調達の見積業務を効率化・標準化
3000社のサプライヤーと500名のバイヤーをつなぐ電子見積システム

競争の激しいデジタル家電分野を皮切りに、調達分野における見積業務の効率化や標準化を実現すべく電子見積システムを導入。個人に依存した見積手法から標準見積書をベースにした電子見積へ移行したことで、サプライヤーに最適な調達フローのIT化を実現。グローバル調達を含めた展開を視野に、電子見積のさらなる強化を目指している。

パナソニック株式会社 本社


Before

競争の激しいデジタル家電を商品とするAVCネットワークス社において、見積業務が各工場に分散していたため、最適な見積価格を入手できなかった。バイヤーそれぞれの持つノウハウや情報の共有と、見積業務の効率化、見積価格の低減を目指し、グローバルプロキュアメントセンター(GPC)とともに、集中、集約による徹底的なコスト低減と業務の標準化を検討。

After

電子見積業務をクラウドサービス(当時のASPサービス)として利用することで、工場と物理的に離れたGPCでも迅速な価格決裁と情報共有が可能になった。また、最適なサプライヤー選択が可能となり、当システムを他社内カンパニーでも展開すべく、業態にあわせた標準見積書を策定。海外拠点も含めた電子見積基盤として、グローバル調達を支えるシステムとなった。

調達部門における見積業務の効率化および標準化プロジェクトが始動


 創業者である松下幸之助氏が唱えた綱領に基づき、「生産・販売活動を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与すること」を経営理念におくパナソニック株式会社。その事業領域は、家電を中心に空調設備、照明器具、住宅設備、映像やモビリティソリューション、車載機器、電子部品など多岐にわたっており、日本を代表する総合エレクトロニクスメーカーとして業界を強力に牽引している。グループの従業員数は27万人を超え、グローバル企業として多くの人々の暮らしを支えている。

パナソニック株式会社には四つの社内カンパニーがあり、その一つが映像ソリューション事業やモビリティソリューション事業を手掛けるAVCネットワークス社(以下略称AVC社)である。2003年、同社は調達本部を中心に、見積業務の効率化、および標準化を目指したプロジェクトを立ち上げた。

競争の激しいデジタル家電領域で求められるスピード感


モノづくり本部
モノづくり強化センター
調達力強化グループ 企画チーム/
IT革新チーム チームリーダー

森下 達一 氏

 AVC社(当時はPAVC社)は、デジタルカメラや携帯電話、PCなど最先端のデジタル家電を取り扱っており、全社の中でも特に競争が激しい社内カンパニーである。「AVC社ではいち早く、電子見積システムの国内導入を完成させており、この成功事例を横展開させたいと考えたのです」と語るのはモノづくり本部 モノづくり強化センター 調達力強化グループ 企画チーム/IT革新チームの森下 達一チームリーダーだ。特に他社内カンパニーでも、安価で高品質、かつ短納期を可能にする部材調達ニーズが強かったという。

それまでは見積業務が各工場に分散していたため、最適な見積価格を入手できなかった。そこでプロジェクトでは、バイヤーそれぞれの持つノウハウや情報の共有と、見積業務の効率化、見積価格の低減を目指し、グローバルプロキュアメントセンター(GPC:AVC社内での各事業部が行う契約、購買業務を一つにまとめた事業部横断組織)とともに、集中、集約による徹底的なコスト削減と業務の標準化を検討した。

また、同グループ IT革新チームの川見 忠宏参事は「システムを一から構築するのではなく、すぐに導入展開に専念できるシステムが求められました。システム展開を加速するためにも、既に実績があって、柔軟なシステムを探しました。」と当時の状況を振り返る。

電子見積システムが全社的な調達業務の標準的な基盤へ


 「そこで目に留まったのが、東芝ソリューションからクラウドサービス(当時のASPサービス)として提供され、AVC社での導入実績のあった電子見積システムでした。選定のポイントとして、この調達改革成功の実績は非常に大きかったですね」と森下氏は振り返る。また、自社で一から構築する必要のないクラウドサービスだったため、活用促進に特化し、迅速に現場に浸透させやすいという点も導入を促進させた。工場と物理的に離れたGPCでも、迅速に価格決裁、情報共有することができるようになった。

実際のAVC社での運用実績では、調達コストはもちろん、品質やリードタイムも加味した上で最適なサプライヤーが選択できるようになったと高い評価を受けることになる。その流れを受けて、この電子見積システムを全社的な調達業務の標準化につなげようという取り組みである「CITA(コーポレートITアーキテクチャー)」における最初の統制モデルとして選ばれたのだ。

そして、2006年より白物家電を中心とする現在のアプライアンス社(旧ホームアプライアンス社)にも展開し、現在はAVC社とアプライアンス社や、他社内カンパニーとパナソニック・グループ関連会社の国内約70拠点、海外約30拠点で電子見積システムを活用している。

 このアプライアンス社の導入に際して新たに策定したフォーマットがある。AVC社の場合、材料仕入から最終製品まで自分たちで作るため、部材の調達フローはシンプルである。それと違い、アプライアンス社では加工サプライヤーとの見積業務が中心で、同社が最終完成品として組み立てるという工程を経る。それゆえ、サプライヤーがどこから部材を調達してどういう形で製品を作っていくのかの工程まで含めて見ていく必要があったのである。「そこで考えたのが、サプライヤーごとに製造プロセスが詳細に記載できる標準見積書でした。ビジネスモデルの違いから、より詳細に作りこみました」と、同グループ IT革新チームの山本秀行主事は力説する。「電子見積システムの本来の目的は、創業者の考え方にもあるサプライヤーとの“共存共栄”です。原価を分析して無駄な調達をしていないか、老朽化した設備を更新することでさらに効率化につながるのではないかなど、サプライヤーにも我々のノウハウをフィードバックできる。標準見積書は、私たちとサプライヤーがお互いの強みを発揮するためのものです。この内容を分析していくことで共存共栄の道が見えてくると考えています」(川見氏)。

モノづくり本部
モノづくり強化センター
調達力強化グループ IT革新チーム
参事 
川見 忠宏 氏

3ヵ国語に対応、グローバル調達にも展開


 現在は、厳選された3000社ほどのサプライヤーと500名を超える社内バイヤーをつなぐ電子見積のための基盤として活用されている。また、標準的なフォーマットである標準見積書によって収集されたデータを基に分析を行うなど、最適なサプライヤーを選定するための基礎データを収集する際にも活用されている。AVC社と取引のあるサプライヤーがアプライアンス社のバイヤーとやり取りできるという、社内カンパニーを横断した調達も可能になった。

日本語のみならず英語と中国語に標準対応した電子見積システムは、中国、マレーシア等に工場を持つアプライアンス社の海外拠点でも積極的に利用している。「海外の場合、若手のバイヤーに標準見積書を自ら作成してもらうことで、原価構成の理解につなげるための人材教育のツールとしても役立っています」(川見氏)。

また、大手サプライヤーとの契約が多い数万点にも及ぶ継続品に関しては、一律の価格改定依頼を行うなど、調達価格の調整と見積業務の簡素化を実現している。実際にサプライヤーが回答する場面では、見積内訳をExcel上でマクロ連携し、自動的に電子見積システムに反映される仕組みを採用しており、ユーザーインターフェースの変更だけでさまざまなサプライヤーに対応できるようになっている。このような、システムそのものの柔軟性についても高く評価されている。

モノづくり本部
モノづくり強化センター
調達力強化グループ IT革新チーム
主事

山本 秀行 氏

 川見氏は、「コストやリードタイム、クオリティなどシステム導入のKPIとなる指標はいくつかありますが、特にコスト面での効果は確実に出ています」と説明する。また、見積業務の効率化については「IT化によって見積から発注に至る業務フローを確実に経ることでその証跡がログとして残り、透明性が確保され、CSR向上の面からも大いに役立っています」(川見氏)。

「東芝ソリューションは我々の業界に精通しているからこそ、標準化プロセスのあるべき姿のアドバイスなどもしてもらい、大変感謝しています」と森下氏は評価する。ヘルプデスクの対応についても「我々への対応はもちろん、サプライヤーに対してもしっかりサポートしてくれます。海外からのコールへの対応など、かゆい所に手が届くサポートで助けてもらっています」と山本氏の評価も高い。

他社内カンパニー、および海外へのさらなる展開を推し進める


 今後は、AVC社やアプライアンス社をはじめ、導入している事業場の中でさらに適用範囲を広げていきながら、電子部品などを取り扱うオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社への展開も予定している。「他にも、海外のサプライヤーと比較する場合に検討すべき関税や物流費などをどのように考えるべきかなど、詳細に分析を進めていきたいと考えています」と山本氏はその意気込みを語る。

2015年に予定されているリプレースでは、ネットワーク帯域の広くない海外の拠点であっても快適に利用できるよう、サーバー側でレスポンス改善のチューニングをする計画となっている。「アジアを中心に海外シフトがこれからも進んでいきます。海外で利用しやすい環境作りをさらに推し進めていきたい」と森下氏は今後の展開を語る。

パナソニック株式会社では、電子見積システムを日本のモノ作りのノウハウを活かすための重要なツールとして位置づけている。また、東芝ソリューションへは、コンサルテーションから運用支援までのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを提供するパートナーとしても期待している。

東芝ソリューションは現在、このシステムを戦略調達ソリューション「ProcureMeister」として、電子見積に加えさらに幅広い機能を提供している。これからも、同社が推し進めるグローバル調達の中核基盤として、強力にバックアップし続けていくことだろう。

この記事の内容は2014年7月16日に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

会社名
パナソニック株式会社

創業
1918年3月7日

代表者
取締役社長 津賀 一宏

所在地
大阪府門真市大字門真1006番地

概要
部品から家庭用電子機器、電化製品、FA機器、情報通信機器、及び住宅関連機器等に至るまでの生産、販売、サービスを行う総合エレクトロニクスメーカー

URL
http://panasonic.co.jp/index3.html