火力発電所へのAI導入に高度な知見を発揮へ
火力発電所には、安全かつ効率的な運用により、人々が安心して電気を使えるための環境づくりが恒久的に求められています。計画外の停止で電力の需給に支障をきたすことは許されません。プラントの故障やトラブルなどの問題が発生する前に異常を検知して未然に防ぐことの重要性の高さが、他の産業領域以上に重要視されるゆえんです。
プラントの監視は、温度や圧力、流量などのセンサーデータを元に行われます。数十万個に及ぶ部品と、化学・熱・機械・電気など多数の物理相からなる大規模システムに起こる異常の兆候を、人の経験や勘だけで正確に見抜くことは不可能です。従って部品の交換は、故障の兆候があるなしにかかわらず、一定の期間ごとに一律に実施せざるを得ず、保守・メンテナンスコストが大きな課題となっていました。
これを解決するため、当社は火力発電所におけるプラントの異常検知にSATLYS分析メソッド(図1)を用いて、より高い精度で異常を検知することができないかに取り組みました。
一般的に、設備や部品の状態を推定するために物理モデルを利用するアプローチは、プラント内の複雑な物理現象を詳細な動的モデルとして構築する必要があり、推定のための計算量も膨大となります。一方、データドリブンによるアプローチで異常を検知するためには、膨大なデータが必要となる上、獲得したモデルの構造が理解しにくい、いわゆる「AIのブラックボックス化」を避けられません。
そこで私たちは、物理モデルとデータドリブン、両方のアプローチを融合させたハイブリッド型のモデルを構築する手法を選択しました(図2)。
約3,000点のセンサーから収集された27万件ものデータから、設備が停止する直前のセンサー値の変化および内部の状態の推移を特徴量として抽出し、仮想(デジタル)空間上に火力発電所の“デジタルツイン”ともいえるAI動的モデルを構築しました。このモデルに対して、給水量や燃料などの火力発電所を運転する際の条件や、発電出力の目標値を設定して、その挙動を解析しました。その結果、発電所の主要な蒸気や水の循環系統の配管漏れなどを保守点検員が現場で気づく前に検知できる可能性があることが分かりました。それ以外にもこのモデルと実際のデータは、さまざまな異常の検知や燃料の節約など最適な運転条件の検討にも活用できると期待しています。
東芝の分析メソッドと分析技術
東芝のものづくりにおける設計・製造・試験ノウハウや運用・保守の知見と蓄積した大量データをベースにデータ分析のプロセス、手順、技術、分析ロジック、ツールを「分析メソッド」として標準化し、データ分析による価値を短期間で最大化します。
データモデルの利点と欠点
火力発電所におけるプラントの異常検知には、物理モデルとデータドリブン両方のアプローチを融合させたハイブリッド型のモデルを構築する手法を選択しました。