量子インスパイアード最適化ソリューション「SQBM+™」を活用し、計算創薬への適用技術を検証

~新たなアロステリック制御予測技術で創薬ターゲットの大幅な拡大を目指す~

2022年6月27日(月)

東芝デジタルソリューションズ株式会社
株式会社Revorf

 東芝デジタルソリューションズ株式会社(本社:神奈川県川崎市、取締役社長:岡田 俊輔、以下 東芝デジタルソリューションズ)と株式会社Revorf(本社:東京都中央区、代表取締役:末田 伸一、以下 Revorf)は、東芝デジタルソリューションズの量子インスパイアード最適化ソリューションSQBM+注1を活用して、タンパク質のアロステリック制御(タンパク質に機能的多様性をもたらす立体構造や活性を特異的に調節する機構)注2の予測を、より高精度にする技術を開発し、計算創薬注3への適用性を検証しました。今後、本検証の成果を製薬企業や外部機関等へ開示すると共に、in vitro実験注4で実証を行い、創薬プロセスでの有効性の検証を進めます。この取り組みは、従来、創薬が困難と考えられていたタンパク質に対する創薬を可能とし、これまで治療が困難とされていた疾患に対する医薬品開発の可能性を広げます。

 本検証で活用した技術は、2021年7月から9月にかけて実施した「Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM 2021」注5において、Revorfおよびアヘッド・バイオコンピューティング株式会社と実施した「組合せ最適化ソルバーを活用した創薬ソリューションの検討」の成果注6を発展させて開発したものです。

 昨今、創薬プロセスにおいて、創薬ターゲット注7の枯渇が課題になっています。これに対して、アロステリック制御に着目した創薬手法(アロステリック創薬)では、従来、創薬困難とされていたタンパク質(undruggable target)を創薬ターゲット候補(druggable target)として見出すことが可能であり、ターゲットの枯渇という創薬課題の解決に期待が寄せられています。タンパク質におけるアロステリック制御部位注8を発見するためには、多大な労力と時間を要する in vitro実験が必要であることから、これを計算によって代替する技術が求められていました。
 東芝デジタルソリューションズのSQBM+は、株式会社東芝 研究開発センターにおける量子コンピューターの研究過程で発明されたシミュレーテッド分岐アルゴリズムを実装した組合せ最適化問題を高速に求解するソリューションで、計算量が膨大で従来のコンピューターでは解くことができなかった問題において最適解を見つけ出すことができます。本検証では、アロステリック制御の予測をSQBM+が得意とする組合せ最適化問題として解く新たな技術を東芝デジタルソリューションズとRevorfが共同で開発し、従来手法の計算で特定できていなかったアロステリック制御部位を計算で予測することに成功しました。
 本検証ではKRAS注9を含む複数のタンパク質に対して、SQBM+で計算し予測したアロステリック制御部位と、既知のアロステリック制御部位を比較し、従来の計算手法では特定できていなかった部位を、SQBM+による計算でより正確に予測できていることを確認しました。これによって、計算のみでアロステリック制御部位を発見でき、創薬候補化合物の探索を加速できる可能性が高まります。


計算によるアロステリック制御の予測
 
本検証で開発した技術はタンパク質の立体構造情報をもとに、タンパク質のアロステリック制御機構をSQBM+が得意とする組合せ最適化問題として定式化し、計算によってアロステリック制御を予測します。近年、クライオ電子顕微鏡注10によるタンパク質立体構造の決定やAlphaFold2注11などのAIによるタンパク質立体構造の予測など、タンパク質立体構造解析技術の飛躍的な躍進が報告されており、それに伴い多種多様なタンパク質の立体構造情報が急速に蓄積されてきています。今後、このタンパク質立体構造情報というビッグデータをもとにアロステリック制御を予測することが可能になることから、新たなアロステリック創薬手法として、新薬開発の加速と成功確率の向上が期待できます。

 株式会社Revorfの代表取締役である末田伸一は、「Revorfは、遺伝子情報やタンパク質情報などの生命情報を解析、応用することで、人々の健康に貢献致します。未だ有効な治療薬が存在しない疾患が多数あり、多くの患者様が苦しんでいます。本技術により、創薬可能な新規ターゲット領域を検出することで、創薬ターゲットの枯渇により有効な治療薬の創出が困難であるという課題の解決を目指します」と述べています。

 東芝デジタルソリューションズ株式会社の取締役社長である岡田俊輔は、「東芝デジタルソリューションズは、量子インスパイアード最適化ソリューションSQBM+を社会のさまざまな課題に適用し、さまざまな領域で複雑化する社会課題の解決に貢献していきます。今回、SQBM+により、創薬における課題であった創薬候補の枯渇を解決する技術への貢献を目指し、検証を行いました。今後は、さまざまな創薬の場面でSQBM+を活用することで、新薬開発の革新に貢献していきたいと考えています」と述べています。

 Revorfは、本検証によって得られた技術とRevorfの有するタンパク質機能解析技術を組合せ、新たな創薬ソリューションを提供します。

 東芝デジタルソリューションズは、本検証を含むSQBM+を創薬分野に広く活用してもらうことで、医療分野における社会問題の解決に貢献していきます。

■株式会社Revorfについて
 
Revorf は、独自のRNA等遺伝子検出解析技術やタンパク質情報解析技術、データ分析・AI 技術とを掛け合わせ、新しい医療技術・創薬基盤手法の確立を目指しております。

注1:
東芝デジタルソリューションズプレスリリース(2022年3月):量子インスパイアード最適化ソリューション「SQBM+™」の提供開始について:
https://www.global.toshiba/jp/company/digitalsolution/news/2022/0302-2.html

注2:
タンパク質は必要なときに適宜機能を発揮するように調節因子により制御されており、この機構をアロステリック制御という。調節因子が結合する部位(アロステリック制御部位)を標的にすることで、創薬ターゲットの増大、特異性の高い薬剤の創出、さらに副作用低減の可能性など多くの利点があるため、アロステリック制御部位を同定する技術は新薬開発の成功確率を高めるカギとなる技術と考えられている。

注3:
計算創薬:計算科学を利用して薬をつくる創薬手法。

注4:
in vitro実験:in vitroとは「試験管内で」という意味であり、in vitro実験とは、試験管や培養器内で生体内を模倣した環境を人工的に作り実験を行うことをいう。

注5:
東芝プレスリリース(2021年7月):「Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM 2021」参加企業8社と協業検討を開始し、プログラムが本格スタート:
https://www.global.toshiba/jp/news/corporate/2021/07/news-20210719-01.html

注6:
東芝プレスリリース(2021年9月):「Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM 2021」成果発表会を開催:
https://www.global.toshiba/jp/news/corporate/2021/09/news-20210927-01.html

注7:
創薬ターゲット:疾患の責任分子と想定されるもので、治療薬をデザインする際に標的とするタンパク質

注8:
アロステリック制御部位:タンパク質の活性中心以外の部位で、制御分子(アロステリック因子)が結合する領域

注9:
KRAS:がん遺伝子のひとつ

注10:
クライオ電子顕微鏡:液体窒素冷却下でタンパク質などの生体分子を観察することができる透過型電子顕微鏡。タンパク質の立体構造を高解像度で観察することが可能である。

注11:
AlphaFold2:DeepMind社が開発したアミノ酸配列からタンパク質の立体構造を解析するAIシステム。

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