倉庫管理システム(WMS)と最先端技術の融合で、 東芝グループが目指す「物流現場のベストマッチ」とは?

更新日:2017年8月21日

いまだかつてない“物流危機”ともいえる状況に揺れる物流業界。顕在化したさまざまな課題に対し、新たな戦略の立案が早急に求められている。
そんな中、倉庫管理システム(WMS)「LADOCSuite®(ラドック・スイート)」を中心に、最先端技術を用いて物流業界のイノベーションに挑む東芝グループ。
同ソリューションにはどのような強みがあり、どんな可能性を秘めているのだろうか。「LADOCSuite®」の生みの親である、東芝デジタルソリューションズ株式会社の黒木賢氏に話を聞いてみた。
東芝デジタルソリューションズ株式会社 インダストリアルソリューション事業部 クロスドメインソリューション技術第二部 物流ソリューション技術担当 参事 黒木 賢氏

荷量の増加に対して、マンパワー減少というジレンマ

トラックドライバー不足や再配達の問題をはじめ、我が国の物流にまつわる課題は、業界のみならず社会的にも関心の高いトピックである。
いまや、経済ニュースなどで物流に関する記事を目にしない日はないだろう。
一つひとつの話題を挙げればキリがないほどだが、とりわけ、コラム「問題が顕在化した今こそビジネスチャンス! 倉庫管理システム(WMS)やロボット活用で、物流業界の課題解決に挑む」でも取り上げた「人材不足」の問題は、物流現場のあらゆるシーンで慢性化している。

物流現場に長年携わってきた黒木氏も、物流業界が直面している大きな課題として人材不足の問題を挙げている。
「トラックドライバーの方々はもちろん、倉庫で作業される方々、ビジネスモデルを企画する方々を含めて、人材の絶対量は年々下がってきています。
原因は多岐にわたると思いますが、例えば世間の注目を集めているトラックドライバーでいえば、仕事としての魅力が低下しているのは間違いありません。
拘束時間が非常に長くて、その割に収入面におけるメリットが大きいとも言えない。労働環境に対する課題は、現場に携わるお客様もひしひしと感じているようです」

その一方で、EC市場の拡大に伴う荷量の増加が、物流業界のひっ迫に拍車をかけていると黒木氏は指摘する。
「人口が減っているのに荷量が増えているということは、店頭で買い物する人が少なくなったということ。
みなさんも身に覚えがあるかもしれませんが、飲料やトイレットペーパーなどをインターネットで買う人も増えていますよね。
ライフスタイルの変化に伴って、個人の荷物が増加しているのに対し、物流現場のマンパワーは減少しているというジレンマがあります」

さらに、黒木氏は「そのような状況下で、業務の効率化が図られているかといえば、じつは10年前とさほど変わっていません。
例えば、トラックの積載率はいまだに4割程度というデータもあります」と、作業効率の改善が十分になされていない点も課題に挙げた。

こうした現象は、倉庫管理の現場においても同じことが起きているという。
「ひと昔前なら、人がアクセスしやすい高速道路のインターチェンジ近くに倉庫を作れば、まず人手に困るということはありませんでした。
でも、今は違う。
人口減少が進む地域だと人を集めるのにも限界がありますし。
限られた労働力で増加する荷量に対応するためには、倉庫内業務の効率化が欠かせません」と黒木氏。

しかし、倉庫内における生産性を事細かに分析し、施策につなげている企業はまだまだ少ないと黒木氏は述べる。
「倉庫の中で作業する方々、一人ひとりの生産性を正確に把握されているかといえば、まだ十分ではありません。
単に時間あたりの生産高を割り出すだけでなく、例えば、作業ルートであったり、歩行時間や待機時間であったりなど、作業を細分化してどこにクリティカルな問題があるのかを分析できれば、まだまだ改革の余地はあると思っています」

多言語対応にEC倉庫向け機能も。
時代とともに進化し続ける倉庫管理システム

倉庫内業務における慢性的な人材不足と、十分な検証がなされていない生産性。
そこにテクノロジーの力を用いて変革をもたらすのが、入荷・入庫・棚卸・出荷といった一連の庫内業務の効率化とサービス品質向上を目指す倉庫管理システム「LADOCSuite®」だ。

同ソリューションはもともと、東芝グループの製造業を支えるロジスティクスとして開発され、1998年から一般の顧客向けにカスタマイズして市場にリリースされたもの。
東芝グループが長年培ってきた製造業のノウハウを生かして、各種メーカーやアパレル企業の倉庫管理業務を支えてきた。

物流業界を取り巻く環境の変化、時代の潮流に合わせて、機能強化とともに「LADOCSuite®」という名称に変わったのが2012年のこと。
黒木氏は、その背景を振り返る。
「グローバル化の波が物流業界にも押し寄せると同時に、倉庫で働く従業員も日本人だけではなくなったり、国内と同質の物流サービスを海外でも成し遂げたいというニーズが高まってきました。そこに対応するために、倉庫内の多言語対応を短期間かつ低コストで実現する機能を追加したのがきっかけですね」

また、日本における物流サービスの主軸を担う3PLの業務に対応していく狙いもあったという。
「私どもはメーカー物流からスタートしましたが、3PLの形態に対応していくためには、例えば複数の荷主様、複数の物流拠点に対応できるようなソリューションにアップデートする必要がありました。
荷主様や拠点ごとに業務フローや画面表示項目を変更すると、時間もコストも莫大にかかります。
そこで、荷主様の事情や倉庫の事情によって変わるものをパラメーター化し、それを変更するだけでカスタマイズができるような機能を導入したのです」と黒木氏。

さらに、EC市場の拡大に伴って、2016年にはEC倉庫に必要な機能を強化。
在庫型(DC)と通過型(TC)が混在する倉庫業務に対応したり、名寄せ機能の導入で配送コスト削減に貢献している。

「在庫型と通過型の共存によって、EC専門のお客様はもちろん、例えば従来は商品を小売店に納品していたメーカー様が、そのラインは維持しながら新規にEC事業を立ち上げるといった、業務展開にも対応できるようになります」と黒木氏が述べるように、EC事業者以外の企業にもこの機能は好評だという。

業務効率化のカギを握る、「考える手間を省く」という
コンセプト

「LADOCSuite®」には、単なる作業効率化ツールにとどまらない魅力がある。
実際に同ソリューションを導入した企業からの反響について、黒木氏はこのように語ってくれた。

「お客様からいただいたフィードバックの中でも手応えを感じたのは、<現場に新しい従業員が入ったときに、作業品質を保つための教育期間と手間が非常に低減された>とご報告いただけたこと。
特に物流業界は人の出入りが激しいですし、繁忙期に合わせて短期的に人手を増やすケースも多々あります。
そこで仕事を覚えてもらうのに1週間かかるのと、1日で済むのでは運用コストがかなり違ってきますよね」

そして、このような倉庫内業務の平易化こそが、同ソリューションの重要なコンセプトを体現しているという。

「時代の変化に合わせてさまざまな機能を追加してきましたが、その根底にある哲学はずっと変わらないんです。
それは何かというと、<いかに、人間が考える手間を省くか>ということ。
作業者が100人いるとして、その100人全員が段取りや手順を考えていたら、生産性はがくんと落ちます。
それをテクノロジーの力で自動的に計算して、事前に計画しておくことで、作業者に立ち止まらせない、100個の作業の優先順位を選ばせないことが大事なんです。
もちろん、そのための段取りを組む数人の熟練者や、倉庫全体をマネジメントする人はそれなりに考えなければいけませんが、数人ですから。
<考えさせない>というコンセプトが、この商品の一番の特長だと思います」と黒木氏は語ってくれた。

東芝グループの最新技術と「LADOCSuite®」の融合で、
物流イノベーションに挑む!

より時代に即したサービスへと進化を遂げた「LADOCSuite®」は、今後どのような形で物流業界の課題解決に取り組んでいくのだろうか。
近年、ビッグデータやAIロボットなど、最新技術を駆使したサービスがあらゆる業界で続々と登場しており、当然物流の世界にもその波は及びつつある。
黒木氏は、「LADOCSuite®」を中心に据えた上で、多種多様な最新テクノロジーを掛け合わせながら物流現場の改善に取り組む考えだ。

「物流業界においては、WMSは基幹システムのような位置付けです。
物流の中心を倉庫管理システムが担い、その周辺に必要なものとして、ICTだけでなくロボットやセンサー、メカトロニクスといった最新技術がある。
東芝グループの強みは、それら最新技術に取り組む部署が多数存在し、一緒に手を組んで独自のソリューションを創出できる点にあります」と黒木氏。

その一例として、二次仕分け工程におけるWMSとセンシング技術の融合を挙げてくれた。

「WMSから出荷指示が出た荷物がソーターを通過して、とある方面に運ばれます。
現状、そこからの二次仕分け作業は、人間がコードを読み取って行っています。
しかし、実際に作業者の荷物を運ぶ作業とコードを確認する作業をベンチマークしたところ、約6~7割が確認作業に時間を費やしていることがわかったんです。
夜間の作業になるほど目が疲れてくるし、年配の方ほどコードを読むのに時間がかかるし、海外の方は住所が読めないケースもありますよね。
こうした課題を解決する手段として、画像認識でコードを読み込み、荷物の行き先をセンサーでプロジェクションするという技術を構想しています」

こうした発想も、根底に流れているのは「考える手間を省く」というコンセプトだ。
人間の数は限られているからこそ、人間にできることと、機械にできることを見極め、貴重な労働力を最大限に発揮する。
とりわけ物流現場においては、ごく数人だけが業務フローや作業手順を計画し、他の大多数は考えなくても作業できる状態を実現することが、生産性の向上にも品質の向上にもつながるということだ。

「将来的には、事業計画や作業計画、お客様のクレーム対応といった部分を人間が担い、倉庫のオペレーションはロボットが担う、全自動物流センターの時代がやってくると思います。
今はその過渡期であり、まずは人間がやるべき作業と機械に任せられる作業の仕分けを行う段階。
直近の目標としては、人間と機械が情報を共有し合って、お互いに助け合いながら最大のパフォーマンスを発揮できるような仕組みを作り、<物流現場のベストマッチ>を追求していきたいと思っています。そのイノベーションの中心を担うのが、LADOCSuite®なんです」と、黒木氏はビジョンを語ってくれた。

なお、東芝グループはロジスティクス分野の最先端ソリューションが結集する展示会「ロジスティクスソリューションフェア2017」(2017年8月29日~30日、東京ビックサイトにて開催)に出展する予定である。
当日は「LADOCSuite®」の詳しい紹介だけでなく、温度管理ソリューションやRFIDの認識技術など、東芝グループの財産を組み合わせた独自技術もたっぷりと展示される模様。新たな物流戦略が求められる今こそ、見逃せない内容だろう。