オープンイノベーションが切り開くIoTの未来
MAMORIO×ifLink®プラットフォームで「見えない技術」を「見える価値」に

 「あたりまえに、気づかせる。」をミッションに掲げ、ビーコン技術を活用した紛失防止デバイス「MAMORIO」をはじめ、さまざまな製品・サービスを提供しているMAMORIO株式会社。同社は2023年から「東芝オープンイノベーションプログラム」に参加し、東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)との共創活動を開始。スタートアップ企業ならではの課題である人的リソース不足の解消や、新しいビジネス展開に向けた付加価値の創出、機能強化に東芝と共に取り組んでいる。この共創で生み出された近接検知サービス「MAMORIO.biz works with ifLink」の土台となったのが東芝デジタルソリューションズのifLink®プラットフォームだ。また、東芝との共創にとどまらないビジネスの拡がりを生み出すのが一般社団法人ifLinkオープンコミュニティだ(以下、ifLinkオープンコミュニティ)。

培ったサービスとノウハウを新しいビジネスに活かす


 同社は、2012年設立のスタートアップ企業であり、紛失物の探索に特化したタグ製品・サービスを提供している。「当初は“落とし物ドットコム”というSNSサイトの運営からスタートし、落とし物に関する社会課題の解決に取り組んできました」と語るのは、Business dev Alliance managerの塚越繁之氏だ。
 2017年にはBluetoothを活用した紛失防止タグMAMORIOを一般消費者向け(B2C)製品として販売開始。一方、法人向け(B2B)のソリューションとしては、法人向け所在管理ソリューション「MAMORIO Biz」を展開してきた。同社はB2C製品として大量生産・販売で培った製造能力や調達力、安定したサービスを提供するためのインフラ、強固なセキュリティなどを強みに、B2Bビジネスの一層の拡大を目指している。

 しかし、これらビーコン技術*1を活用したビジネスのさらなる拡大には、以下の課題があった。「ビーコンが発する電波や技術は目に見えないため、その価値や効果を顧客に説明する際にイメージしづらいものでした。また、B2B市場においては各企業や現場のニーズに合わせたカスタマイズが必要となりますが、スタートアップである当社はそこまでの人的リソースがなく、ビジネスの拡大がしづらいという課題を抱えていました」と塚越氏は振り返る。

 そこで同社は、東芝グループとスタートアップ企業との共創を促進する「東芝オープンイノベーションプログラム*2」のifLinkテーマへのエントリーを決めた。ifLinkテーマでは、東芝との共創に加えて、ifLinkオープンコミュニティへの参画がプログラムされている。ifLinkオープンコミュニティは、東芝とは独立した団体であるが、150を超える企業・団体が、その垣根を超えてオープンに交流しながら「誰もがカンタンにIoTを使える世界」を実現するために活動しているコミュニティだ。

Business dev Alliance manager
塚越 繁之氏

※1 Bluetoothを使用した無線通信技術の一種で、近距離の情報伝達や位置情報の取得を行うもの。
※2 東芝グループが持つビジネスアセット・先端技術を活用し、新たなイノベーションを起こす熱意を持つ企業を募集し、東芝グループとの協業を通じて応募企業の事業化の加速を支援するプログラム。

新たな市場開拓と一歩先の機能を目指して


 新たな市場開拓や機能拡張を目指していた同社と、安定したビーコン技術と供給力を持つ企業を求めていた東芝とのニーズがマッチしたことで取り組んだのが、同社のビーコン技術と東芝のifLinkプラットフォームを組み合わせた近接検知サービスの開発だ。

 ifLinkプラットフォームは、さまざまなIoT機器やWebサービスをモジュール化して、その組み合わせで便利な仕組みをつくることができるオープンなIoTプラットフォームだ。

 「MAMORIO Bizは2019年に開始し、ビーコンを利用して“発見する”、というこれまでのサービスから、一歩進んだプラスアルファのアクションに進化させることで、更なる市場の拡大をしたいと思っていました。」と塚越氏は言う。

 東芝としては、ビーコンを活用して人やモノの複合的な状況を検知して、ifLinkの力でIoTデバイスと連動させるビーコンサービスプラットフォームの構想を抱いていた。しかしその実現のためには質の高いビーコンデバイスを安定して供給できる企業との協業が不可欠。
 MAMORIO社には数十万のビーコン出荷実績がある。ここで両社の思いが一致した。
「ビーコンを情報提供の道具に使うという発想はこれまでになかったものでした」東芝からビーコンサービスプラットフォームの構想を聞いた時の事を塚越氏はこう振り返る。

 両社は共創活動を通じてビーコン付加情報を活用したさまざまなサービスの試作と実証を行い、そこから第一弾として生まれたのが近接検知サービス「MAMORIO.biz works with ifLink」だ。
 近接検知サービスでは、ビーコンを活用することで、来訪者や業務車両の近接を検知し、タイムリーに通知、表示することで人手不足の解消や、業務の効率化に貢献できるようになる。また工場などにおける様々な道具や設備といった資産管理においての活用も期待されている。例えばビーコンを利用した資産管理では、紛失の検知、早期探索が可能となり、時間のロスを大きく削減できるようにもなる。

わずか数ヶ月でサービスの立ち上げに成功


世界最小級のタグとカード型のMAMORIO

 この共創で大きなポイントになるのが、スピード感と柔軟性である。「我々の持つビーコン技術と東芝の持つ知識やネットワークといったお互いの強みを組み合わせることで、3ヶ月という短期間で今回の新たなサービスを立ち上げることに成功しました」と塚越氏。

 通常、開発には企画・設計から現場でのテスト、リリースまでかなりの時間とコストを要する。しかし、今回開発した近接検知サービスは、開発スタートから1ヶ月後には現場テストを行い、その2ヶ月後にはリリースを発表するなど、スピーディな開発を実現している。
 試作やテストにおいては、東芝の工場を現場として利用することで、迅速な開発とより実践的な製品開発やサービス提供が実現できた。

 「今回の共創のポイントはたくさんありますが、中でも、アイデアを市場に活かしていくためのビジネスドリブンな思考に集中することができたことは、大きなメリットでした」と塚越氏。

 さらに、ifLinkプラットフォームを活用することで、自社で開発する必要がなく、他社の製品やサービスとの連携も容易になった。その結果、同社単独では実現が難しかった柔軟性の高い機能やサービスの提供が可能となり、顧客のニーズに合わせフレキシブルに対応できるようになった。

ifLinkプラットフォームの活用で広がる可能性


 MAMORIOは、今回の共創によって「多岐にわたる効果を得ることができた」と塚越氏は言う。東芝の幅広いビジネス領域を活かし、今までアプローチできていなかった新たな市場への展開が可能となったのもその一つだ。

 「これまで技術の特性を説明するだけでは伝わりにくかった価値を、具体的なソリューションとして提案できるようになりました。また、設置場所の変更なども容易で、商業施設や工場、物流、工事現場などからも引き合いをいただいています」と塚越氏。

 「東芝が保有している大規模システムの構築やセキュリティ面における知見は、今後のサービス拡大において重要な資産となるでしょう。今後、グローバル展開の可能性も広がっていくと思います。特にASEAN(東南アジア諸国連合)地域など新興市場での展開において、今回の共創は大きな強みとなると期待しています」と塚越氏は高く評価する。

ビーコン技術の活用範囲をさらに広げたい


 同社は、「MAMORIO Biz works with ifLink 近接検知サービス」のリリースを足がかりに、多角的な展望を描いている。
 ビーコンの近距離通信の機能を活かして、近接検知にとどまらず、ビーコンを所持している人の好みに合わせた情報を提供するサイネージや、ビーコンを所持した人やモノがその場に全員揃っているかを確認するなどの利用も考えられる。
 「例えば、都市圏に限らず、各地方自治体へのアプローチも進めています。工場内での長時間労働の防止だけでなく、高齢者や保育園での児童の見守りとしてネームタグに活用するなど、さまざまな分野での幅広い活用を視野に入れています」と塚越氏は言う。

 同社はifLinkオープンコミュニティを介して、より多くの企業とのパートナーシップを構築し、自社のリソースだけでは実現困難な革新的なサービスや製品の開発を進めていくことにも意欲的だ。「ifLinkオープンコミュニティには、各企業の製品や技術が集まっています。これらを組み合わせれば、より付加価値の高いソリューションが提供できるようになります」と塚越氏。 

 このように、MAMORIOは技術革新と社会貢献を両立させながら、持続可能な成長を実現しようとしている。

 「東芝がオープンイノベーションに積極的に取り組んでいることは、日本の産業界全体にとっても非常に重要です。今回の協業を通じて、単なるビジネスの成功だけでなく、社会課題の解決や日本の産業競争力の向上にも貢献していきたいですね。今後とも、長期的なパートナーシップを築いていくことを楽しみにしています」と塚越氏は展望を語る。

 東芝とのifLinkプラットフォームを活用した共創を通じて技術力の向上、市場拡大、社会貢献の実現を目指すMAMORIO。両社の共創は、日本のオープンイノベーションをますます推進していく。

左から MAMORIO株式会社 太田 奈那氏、塚越 繁之氏、東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 ifLink推進室 吉本 武弘、磯崎 亜樹

ifLink®プラットフォーム

「ifLinkプラットフォーム」は、様々なIoT機器やWebサービスをモジュール化して、その組み合わせで便利な仕組みをつくれる、オープンなIoTプラットフォームです。
製造、小売・店舗、介護、エンタメ、教育、農業など、様々な現場のユースケースに適用可能です。スマートフォン、設置型ゲートウェイ、業務用タブレット、対話型ロボットなど、様々な情報端末に搭載可能で、商用サービスのスピーディな立ち上げやユーザーの利便性向上に貢献します。


ifLinkオープンコミュニティ

150を超える企業・団体が業界の垣根を越えて共創するifLinkオープンコミュニティ。
「誰もが簡単にIoTが使える世界」の実現のために、企業・学校・団体が集まって、共創活動、普及活動を進めています。
ifLinkオープンコミュニティは、東芝デジタルソリューションズ株式会社とは独立した一般社団法人です。

この記事の内容は2024年7月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

会社名
MAMORIO株式会社

設立
2012年7月

代表者
代表取締役 増木大己

本社所在地
東京都千代田区外神田3-3-5 ヨシイビル5F

事業内容
紛失防止デバイスの販売・サービス提供

URL
https://company.mamorio.jp/