。関係者が多くなって生産の仕組みが複雑になった今こそ、どこでどのような課題があるのかを物流業界全体で見通し、対策を議論する必要があります。本セミナーをきっかけに、またみなさんと一緒に議論する場を設けながら、物流の未来を明るいものにしていけたら幸いです」と締めくくった。
朝日大学 教授 土井義夫氏
物流業界の各プレイヤーが集結し、生産性向上に向けた様々な提言が発表された同セミナー。今回の学びやヒントをそれぞれが自らの業務に生かし、平準化の鍵を握る「連携」が次々と生まれることを願う。

ライタープロフィール

ライター:松山 響
クリエイティブプロダクションにて、大学広報ツール、雑誌、書籍、企業ウェブサイトなどの編集・執筆を担当。そのほか、生協の週刊情報媒体に編集者として創刊から携わる。現在は大手広告会社に出向し、オウンドメディアのコンテンツ編集を通して、社内外に向けた広報活動に従事。IT、デジタル、マーケティング、食、教育、地方創生、インバウンドなど、対象分野は多岐にわたる。

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