生産技術センター

東芝の研究開発・技術

生産技術トピックス

基礎収益力を向上させるエンジニアリングプロセスの変革手法

  • 知識・情報システム技術

 従来,製造業の基礎収益力を向上させるために,工程や部品の標準化や共通化などのように,固定要素を増やしてエンジニアリングコストを下げる手法が使われてきた。今回,受注生産など多品種少量生産への対応を考慮し,顧客の様々な要求に応えながら変動要素に効率良く対応し,基礎収益力を向上させるエンジニアリングプロセスの変革手法を確立した。変革手法は“事業の合理化”,“エンジニアリングプロセスの合理化”,“営業段階への反映”の3段階で構成される。
 事業の合理化では,製品戦略や,製品仕様,設計変更などによる事業への影響を,部品コストや設計工数などで定量的に把握する評価手法を開発した。知識ばらし™により体系化した事業情報を,プロセスフロー図と機能ブロック図に展開し,事業全体の整合性と合理性を評価する。この評価手法により,仕様変化がシステム全体に及ぼす影響を明確にでき,受注設計型製品での手戻り抑制や,研究開発要素の重要性評価に有効である。
 エンジニアリングプロセスの合理化では,機能や処理をモジュール化して組み合わせる従来の手法に加えて,機能や処理のフローに着目したモジュール化手法を考案した。この手法は,ハードウェア・ソフトウェアに限らず適用でき,機能が多く組み合わせが複雑な製品においても,機能の追加や入れ替えによる影響範囲が小さく,カスタマイズが容易になった。この手法を適用したことで,組み込みソフトウェア製品の設計工数が80 %低減した。
 営業段階への反映では,概略仕様を入力しただけでも,禁則を考慮しながら未確定仕様を自動で設定する機能を開発した。また,見積もり手順をモジュールにすることで,平易で少ない質問に対する回答を基に,見積書を出力するスプレッドシート型コンフィグレーターを開発した。これにより,インフラシステム製品の見積もり工数を30 %削減した。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2021 Vol.76 No.2 2020年の技術成果
基礎収益力を向上させるエンジニアリングプロセスの変革手法

ディープラーニングによる高精度なメーター読み取り技術

  • メカトロニクス技術

 インフラ・エネルギー系の施設には,ネットワークに接続されていないメーターが多数存在し,作業者が巡回点検,帳票作成を行っている。省力化のために,カメラの画像からメーターを自動的に検出し,表示値を読み取って数値データ化するメーター読み取り技術が,求められている。従来は,数値の読み取りに2値化や細線化などの画像処理技術を用いていたため,低コントラストや,かすれ,環境光の反射などの影響を受けやすく,読み取り精度の向上が難しかった。
 今回,数値読み取りアルゴリズムに6層ディープラーニング(CNN:Convolutional Neural Networks)を適用し,読み取り精度が従来の56.8 %から99.7 %へ向上した。また,画像取得,メーター位置探索,及び数値読み取りの三つの処理を並列化するソフトウェアの最適化を行い,更に,シングルボードコンピューター上で推論アクセラレーターを用いることで,撮像から読み取り結果出力までの処理時間を130 msから33 msに短縮した。これにより,作業者や,AGV(Automatic Guided Vehicle),ドローンなどの移動中に撮影した画像からの,高精度なメーター読み取りを実現した。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2021 Vol.76 No.2 2020年の技術成果
ディープラーニングによる高精度なメーター読み取り技術

AI・IoTの活用によるモノづくりの自動化

  • 光応用・画像検査技術/知識・情報システム技術/機械構造・製造技術/生産エンジニアリング技術

 従来のモノづくりでは,加工工程や組立工程の作業に熟練者の経験値を必要としてきたが,熟練者の不足により,熟練者以外も作業できることが求められている。そこで,AI・IoT(Internet of Things)を活用することで,各工程の暗黙知であった作業を形式知化し,モノづくりを自動化する技術を開発した。
 レーザー溶接では,製品形状や周囲環境の変化によって最適な溶接条件が変わることがある。そのような変化をリアルタイムに捉えながら溶接条件を修正できる,自律型の制御システムを実現した。カメラで撮像した加工点の画像から溶接状態の特徴をAIで自動抽出し,あらかじめ用意した溶接条件のデータベース(DB)に照合して,良否判定や条件制御へフィードバックする。
 ろう付けでは,AIを適用することで外観検査を自動化し,検査結果と加工中の温度変化をひも付けることで加工条件を適正化する仕組みを構築した。
 ワイヤ放電加工では,加工点からの放電パルス信号を採取し,信号の状態を分類する統計手法を用いて,加工状態を良否判定するシステムを開発した。
 手作業による組立工程では,生産現場の映像からAIを用いて作業者位置を検出し,動線や主作業・手待ち時間などを自動分析できるツールを開発した。これにより,従来は熟練技術者がIE(生産工学)手法などを駆使して分析していた作業効率や負荷状況などを,自動で把握し,リアルタイムに現場課題の抽出や生産性向上施策の立案ができるようになった。
 熟練者の経験値を形式知化した自動化技術をモノづくりの現場に展開し,人材不足への対応や作業効率の向上に貢献していく。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2021 Vol.76 No.2 2020年の技術成果
AI・IoTの活用によるモノづくりの自動化

物流・製造現場の省人化を実現する自律移動ロボット

  • 知能化ロボット技術

 物流・製造現場で作業者が行っている“運ぶ”を自動化する自律移動ロボットを開発し,東芝グループ内の製造工程への適用を開始した。
 多くの移動ロボットは,床に貼り付けたガイドテープに沿って,2輪駆動で走行する。そのため,回転半径を意識した走路設定や,走路変更時のガイドテープの貼り直しが必要になる。また,小回りが利かないことは移動時間が増加する原因にもなる。これらの課題を解決するために,レーザー距離センサーにより周囲環境を計測し,自己位置を認識しながらの自律走行とメカナムホイール(注)を用いた全方向移動が可能な自律移動ロボットを開発した。この自律移動ロボットは,検査プローブを持つロボットアームと組み合わせて搬送と検査工程を自動化し,省人化と検査データのトレーサビリティー向上に貢献する。
 今後,上位システムと連携して自律移動ロボットの移動・作業履歴を見える化し,製造工程の更なる効率向上を目指す。

  • (注)車輪円周上に45°の角度でローラーが取り付けられた車輪。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2021 Vol.76 No.2 2020年の技術成果
物流・製造現場の省人化を実現する自律移動ロボット

物流センターの全自動化に貢献するピースピッキングロボット

  • 知能化ロボット技術

 物流現場での省人化要求の高まりを受け,商品のピッキング作業を自動化するピースピッキングロボットを開発し,大手物流施設事業会社がデモンストレーション用に展示する全自動物流システムの主要機器として納入した。
 ピッキング作業の自動化では,商品を出し入れする保管箱や出荷箱内で,商品や箱に衝突することなく箱の隅々まで手先が届くロボットが必要になる。また,倉庫内で使用するため,設置空間の広さにも制限がある。開発したロボットは,従来の直線状のハンドに比べて手先をより遠くまで伸ばせるL字状ハンドと,このハンドに対応して衝突しない把持位置姿勢を算出する高速計画技術を導入した。これにより,設置性の高い小型ロボットながら,箱の隅にある商品へもアクセス可能となり,自動倉庫と連携可能な毎時500個相当(注)のピッキング処理速度を実現した。
 今後も,ピッキング作業の更なる自動化・高速化技術の導入を進め,物流分野の省人化に貢献していく。

  • (注)積載状況や商品サイズなどにより変動する。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2021 Vol.76 No.2 2020年の技術成果
物流センターの全自動化に貢献するピースピッキングロボット

高出力化と高効率化を実現する新モーター駆動システム

  • 制御技術

 巻き線を結線せずに引き出したオープン巻線モーターを,2台のインバーターで駆動するシステムを開発した。このシステムは,高出力時の駆動電流増加に伴うパワーデバイスや放熱器の大型化を抑制し,小型かつ低コストで高出力化と高効率化を実現できる。
 従来のモーターは,中間出力時に高効率となる設計で,幅広い出力範囲に対応させていた。一方,開発したシステムのモーターは,低出力時に高効率となる設計で,低出力時は開閉器を閉じて従来と同じインバーター1台で駆動する。ここで,インバーター1台駆動のままでモーターを高出力化すると,駆動電流が増加し効率が低下する。そこで,高出力時は開閉器を開いてインバーター2台駆動とし,従来のインバーター1台駆動と比較してモーターに約1.7倍の電圧を出力して,駆動電流を約40 %低減した。
 インバーターの出力に応じて駆動方法を切り替えることで,従来に比べて高出力化と高効率化を実現した。開発したモーター駆動システムは世界で初めて(注)業務用空調機に適用され,今後,他の社会インフラ製品にも展開していく。

  • (注)2019年12月時点,ビル用マルチ空調システムにおいて,当社調べ。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2021 Vol.76 No.2 2020年の技術成果
高出力化と高効率化を実現する新モーター駆動システム

Siパワーデバイスのプロセス開発を効率化するウエハー反り予測技術

  • 材料・デバイスプロセス技術

 近年,パワーデバイスの抵抗値を低減するために,素子構造が縦型化されているが,これによりウエハーは反りやすくなり,搬送系におけるトラブルの原因となっている。このようなトラブルによる試作回数の増加を抑制するには,シミュレーションによるウエハー反り量の予測が有効である。しかし,反りの原因となる数μmの素子構造を,ウエハーサイズにまでそのまま拡張すると,計算負荷が大きくなり現実的ではない。
 そこで,製造工程ごとにSiパワーデバイスのウエハー反り量を予測する応力シミュレーション技術を開発した。開発した技術では,素子を構成している複数の材料を,力学的性質が等価な単一材料に置き換えることで,計算精度を損なうことなく計算負荷を従来の数億分の1に低減した。このシミュレーション技術を用いて,製造プロセスを通したウエハーの反り量変化を予測することで,製造プロセスのインテグレーションや開発期間の短縮,及び素子設計へのフィードバックが図れる。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2021 Vol.76 No.2 2020年の技術成果
Siパワーデバイスのプロセス開発を効率化するウエハー反り予測技術

新しいエッチング加工法を用いたSiキャパシターの大容量化技術

  • 実装技術

 車載用制御ICでは,ICチップで生じる電磁ノイズの低減が重要である。今回,大容量のSiキャパシターを低コストで製造する技術を開発し,これをICパッケージ内に搭載することで,ノイズを大幅に低減できることを実証した。
 Siキャパシターは,積層セラミックキャパシターに比べて高耐熱で薄型化が可能であり,容量の温度依存性も小さく,熱膨張が同じICチップ上に直接搭載できるという特長がある。一般に,Si基板に溝を作製し,表面に誘電体膜を形成してキャパシターを構成するが,大容量化のために溝を深くすると加工コストが高くなるという問題があった。この問題に対し,MacEtch(Metal-assisted Chemical Etching)法と呼ばれる貴金属触媒を用いた異方性ウェットエッチング技術を用い,低コストでSi基板にアスペクト比100以上の溝を形成する技術を開発し,200 nF/mm2以上の静電容量密度を実現した。この技術により,多くの車載用制御ICでの電気特性の向上が期待できる。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2021 Vol.76 No.2 2020年の技術成果
新しいエッチング加工法を用いたSiキャパシターの大容量化技術

遠隔から高感度にガスを検知する小型赤外線レーザー

  • 光応用・画像検査技術

 量子カスケードレーザー(QCL:Quantum Cascade Laser)は,中・遠赤外波長域の光を発振させる半導体レーザーであり,小型の赤外光源として遠隔からの高感度ガスセンシングや医療分野などへの応用が期待されている。これらの応用に向けて,高出力と高ビーム品質が両立可能で,更に量産性にも優れた素子構造として,フォトニック結晶(PC:Photonic Crystal)を利用した面発光型QCLの開発を進めている。今回,原子オーダーで厚さを制御した半導体結晶の成長技術,及び精密なリソグラフィー・ドライエッチング技術を駆使した,波長4 μm帯の面発光型QCLを試作し,世界初(注)となるレーザー発振を実現した。また,ビーム広がり角2°以下という優れたビーム品質も確認した。今後,出力とビーム品質の更なる向上を目指して,PC構造の設計最適化を進めていく。この研究は,防衛装備庁安全保障技術研究推進制度Grant Number JPJ004596の研究課題「 フォトニック結晶による高ビーム品質中赤外量子カスケードレーザの開発 」の支援を受けて実施した。

  • (注)2020年3月時点,PCを利用する波長4 μm帯の面発光型QCLにおいて,当社調べ。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2021 Vol.76 No.2 2020年の技術成果
遠隔から高感度にガスを検知する小型赤外線レーザー

ナノファイバー技術を活用した精密医療向けコラーゲンシート

  • 材料・デバイスプロセス技術

 エレクトロスピニング(ES)法を用いたナノファイバー製造技術を活用し,精密医療向けに2種類のコラーゲンナノファイバーシート(以下,コラーゲンシートと略記)を開発した。
 一つ目は,傷口治療や再生医療分野に向けた高強度でハンドリングしやすいシートである。常温でコラーゲンをナノファイバー化できるES法と,液体の毛管力を利用した独自の密着処理法により,生体組織の3次元(3D)配向構造を模擬したコラーゲンシートの引っ張り強度を約80 MPaまで向上させ,ピンセットやメスでのハンドリングが可能であることを確認した。また,国立大学法人 東京医科歯科大学との共同研究で,ラット皮下での速やかな生体吸収性を確認した。
 二つ目は,早期のがん診断につながる,生細胞の活性状態を可視化するデバイス用のシートである。透明かつ細胞親和性が高いコラーゲンシートをイメージセンサー表面に形成することで,80%以上の高い生着率で乳がん細胞を生きたまま観察できた。
 今後,社内外の関係部門と連携して,実用化を目指した基礎検証を進めていく。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2021 Vol.76 No.2 2020年の技術成果
ナノファイバー技術を活用した精密医療向けコラーゲンシート