東芝と日本マイクロソフトのデジタル事業現場トップが語る!
真のDXを実現する生成AIソリューションの姿とは

 ビジネスシーンでの利用が急速に拡大している生成AI。「ChatGPT」の登場によって第4次AIブームに突入したといわれており、今後もビジネスに与える影響は計り知れない。

 そのAIで50年以上の歴史を持つ企業が東芝だ。東芝グループのデジタルソリューション事業を担い、AIを含むさまざまなデジタル技術によるソリューションを提供してきた東芝デジタルソリューションズは、生成AIの第一人者である日本マイクロソフトとタッグを組み、生成AIを活用して顧客の業務課題を解決するための新しいソリューションを展開している。

 両社がタッグを組むことで、どのような新たなビジネス価値を生み出そうとしているのか。東芝デジタルソリューションズの月野 浩氏(東芝 常務執行役員/東芝デジタルソリューションズ 取締役常務 ICTソリューション事業部長)と日本マイクロソフトの大谷 健氏(業務執行役員 クラウド&AIソリューション事業本部 データプラットフォーム統括本部 統括本部長)の対談から、両社が見据える生成AIの現在地と、連携強化で目指す新たな価値を探る。

数字で読み解く 生成AIが与えたインパクト


――ChatGPTの登場以降、世界中で生成AIブームが起こっています。生成AIのインパクトについてどのように考えていますか。

日本マイクロソフト 業務執行役員
クラウド&AIソリューション事業本部
データプラットフォーム統括本部 統括本部長
大谷 健氏

大谷氏: ChatGPTの登場は世界に大きなインパクトを与えました。ユーザーはわずか2カ月で1億人に到達しました。全世界のユーザーが1億人を超えるのに、携帯電話は16年、インターネットは7年、SNSは4~5年かかったといわれていることを考えると、生成AIへの期待の高さが分かると思います。

 企業での活用も増えています。Microsoftが提供する「Azure OpenAI Service」のユーザーは全世界で5万3000社を超えています。生成AIが一過性のブームで終わらないことを裏付けています。

――東芝デジタルソリューションズは生成AIをどのように展開していく予定ですか。

月野氏: 東芝グループは、第一次AIブームの1950年代後半から半世紀以上にわたりAIの研究開発を進めてきました。世界初の郵便番号自動読取区分機や、誰もが利用している仮名漢字変換技術、日本語ワードプロセッサも東芝が開発したものです。その後も音声認識、画像認識、データ分析・予測による自動化、知能化など幅広く研究開発を続けています。

 最近では音声言語処理の東芝コミュニケーションAI「RECAIUS」(リカイアス)、データ分析・画像解析の東芝アナリティクスAI「SATLYS」(サトリス)といったAIソリューションを提供しています。これらは全て生成AIへとつながっています。

東芝 常務執行役員/東芝デジタルソリューションズ
取締役常務 ICTソリューション事業部長
月野 浩氏

 当社はお客さまの価値向上を目的に、生成AIが寄与する4つのDX、「ヒト(社員)DX」「顧客接点DX」「プロセスDX」「モノづくりDX」を設定しています。それぞれに対して当社が取り組む3つの活用領域(エンタープライズ、設計・開発、マルチモーダル)の生成AIソリューションを展開し、お客さまのDXを支援します。併せて、DX実現に必要な業務のデジタル化もトータルで提案します。

 当社が提供する生成AIの価値は「生成AIテクノロジー」「インテグレーション&イノベーション」「IT環境」「セキュリティ&コンプライアンス」の4つで、それぞれにおいて自ら先行して活用しています。そこで得られた実践ノウハウに基づいた生成AIソリューションの開発を推進します。

東芝デジタルソリューションズが描く生成AI活用展開マップ

大谷氏: 企業での生成AI活用に対して、セキュリティ面や心理的なハードルからためらいを感じる人もいるでしょう。まずは日常業務で活用することが最初の一歩として重要です。

 生成AIの活用に慣れれば、自社が保有するデータを使って業務を効率化させたいと思うはずです。各社が持つ価値あるデータを扱うことで、より業務に生かせる生成AIの活用が期待できます。

 コスト削減や業務効率化は各企業が取り組むべきことで、重要なのはその先にあるビジネスモデル自体を変革する“真のDX”を実現することです。まずはチャットbotなどを日常業務で活用しつつ、並行してイノベーションにつながる活用法を検討するのが成功パターンだと考えます。

東芝デジタルソリューションズ×日本マイクロソフトが描く新しいDXの形


――今回、東芝デジタルソリューションズと日本マイクロソフトは生成AIに関する連携を強化しました。第1弾として東芝デジタルソリューションズの人財管理ソリューション「Generalist®」(ジェネラリスト)シリーズで、生成AI対応版をリリースしましたね。

月野氏: 日本マイクロソフトとの連携強化のポイントは、「Microsoftの生成AIテクノロジーの支援」「イノベーション&AI応用の支援」「Azureクラウド環境・技術の支援」「企業ユースで必要となるセキュリティ、プライバシー対応」を受けられることです。具体的な実装環境として、Azure OpenAI Serviceを活用しています。

 今回、より密な協力スキームの成果として、当社の人財管理ソリューション「Generalist」に生成AI連携機能を追加しました。Generalistは人事給与管理、就業管理、eラーニング・教育管理、タレントマネジメント、従業員サービスに活用できる5つのサービスから成り立っています。まずはeラーニング・教育管理ソリューション「Generalist/LM」にAzure OpenAI Serviceを活用した「テスト問題作成支援機能」をリリースしました。

 Generalist/LMでは、当社が販売している教育コンテンツをご利用頂ける他、ユーザー企業自らが教育コンテンツを作成できます。最近はユーザー企業の担当者が習熟度・理解度テストを作成することが多くなっています。テスト問題は、教育の鮮度を保つため定期的に内容を変更して作成する必要があり、担当者にとって負荷が高いものです。その負担を少しでも軽減するため、習熟度・理解度テストと問題の解説を生成AIで作れるようにしました。生成AIはさまざまなバリエーションの問題作成に非常に適しているのです。

 Generalistシリーズでの生成AI活用はこれだけにとどまりません。今後もさまざまな生成AI対応機能を次々と拡充し、人事給与管理ソリューション「Generalist/HR/PR」への対応も予定しています。

 昨今、企業ではDX人材育成やリスキリングへの関心が高まっています。生成AIに対応したGeneralistシリーズを、お客さま企業の「ヒト(社員)DX」に役立てて頂ければと思います。

――今回の協力体制について、大谷さんはどのように捉えていますか。

大谷氏: MicrosoftはクライアントOSの「Windows」、オフィススイートの「Microsoft 365」、クラウドサービス群の「Microsoft Azure」を提供しています。共通しているのはプラットフォームである点です。ただ、ビジネス課題はプラットフォームだけでは解決できず、有効なソリューションが必要です。

 東芝デジタルソリューションズのGeneralistシリーズとMicrosoftの生成AIというプラットフォームがタッグを組むことで、新しい解決策を作り上げていけるはずです。日本で生成AIがインパクトを発揮する意味でも、今回の連携は意義があると考えています。

セキュリティ面を重視したAzure OpenAI Service


――生成AIサービスの実装環境としてAzure OpenAI Serviceを選んだ背景や理由を教えてください。

月野氏: 東芝グループは公共分野で利用されるシステム構築を多く手掛けており、開発・実装基盤の選定にはセキュリティ面を重視しています。生成AIサービスの実装環境に関しても、OpenAIと密な関係にありセキュリティ面で安心感のあるAzure OpenAI Serviceを選びました。

大谷氏: 企業で生成AIを活用する場合、セキュリティ面に不安があるはずです。データを保護し、プライバシーを管理している状態を維持する必要があります。Azure OpenAI Serviceは閉域ネットワークで使用でき、不正アクセスから情報を守れます。

 MicrosoftはAIに関する研究開発を長年進める中で、お客さまがAIを安全に利用できる取り組みに力を入れています。技術的にセキュアであることは当然として、生成AIがもたらす生成物に対して説明責任を果たせる機能を盛り込んでいるのです。

 生成AIの精度が向上したことで、「成果物が著作権を侵害する可能性がある」という指摘があります。この点に関してMicrosoftは、Azure OpenAI Serviceで作られた成果物について、お客さまを著作権侵害から守る「カスタマーコピーライトコミットメント」(Customer Copyright Commitment)を宣言しています。

 製品を提供する際に「サービスレベルアグリーメント」(SLA)を交わしている点も、コンシューマー向けの生成AIサービスと一線を画すポイントです。

東芝デジタルソリューションズが自ら実践する生成AI活用術


――東芝デジタルソリューションズは業務で生成AIを活用していると聞きました。どのように実践していますか。

月野氏: 2023年8月から東芝グループの全社員が「Microsoft Copilot」(旧:Bing Chat Enterprise)を利用できるようになっています。

 生成AIで正確な回答を得るためには、正しいプロンプトを使うことが肝心です。これに関しては有識者が作成したプロンプトの社内投稿コミュニティポータルを新たに準備して知見を共有しています。

 また、生成AIの活用術の1つである「RAG」(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)ソリューションを開発し、自社でも導入しています。これは生成AIに社内データを参照させ、検索と回答の精度を高め、社内データをより活用してもらうための仕組みです。営業部門の最前線から試験導入し、大きな成果がありました。

 これまでも商品資料データベースはあり、営業部門も自由に利用できていました。しかし、知りたい内容が記載されている文書データを探し出すのに時間と手間がかかったため、7割の人は活用していませんでした。そこで、商品資料など約4000文書を当社のRAGソリューションに登録しました。

 RAGを使うと、営業部門が「知りたい内容」を自然な質問文で入力すれば、生成AIが質問の意図を解釈し、適切な資料を素早く取り出せます。その結果、お客さまからの問い合わせに回答する時間が大幅に短縮しました。導入後、営業部門を対象に実施したアンケートでは8割以上が「今後も積極的に使いたい」と答えています。お客さまとの接点というコア業務に時間を割けるようになり、お客さまのニーズに沿った適切なサービスを届けられるはずです。

RAGの活用で、営業部門の85%が商品資料データベースを使い続けたいと回答

産業・製造分野にも生成AIを導入


――両社の連携体制の展望を教えてください。

月野氏: 第2弾として、モノづくりDXを支える当社の製造業向けソリューション「Meister」(マイスター)シリーズにも生成AI機能を付与して提供する予定です。

 生産計画を正しく実行するには、日々の生産実績を収集、整理する必要があります。Meisterシリーズでは、工場の稼働状況や製造実績など、さまざまなデータを一元管理し、可視化・活用できる統合データ基盤を提供しています。生成AIの活用で、歩留まりや不具合発生時の原因究明、製造方法の効率化といった予測が可能になります。

大谷氏: 多くのお客さまから「生成AIでこんなことができないか」と相談を頂きますが、肝心のデータがない場合があります。データがなければ生成AIは“宝の持ち腐れ”になってしまいます。東芝デジタルソリューションズが提供する業務ソリューションには、ユーザー企業の支援を通じて蓄積した多くの知見とデータが搭載されています。生成AIを使ってそれらのデータを活用できれば、今までにはなかったインサイトが出せるはずです。

 強固な協力体制を通してお客さまのビジネスをより良くするお手伝いができればと思います。お客さまの事業が伸び、その先にいる人々の生活がより快適になる――こうした世界を共に実現したいと思っています。

月野氏: この協力体制の最大の目的は、生成AIを活用してお客さまのビジネスモデルを変革する真のDXの実現です。そのためには業務をデジタル化する必要があり、東芝はそれを「デジタルエボリューション」(DE)と呼んでいます。

 DEの段階で生成AIを取り込めれば、DXにつながる仕組みを容易に構築できます。当社は生成AIを活用して改革を進めたいと考えていますし、お客さまに提供する価値も向上できると信じています。今後もさらに連携を深化させ、サービスの価値向上を追求していきます。

――ありがとうございました。

  • RECAIUS、SATLYS、Generalistは、東芝デジタルソリューションズ株式会社の日本またはその他の国における登録商標または商標です。
  • Microsoft、Microsoft 365、Azure、Microsoft Edge は、米国 Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
  • Microsoft 365は、Microsoft Corporationが提供するサービスの名称です。
  • 記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです(2024年5月)。
    この記事はITmedia AI +に2024 年5 月に掲載されたコンテンツを再構成したものです。無断転載を禁止します。

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