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Vol.28 情報資産の価値を高める デジタル変革を支えるソフトウェア生産技術

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#02 キーワードは「段階的進化」と「6つのRe」 ITモダナイゼーションの手法と実践事例 東芝デジタルソリューションズ株式会社 角 慎吾

長い期間にわたり運用されてきたシステムは複雑化し、その維持や管理にかかるコストが肥大化してビジネスや社会の変化への迅速な対応が難しくなっています。企業が価値あるデジタルトランスフォーメーションを実現させるためには、これらの課題を克服することが必須です。東芝デジタルソリューションズでは、これまでに培ったモダンアプリケーションの実現につながるさまざまなノウハウを活用し、既存のシステムに先進のデジタル技術を適用するITモダナイゼーションを推進。多種多様な領域で既に多くの実績を上げています。ここでは「段階的モダナイゼーション」というITモダナイゼーションの新たな選択肢について、技術的な手法や考慮点などを解説し、実際に企業価値の向上を実現した最新の事例をご紹介します。当社は今後、これらの事例から得た経験と知見を結集し、ITモダナイゼーションのモデル化にも取り組んでいきます。

段階的モダナイゼーションという選択肢

長年にわたる機能追加・拡張により複雑化したシステムを最新技術で刷新するITモダナイゼーション。その目指すところは、システムを改善・拡張しやすく、連携しやすい状態に保ち、常にビジネスの進化と歩調を合わせて企業とともに成長していくシステムの実現です。

しかし、既存のシステムを一気に近代的な新しいシステムに刷新するためには、かなりの時間とコストがかかります。既存のシステムに蓄積されているデータや実装されているアーキテクチャーを整理し、システム全体をくまなく把握した上で仕様を決め、自社にとって最適なシステムの姿を求めていく。こうした作業には多くのプロセスと時間が必要とされるため、システム刷新を躊躇(ちゅうちょ)させる原因になりかねません。

そこで当社は、一括したシステムの刷新だけでなく、「段階的モダナイゼーション」という選択肢を用意。お客さまごとに異なる課題解決の優先順位に沿って、既存のシステムを継続して利用しながら新しいシステムへの段階的な移行を可能にします。既存の資産を分類、整理し、改善する順番を決めた上で、ITモダナイゼーションを順次実施する。例えば、マイクロサービスアーキテクチャーを導入して変化に強いサービス環境の整備から始める、外部のSaaS*と連携させてまずはビジネススピードを改善させるなど、お客さまにとって価値の高い効果を優先的に提供していくITモダナゼーションです。

*SaaS:Software as a Service

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早期の価値提供を目指し、2軸でモダナイズ

当社では、この段階的モダナイゼーションを「アプリケーションのモダナイズ」と「インフラのモダナイズ」という2つの軸で整理しています(図1)。

図1 ITモダナイゼーション体系

アプリケーションのモダナイズでは、従来のモノリシックなアプリケーションを、マイクロサービスに段階的に移行することを目指します。必要な機能の全てがひとつのアプリケーションに詰め込まれた一枚岩(モノリシック)なアプリケーションアーキテクチャーを、機能ごとに細かく分割したサービスの単位で開発や運用を行うマイクロサービスアーキテクチャーに移行することで、それぞれの機能(サービス)が独立したコンポーネントになっていきます。負荷が高い機能のみスケールさせたり、システムを全停止することなく、部分的な機能強化に容易に対応したりできる点が魅力です。

一方、インフラのモダナイズでは、オンプレミスで動いているシステムにコンテナ技術を適用し、さらにはクラウドを活用するなど新しいインフラの姿へと移行していきます。お客さまの課題やビジネスの状況、求めるアプリケーションの特徴などに応じてゴールとシナリオを設定し、ITモダナイゼーションを進めていきます。まずはインフラのモダナイゼーションを優先し、マイクロサービスへの移行を図る、機能をマイクロサービス化した上でインフラをオンプレミスからクラウドへと進化させる、あるいはアプリケーションもインフラも同時に移行を進めるなど、ITモダナゼーションのさまざまな経路を用意。あるべき姿を定義した上で、お客さまの業務課題とニーズに合わせて、適切かつ段階的な移行を実現します。

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「6つのRe」を体系化。最適な手法を組み合わせる

アプリケーションとインフラの両軸に沿ってステップアップしながらITモダナイゼーションを進めていくにあたり、当社では具体的な手法を体系化しました。既存のシステムで利用されている機能ごとに、変更の必要性に応じて6つの手法から選択します。

東芝デジタルソリューションズ株式会社 角 慎吾

まず、現在使用中ではあるものの、継続的に変更が発生する機能に対しては、そのままの構成で移行する「Re-host」、PaaS*を利用して部分的にクラウドに置き換える「Re-platform」、機能をパッケージやSaaSなど他の製品に置き換える「Re-purchase」、マイクロサービスなどクラウド向けのアーキテクチャーで再構成する「Re-architect」の中から最適な手法を選択し、クラウド上に再構築を行います。また使用中であり今後も変更が発生しない機能に対しては、維持にかかるコストなども検証した上で、手を加えずに現在の構成のまま使い続ける「Retain」で問題ないかどうかを検討し、既に使用していない機能については、縮小あるいは撤廃する「Retire」を検討します。

*PaaS:Platform as a Service

ただし、ITモダナイゼーションは、ひとつの手法のみでシステム全体を段階的に移行できるものばかりではありません。実際に移行を検討する際は、これらの手法の中から、要件に合わせて最適な手法を組み合わせるケースも多々あります。

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モデル化につながる、先進モダナイゼーション事例

当社ではこれらの考え方と手法に基づき、現在多くのお客さまのITモダナイゼーションを進めています。生産技術センターによる研究開発の成果を次々にモダンアプリケーションの開発手法に落とし込み、社会インフラで培ったソフトウェアの品質管理技術に、IoT*やAI*、さらにはビッグデータ処理などの応用技術を融合。幅広い領域で実績を上げています。

*IoT:Internet of Things(モノのインターネット),AI:Artificial Intelligence(人工知能)

そのひとつが、コニカミノルタジャパン株式会社様の事例です。同社にはヘルスケア向けサービスシステムの次世代化に向けて、サービスマンの顧客対応力強化とワークスタイル変革を目指す業務視点の課題と、同社の設立(ヘルスケア事業会社と複合機などを扱うビジネスソリューション事業会社の合併再編)に伴う将来の拡張性、連携性を視野に入れた業務プロセスとシステムアーキテクチャーをデザインするIT視点の課題がありました。

業務視点の課題で特に明確かつ優先度が高い要件はモバイルの活用でした。これまでサービスマンは現地訪問前の準備、作業実施後の報告を事務所のパソコンで行わなければならず、事務所作業ありきの業務となっていました。また、外部パートナー(外注のサービスマン)はシステムを利用できないため、外部パートナーの作業報告などは社内のメンバーが代行で入力しており、拠点のサービスマンは作業負荷が高い状態でした。こうした負荷を改善するために、外出先で作業予定の確認や作業報告を容易に行えること、そして外部パートナーのシステム利用(モバイル限定)を可能(代行入力をなくす)とするモバイル機能を開発することとなりましたが、将来の拡張性や連携性を視野に入れながら、モバイルなどの新しい機能をどのように実現するのかが課題でした。

そこで当社は、RetainとRe-platformの手法を用い、モバイルの活用に必要な機能のみをクラウドに置き換えるITモダナイゼーションを提案。業務アプリやデータベースがイントラネット内で結ばれた現行のシステムはそのままに、モバイル端末と容易に連携できるAPI*を新たに実装してシステムを再構築しました(図2)。

*API:Application Programming Interface

図2 段階的なITモダナイゼーションで、顧客対応力の強化とワークスタイルの変革を実現

これにより、アフターサービスの現場でモバイル端末から点検結果を入力するだけで、スムーズに報告が完了する環境が実現し、サービスマンの業務効率化につながりました。さらに、入力されたデータは過去の保守履歴や営業履歴とひも付けて管理され、よりきめ細かな顧客対応や部門横断的なコミュニケーションも可能になりました。

同社のシステムは、働き方改革とフィールドワークの品質向上、さらには全社業務の最適化にもつながる高度なシステムへと短期間で生まれ変わりました。しかし、改善はこれでは終わりません。今後は、既存の機能を段階的にクラウドに移行し、BI*の適用やAR*、音声機能の追加、そしてクラウド上の各種サービスの活用や、外部のSaaSと連携するなど、システムのさらなる進化を視野に入れています。

*BI:Business Intelligence,AR:Augmented Reality(拡張現実)

当社では今後、このような各種事例を通じて得た実践的な知識と経験をモデル化し、お客さまそれぞれに対して、最適かつ効率的なITモダナイゼーションを提供していきます。新しいシステムへの移行方針や計画策定といった超上流からお客さまを支援し、資産の移行はもちろん、基盤の構築、テスト、運用までを一気通貫でサポート。生産技術センターとソリューション開発部門や事業部門との密接な連携によって、当社はトータルなICTソリューションパートナーとして、お客さまと共にビジネスの変革と新たな価値の創出に取り組んでいきます。

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年1月現在のものです。

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