「TOSHIBA OPEN INNOVATION FAIR 2019」セミナーから概観する
CPSテクノロジー企業へと舵を切った東芝の現在地【前編】
世界有数のCPS(サイバー・フィジカル・システム)テクノロジー企業を目指すことを2018年に掲げた東芝グループ(以下、東芝)。 モノなどが存在する実世界(フィジカル)とそこで発生する多様なデータが収集・蓄積されるデジタル世界(サイバー)とを相互に連携させることで新たな価値を提供していく、CPSテクノロジー企業への変革に取り組む東芝の今について、2019年11月7~8日に行われた「TOSHIBA OPEN INNOVATION FAIR 2019」の主要セミナーをもとに概観する。
CPS事業において成功するために欠かせないビジネスモデル変革
東芝は、幅広い事業領域のフィジカル分野で培ってきた経験や実績を生かし、現場から得られるデータをAIなどのサイバー技術により理解・分析し新たな価値を創出する、CPSテクノロジー企業への変革に向かって、昨年からグループをあげて取り組みを推進している。
ビジネス面で中心的な役割を果している執行役常務 最高デジタル責任者
島田太郎が重視するのは、ビジネスモデルの在り方だ。「CPSで一番重要なのはデジタルビジネスモデル。我々がプラットフォーマーになりたいということと同義」と自らの講演で述べている。
モジュラー化されたプラットフォームでは、他社のサービスも含めて1つのサービスとしてサブスクリプションで提供することになり、そのプラットフォーマーが持つアセットは非常に軽い。例えば、部屋を持っていないAirbnbが世界最大のホテルチェーンとなっている。ただし、このような2サイドプラットフォーム(*)の場合、両方のお客様を満足させないと成立しないという側面もある。例えば、Uberにとってはドライバーと乗客の双方がお客さまで、双方が揃ってはじめてビジネスとして成立する。
また、ハードウェアで成功している企業ほど、自分自身でビジネスモデルを転換することが難しく、これがDXを阻むことになっている。例えば、ビルの監視をクラウドでやってみようと標準品を使うと、他社の製品ともつながれるようになり全体のコストは下がる。だが、反面、売上的には専用品を組み合わせた方が良いため、カニバリゼーション(自社の商品が自社の他の商品を侵食してしまう「共食い」現象)が起こる。
このようにプラットフォーマーになることや、ビジネスモデルを転換することはたやすいことではないが、こういった変革は何度も起こってきているのである。では、従来からのビジネスを継続しつつ、変革を進めていくにはどうすればよいのか。
東芝自身はCPSテクノロジー企業を目指す中で、GoogleやFacebookのようにプラットフォームを作るデジタルトランスフォーメーション(DX)と、デジタルエボリューション(DE)と呼ばれる、バリューチェーンを効率化していく2つの取り組みを行っている。「連続的なデジタル化をDEと呼び、非連続なデジタル化であるDXとは区別して考えている。この両方に取り組む必要がある」と島田は説明する。
ここ10~20年ほどは製造業受難の時代ともいえ、サイバー企業がPCやスマートフォンから集めたデータを活用して巨大な企業価値を作ってきた。しかし、アリババが盒馬鮮生(フーマフレッシュ)を、アマゾンがAmazon Goを始めるなど、サイバー企業がフィジカルなビジネスへの参入を進めていることからも、サイバー to サイバーのビジネスだけでは限界を迎えていることがわかる。「東芝は自動改札機やETC(高速道路の料金収受システム)、POSシステム(販売時点情報管理システム) など非常に多くの製品をフィジカルな世界に実装してきた。ここから得られたデータを活用でき、かつサイバー企業の情報と組み合わせて新たな企業価値を我々も作ることができるのではないか、というのが世界有数のCPSテクノロジー企業になるという考え方の根本にある」と島田は述べた。
東芝が勝負をかけるインダストリアルIoT領域とは
現在、東芝は、インダストリアルIoT(IIoT)サービスの開発を進めている。東芝はどの領域で戦っていくことになるのか。「自分たちの勝てる領域で、勝てる戦いをすることが重要だ」と島田は力説した。
東芝グループにおいてマーケットシェアが高い事業領域として挙げられるものの1つが、国内トップシェアを誇るPOSシステム(販売時点情報管理システム)だ。日本ではEC化率が10%に満たず、購買データの多くが実はフィジカルな世界に存在している。このような状況から、店舗のPOSレジでレシートの印字データそのものを電子化して買物客のスマートフォンに提供することができる「スマートレシート
(東芝テック(株)」を開発、実証実験ではクーポンの使用率を高めるという効果も検証している。
また、自動運転などにも活用されている画像認識プロセッサ「Visconti」(東芝デバイス&ストレージ(株))、そしてグローバルで人工知能関連特許の数が第3位を誇る東芝のAI技術などと組み合わせ、物流領域への展開なども視野に、ソフトウェアプラットフォームとして提供して行くことが検討されている。さらに、高速道路の基幹システムや、電力系統を安定化するための基幹システム、二次電池「SCiB」
((株)東芝
)など、国内でもトップシェアを誇るソリューションを数多く手掛けている。このように、東芝で長年蓄積した顧客基盤や技術、製品を最大限に活用できる領域に注力してサービス化し、高収益かつ高成長なCPS事業を立ち上げようとしている。
オープンコミュニティによるビジネス創出の取り組み
「IoTに関しては、3つのAが必要だ」と島田は説く。安価であるべきという「Affordability」、簡単に組み合わせが可能な「Agility」、そしていつでも使える「Availability」だ。
東芝のひとつの取り組みとして、スマートフォンで簡単にIoTを実現する「ifLink」がある。ifLinkのさまざまなモジュールをブロックのように組み合わせることで、スマートフォンにつながる機器同士をつなげて動作できるIoT環境の構築が可能になる。しかし、それを実現するためには、さまざまな機器に対して仕組みが埋め込まれる必要がある。東芝は「ifLinkオープンコミュニティ」設立に向けて準備を進め、同コミュニティの参加企業が共同でifLinkの利用を拡げ、ビジネスをの創造につなげようとしている。「つながるIoTの世界を、日本発で作っていきたい」と島田は力説した。
- (*)2サイドプラットフォームとは「異なる2種類のユーザー・グループ(典型的には売り手と買い手)を結び付け、取引の場となる基盤や環境を構築し、提供するサービス」のこと。
- ※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年11月現在のものです。
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