東芝グループのグローバル統合調達のノウハウを結集サプライヤーコミュニケーション基盤となる「ProcureMeister®」
東芝グループでは、調達部門を起点とした利益の最大化とリスクの極小化を図るべく「品目別戦略」「パートナー戦略」「調達COPQ削減」の3つを柱とした調達イノベーションを推進中。これを支えるIT基盤の見直しとして、東芝調達IT武装強化プロジェクトを発足し、活動している。そこで培われたノウハウを取り込んだのが調達ソリューション「ProcureMeister®」である。
この東芝グループの調達ノウハウが詰め込まれた「ProcureMeister」は、見積内訳まで管理できる電子見積機能や汎用文書管理機能をはじめ、取引先調査機能やBCM機能などサプライチェーン全体のリスク管理にも効果を発揮するサプライヤーコミュニケーションなど、戦略的調達システムとして既設の調達システムと連携し、より使いやすいシステムを実現している。
Before
事業領域ごとに調達の仕組みが構築されていたことでシステムが縦割りとなり、データの有効活用が困難だった。また、各カンパニーの取りまとめを中心に行うコーポレート調達部門が手掛ける統合調達において、スケールメリットを発揮する機会が少なかった。
After
品目及びパートナー戦略、そして部門間連携による調達コストの削減と調達業務高度化に向けたインフラ作りを断行。詳細な見積内訳の管理や取引先調査、BCM管理など調達情報基盤を整備。
調達業務の高度化を目指したプロジェクトがスタート
2013年10月、およそ10年ぶりに大幅に組織改編した株式会社東芝では、「電力・社会インフラ」「コミュニティ・ソリューション」「ヘルスケア」「電子デバイス」「ライフスタイル」の5つの分野の事業にクラウド&ソリューション事業を横断的に展開できる体制となった。東芝グループの総合力を結集してグローバルに事業を展開、新たな価値の創造と生産性向上を追求し、「創造的成長」の実現を目指している。
東芝グループでは、事業領域ごとに調達システムが存在しており、個別に最適化された状態で運用されていた。そのため、日々発生する調達データは、全社横断的に有効活用できない状況だった。従来、各カンパニーの取りまとめを中心に行っていたコーポレート調達部門には、グループ共通で利用可能な素材や部材を調達する統合調達品目を拡大しバイイングパワーをより一層発揮させるなど、現状のシステムを見直すことにより、それまで以上にスケールメリットが発揮できる可能性があった。
そのような状況の中、現在は東芝の田中 久雄取締役 代表執行役社長がコーポレート調達部長に就任した2007年に、東芝の調達部門のあり方の見直しを唱え「調達イノベーション」を断行することになった。その調達イノベーションの一つとして、統合調達の機能を強化しながら対象調達品目のカバレッジを高めるとともに、調達業務において高度な専門性が発揮できる機構改革を目指した。
調達イノベーションで掲げられた“3戦略・3基盤”
株式会社東芝
調達部 戦略調達企画担当 グループ長
片山 琢 氏
調達イノベーションの中心となる3つの基本戦略とは、調達品目のポートフォリオを定めて全社的な調達の最適化を図る「品目別戦略」、調達先にあたるパートナーとの関係の最適化を図る「パートナー戦略」、そして社内の部門間連携を進めていくことでコストダウンに繋げる「調達COPQ※1削減」だ。
品目別戦略は、従来は鉄・樹脂など素材系が統合調達の中心だった統合調達を、LCDなど部材に対象を拡大するなど、より一層のスケールメリットを追求するための戦略であり、各カンパニーに点在している専門性の高いバイヤーを集約するといった体制変更もあわせて行っている。パートナー戦略は、カンパニーの事業方針を直接取引先トップに伝えると同時に、トップ同士の交流を図る経営情報・調達情報説明会等をグループ全体で行う一方、さらなるコスト削減に向け、パートナーと製造プロセス改善の検討により原価低減活動に取り組む活動も実施することで、より重要取引先との関係緊密化を図る戦略である。調達COPQ削減は、例えば設計部門であれば、他の製品で利用している部材と同じものをあらかじめ設計に組み込む意識を持ってもらうことで、部材の調達コストを抑えるなど、部門間連携に調達の視点を持ち込むことによるコストダウンを行う活動が中心となっている。
また調達イノベーションでは、3つの基本戦略を実現するために「調達人材の育成」「調達遵法の徹底と調達CSR推進」「調達ITシステムの整備」という3つの基盤作りにも取り組んでいる。調達人材については、スキル・経験の情報まで含んだ調達人材データベースを元に、計画的な人材の強化を進めている。調達遵法は、CSRポリシーに準拠した調達を通じて企業市民としての社会的責任を果たせる体制構築を図っている。
そして「調達ITシステムの整備」では、リアルタイムな品目情報を海外も含めて収集・分析することで品目別戦略に活かしたり、全社での共通取引先の情報などを可視化することでパートナー戦略に活かしたりすることが可能な基盤構築を目指している。「当時の田中調達部長 (現・代表執行役社長)がイメージしたのが、ボタン一つで世界中の調達情報が可視化できる仕組みを作り上げることでした」と語るのは調達部 戦略調達企画担当 片山 琢グループ長だ。このIT化を推進するために動き出したのが「調達IT武装強化プロジェクト」と呼ばれるものになる。
※1 COPQ(Cost of Poor Quality)/品質不良や欠陥などのために生じる無駄なコストの総称。設計変更などで発生する目に見えないコストも含まれる。
調達IT武装強化プロジェクトが目指したもの
2007年に調達イノベーションがスタートし、およそ1年かけて調達IT武装強化プロジェクトのグランドデザインを作成。その後2008年より、当時の田中調達部長がプロジェクトオーナーに就き、コーポレート調達部門及びIS部門がプロジェクトメンバーとして参画、各部門長が最終的な意思決定を行う体制を整備した。また、各カンパニーの調達システムと調達企画の担当者を交えたシステム戦略委員会を編成し、実務を議論するためにおよそ40名弱のメンバーが招集された。その中で東芝ソリューションは、グループ会社として調達担当及びIS担当が参加したのはもちろん、プロジェクトをサポートする事務局の一員としても参加した。
それまで東芝グループでは、事業領域ごとに個別最適化された調達の仕組みが拠点ごとに構築されており、縦割りのシステムとなっていた。また、調達関連データは日々生成されていたものの、全社横断的に有効活用されることなくカンパニーの中に埋もれていく状態が続いていた。そこでプロジェクトでは、まずフェーズ1として調達DWH※2の一部としてデータの蓄積を行うことになった。そして、システムごとに異なるデータ構造の品質を高めていくデータ整備をフェーズ2として設定。検討されたのが、個別サイトごとに導入するのではなく、データ品質の保証と業務の標準化、効率化を同時に実現することが可能なクラウド基盤の構築だった。プロジェクトは、2011年から新たなフェーズに突入していくことになる。
※2 DWH(Data WareHouse)/企業の経営戦略や意思決定に役立つ情報を、組織内に蓄積した大量の業務データベースから分析・抽出するシステム。
サプライヤーコミュニケーション基盤としての「ProcureMeister®」
今回の調達IT武装強化プロジェクトで構築した調達システムのポイントは、一般的な伝票処理系の調達システムの外側にあたる、調達先となるサプライヤーとのコミュニケーションに重点を置いた基盤作りである。「最初にコンタクトさせていただいてから、市場の状況なども含めて最終的に取引が終わるという、取引先とのおつきあいにおけるライフサイクルの各段階に応じて情報が管理できるインフラを作り上げています」と片山氏。そこで活躍しているのが東芝ソリューションの「ProcureMeister」だ。調達部の松田恭典参事は「調達業務において重要になるのが見積の部分。さまざまな取引先から同時に見積をもらい、それらを比較、評価するのが調達における重要な業務になります。まずは見積内訳が詳細に把握できるようシステム化を行いました」。
株式会社東芝
調達部 参事
松田 恭典 氏
東芝ソリューション
製造・産業・社会インフラソリューション事業部 製造ソリューション 技術部 製造ソリューション 技術担当 グループ長
小川 雅弘(左)
同上
主査 セールスエンジニア
瀬戸口 達也(右)
システム・インテグレーションのパートナーに選ばれた東芝ソリューションは、ProcureMeisterについて、「元々は電子見積機能を中心とした機能が実装されていましたが、今回のプロジェクトをきっかけに機能の拡張を行いました。調達IT武装強化プロジェクトのノウハウをパッケージ化して組み込んでいます」と製造・産業・社会インフラソリューション事業部 製造ソリューション技術部 製造ソリューション技術担当の小川グループ長は言う。具体的には、詳細な見積内訳まで管理できる機能だけでなく、関連する技術文書や機密文書を安全な形で受け渡しできる仕組みが情報管理上必要になるため、不定形文書の交換機能も同時に実装。さらに、「取引先調査の効率化、及び調査結果のDB化機能が備わっています。平時にはサプライチェーン全体の部材調達における一次/二次サプライヤーの状況を可視化することによるリスクの把握が可能となるだけでなく、激甚災害など有事の際には、サプライチェーン全体の影響調査を迅速に行うことが可能なBCM※3などがポイントとなっています」と東芝ソリューションの同部・セールスエンジニアの瀬戸口主査は語る。
プロジェクトで苦労した点について松田氏は、「カンパニーごとの幅広い業務に多くのバリエーションが存在しており、共通項を見つけ出して標準化していくことに大変苦労しました」とその当時を振り返る。実際にプロジェクトでは、2週間に1回のペースで仕様をつめていき、開発側で仕様書に落とす段階では月1回のペースで確認会議を行うといった流れで進められた。「会議には多くの事前準備や調整が必要でした。当時の田中調達部長にもサポートしてもらいプロジェクトを進めていきました(松田氏)。「パソコンやテレビなどのデジタル家電と発電所などの重電系では、作るものもビジネスサイクルも大きく異なります。事業バリエーションが多いと情報網羅要件が異なるため、標準化は簡単ではないのが実態です」と振り返るのは片山氏だ。
※3 BCM(Business Continuity Management)/災害など有事に重要な業務を早期に再開させ、リスクを最小限にするため平時から事業継続計画を策定するとともに、その導入・運用・見直しという継続的改善を含む事業継続のためのマネジメント。
戦略的な情報活用とオペレーション業務の統一を目指して
松田氏は、「現在開発がおおよそ完了した段階ですので、これから実装された仕組みを各カンパニーで活用してもらい、戦略的に調達情報を活用していきたい。」と語る。また、片山氏は「今回のシステムによって情報系の一本化ができるようになった。今後は基幹システムも含めて業務のオペレーション系を統一していきたいと考えています。調達オペレーションそのものをグループで均一化していくことで、生産性向上につなげていくことができるはずです」と今後の展望について語った。
東芝グループ全体の調達システムを統合し、グローバル市場も見据えた統合調達の新たな扉を開いたProcureMeister。プロジェクトにゴールがあるわけではなく、常にブラッシュアップが求められている。東芝ソリューションは、これからもグループ全体の調達ITシステムを強力に支えていく。
この記事の内容は2013年12月11日に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。
COMPANY PROFILE
会社名
株式会社東芝
設立
1875年(明治8年)7月
代表者
取締役 代表執行役社長 田中 久雄
本社所在地
東京都港区芝浦1-1-1
事業内容
電力・社会インフラ、コミュニティ・ソリューション、ヘルスケア、電子デバイス、ライフスタイルの5事業、および全社横断的にICTを推進するクラウド&ソリューション事業。国内外グループ590社、従業員約21万人の総合力でグローバルに事業を展開。