生産技術センター

東芝の研究開発・技術

生産技術トピックス

インデント製品の製造進捗情報を効率的に取得できる仕組みの構築

  • 生産エンジニアリング技術

 当社は,ライン方式で生産される量産製品では,工程別の作業工数をリアルタイムに把握できる仕組みを構築し,ネックになる工程の改善やラインバランスの適正化に活用しています。一方,インデント製品は,仕様が一品一様で組立工数が製品ごとに異なる上,調整や検査など工数のばらつきが大きいです。このため,製品完成時に各作業者の工数申告から総工数を集計し,当初の見込み工数との差異を分析することで現場改善につなげてきました。しかし,リアルタイムに製造進捗が把握できないことや,現場管理者による工数集計・分析の負荷が大きいことが問題となっていました。
 今回,インデント製品の製造現場を対象に, 作業者が”着工(着手時)”,”中断(休憩や会議などによる中断時)”,”完工(完了時)”のタイミングにそれぞれのボタンを押すだけで,製造進捗を可視化する仕組みを開発し導入しました。これにより,工程ごとの製造進捗や作業状態をリアルタイムに把握できるようになり,現場管理者の管理工数を半減しました。今後,この仕組みを各工場に展開し,一層の生産性向上を目指していきます。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2019 Vol.74 No.2 2018年の技術成果
インデント製品の製造進捗情報を効率的に取得できる仕組みの構築

インデント製品の製造進捗情報を効率的に取得できる仕組みの構築

産業用インクジェットヘッドの放熱設計技術

  • 実装技術

 インクを循環させて変質や沈降を防ぐことで,高品質な印字を可能とするインク循環型インクジェットヘッドでは,高解像度化のため,インクを吐出するアクチュエーターを高密度に配置します。しかし,この構造では,複数のアクチュエーターが近接配置され,発熱密度が高くなることから,インクが温度上昇で変質しないよう,高い放熱性が求められます。
 ヘッド内外の空気への放熱だけでなく,インクによる熱輸送も考慮するため,気液二流体を用いた熱流体解析を活用し,インクの温度分布を高精度に予測できる放熱設計技術を開発しました。複雑なインクのマイクロ流路をモデル化し,流路壁での摩擦損失を考慮したインクの挙動を計算することで,流入量に対する流速や圧力分布を高精度に予測しました。
 これにより,流路内のインクの熱輸送を正確に把握することができ,各所のインク温度の解析値と実測値に高い整合が得られました。この技術を構造設計の上流段階に適用することで,試作レスで,製品仕様を満たすヘッドの放熱構造やインク流入量などが検討できます。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2019 Vol.74 No.2 2018年の技術成果
産業用インクジェットヘッドの放熱設計技術

産業用インクジェットヘッドの放熱設計技術

高融点金属への適用拡大と世界最高速レベルの造形速度510cm3/hを実現する金属3Dプリンティング技術

  • 光応用・画像検査技術
  • 機械構造・製造技術

 金属3D(3次元)プリンティングは,3D図面から直接,金属の造形物を作ることができる技術で,金型や機能部品など少量多品種の部品製造への適用が検討されています。一方,実用化を進めるにあたり,造形できる金属の種類の拡大と造形速度の向上が課題となっています。
 当社は独自に,パウダーベッド方式の3Dプリンターで各種材料の造形を可能にする技術を開発しています。この度,耐熱部品に使用され,加工が難しいタングステンなどの高融点金属について,粉末の溶融性と供給性の改善のために,粉末粒子の形状や大きさを適正化した材料を,東芝マテリアル(株)と共同開発しました。このタングステン粉末を使用し,レーザー照射などのプロセス条件を適正化することで,高融点金属の造形を可能にしました。
 また,当社は,TRAFAM(技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構)に参加し,LMD(レーザーメタルデポジション)方式の高速金属3Dプリンターの装置開発を進めており,造形ノズルを開発しました。加工点からの熱で造形ノズルに損傷が発生する問題がありましたが,造形ノズル先端を冷却する流路を造形ノズル内部に形成することで,耐熱性を向上させました。更に,熱の影響を低減するには加工点と造形ノズルの距離を長くする必要がありますが,その結果,溶融領域から外れて無駄になる粉末が増えるという問題がありました。流体シミュレーション技術により最適な粉末流路を設計することで粉末の収束性を向上させつつ,粉末の利用効率と造形速度を高めました。今回,レーザー出力6 kWの造形について開発を進め,造形ノズルの移動速度やレーザー光の照射径などのプロセス条件を適正化することで,世界最高速レベル(注)の造形速度510 cm3/hを実現しました。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2019 Vol.74 No.2 2018年の技術成果
実現する金属3Dプリンティング技術

実現する金属3Dプリンティング技術

モーションキャプチャーによる"巧みさ"の見える化

  • 機械構造・製造技術

 製造業では,機械加工で作られた部品の仕上げが手作業である部分がまだ多いです。このため,技能者が持つ技能によるところが大きく,競争力の維持には,熟練技能者の知見やノウハウを継承していくことが重要となってきています。
 そこで,技能者の早期スキルアップを目的に,モーションキャプチャーと筋骨格シミュレーションによる身体運動可視化手法を開発しました。慣性センサー式モーションキャプチャーの採用で,装置周りを動いても作業時の全身の動きが計測でき, 関節角度の変化に対する身体モデルの逆運動学解析で,関節トルクや筋力などの身体内部の作用力を推定できます。また,両足が床面に固定された条件の身体モデルを用いれば,力センサーなしで両足の床反力も推定可能です。
 熟練技能者と若手技能者で,作業時の両足への作用力を比較した例では,熟練技能者の少ない筋負担が作業姿勢などに起因していることが明らかになりました。この手法により,動きのポイント(巧みさ)に関する気付きが得られることから,技能五輪に向けた若手指導にも利用しています。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2019 Vol.74 No.2 2018年の技術成果
モーションキャプチャーによる“巧みさ”の見える化

モーションキャプチャーによる"巧みさ"の見える化

工場で培った生産シミュレーションを物流分野へ展開

  • 生産エンジニアリング技術

 近年,物流需要の増大に伴って,労働力の確保が課題となっています。当社は,荷降ろしロボットやピッキングロボットなどの自動化機器を開発し,物流業界に導入していますが,更に顧客価値を高めるためには,ロボットのようなハードウェアだけではなく,それを有効活用する物流システムソリューションの提供が求められています。
 一方,これまで当社は,社会インフラ製品や半導体などの様々な工場で,製造ラインの新規構築や,生産能力の検証,生産性の向上などに生産シミュレーション技術を活用してきました。
 今回,この技術を物流分野にも展開し,多種多様な商品を扱い作業量の変動が大きい物流システムやライン構想に適用しました。これにより,人とロボットが協調する物流ラインでのレイアウトの適正化や,物流システムの能力,ロボットによる自動化の導入効果などを,ライン導入前に検証できます。
 今後,ロボットなどの自動化機器の導入とともに,物流業務を対象とした現状把握から改善施策の提案までを物流ソューションとして確立し,顧客価値を高めていきます。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2019 Vol.74 No.2 2018年の技術成果
工場で培った生産シミュレーションを物流分野へ展開

工場で培った生産シミュレーションを物流分野へ展開

3D 設計を活用した配管製造のプレハブ化で現地施工の工期短縮

  • 知識・情報システム技術

 ガス絶縁開閉装置(GIS)は,顧客の敷地形状や要求仕様に合わせて設計するため,形状やレイアウトのバリエーションが多数存在します。特に,各機器に絶縁ガスを供給するガス配管は,現地で現物に合わせて製作することが多く,現地施工の工期長期化の一因となっています。現地施工中は,変電所などを停止させる必要があるため,工期短縮が非常に重要です。
 今回,現地施工の工期短縮を狙い,ガス配管をあらかじめ工場内で製作するプレハブ化を二つの施策で実現しました。一つは,機器レイアウト標準化による配管パターン抑制に,カスタマイズに柔軟に対応できる配管レイアウトルールを組み合わせた3D(3次元)設計です。もう一つは,設計部門と製造部門が協力して実施した,3Dで表記した寸法指示と3Dデータ提示による加工指示方法の開発です。
 その結果,70本のプレハブ配管を,現地での後加工なく接続でき,ガス配管の接続工期を1/4に短縮しました。これは,現地施工の工期全体の55 %削減に相当します。今後,電気配線配管などもプレハブ化し,更なる工期短縮を目指します。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2019 Vol.74 No.2 2018年の技術成果
3D 設計を活用した配管製造のプレハブ化で現地施工の工期短縮

3D 設計を活用した配管製造のプレハブ化で現地施工の工期短縮

スマートファクトリー化の実現に寄与する製造IoT ソリューション

  • 生産エンジニアリング技術

 スマートファクトリー化のために, 製造IoT(Internet of Things)が注目されています。しかし,IoT はあくまで手段なので,使うこと自体が目的にならないように,どのようなもので,何ができるのかを理解して使いこなす必要があります。
 今回,多種多様な当社製品に対する改善活動から得られた知見を生かした,製造IoTソリューションをシステム化しました。製造IoTを導入するためには,現場の”データ収集”や,”見える化”,”分析”,”自動制御・最適化”,”自律化”などを推進する必要があります。このシステムは,現場で見えている課題から本質課題を推測し,課題解決に必要となる生産・品質データを効率的に抽出できます。
 まずは,樹脂成形や,ダイカスト,プレスなどの部品加工で,生産・現場管理,検査,設備管理に対し,必要データから,分析方法・結果,改善アクション,期待効果までのデータ活用をシステム化し,IoT導入を迅速化しました。また,東芝グループのIoTシステム”Meisterシリーズ”を活用し,生産性向上や,品質改善,技能継承などを実現可能としました。このソリューションは,社内外の顧客の製造現場で活用され始めています。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2019 Vol.74 No.2 2018年の技術成果
スマートファクトリー化の実現に寄与する製造IoT ソリューション

スマートファクトリー化の実現に寄与する製造IoT ソリューション

スポット溶接検査用の超音波探傷ロボット

  • メカトロニクス技術

 3D(3次元)超音波検査装置Matrixeyeを活用し,スポット溶接部の自動探傷を実現するロボットシステムを開発しました。
 これまでは,作業者が経験を基に検査プローブの角度調整を行っていたため,熟練度が必要であるなどの理由により,作業時間のばらつきが生じていました。
 そこで,今回,Matrixeyeで撮像された超音波検査画像を基に,超音波反射強度の分布データから溶接部の表面や裏面の傾きを推定し,検査プローブの適正な姿勢を導くアルゴリズムを開発しました。
 更に,検査プローブと超音波を伝搬しやすくする接触媒質を塗布できる機構を搭載したロボットアームに,開発したアルゴリズムを適用して,スポット溶接部の自動探傷作業を実現するシステムを開発しました。
 今後,スポット溶接が多く用いられる自動車業界などでの実用化に向けて,フィールドテストを重ねていきます。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2019 Vol.74 No.2 2018年の技術成果
スポット溶接検査用の超音波探傷ロボット

スポット溶接検査用の超音波探傷ロボット

PMSM 駆動システムの高性能化と低コスト化を両立するモーター制御マイコンTMPM4K

  • 制御技術

 高効率な永久磁石同期モーター(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)は,近年,民生・産業など多分野に適用されていますが,駆動には電流センサーや位置センサーなどの高価なセンサーが必要で,普及の妨げになっています。このため,センサーの削減で低コスト化し,それに伴う性能低下を補う技術が研究されていますが,適用には高度な知識や経験が求められます。
 今回,これらの技術をユーザーに使いやすくするためにA-PMD(Advanced Programmable Motor Driver)を改良した新モーター制御マイコン TMPM4Kを開発しました。
 改良したA-PMDは,電流センサーを削減できる” 1シャント(分流器)抵抗電流検出技術”や,位置センサーを削減できる”位置センサーレス制御技術”などの高度なPMSM制御機能を実現できる,モーターへの新しい通電信号生成機能を持ちます。
 これらの機能で,TMPM4K は,処理速度の向上による高性能化とモーター駆動システムの低コスト化を実現しました。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2019 Vol.74 No.2 2018年の技術成果
PMSM 駆動システムの高性能化と低コスト化を両立するモーター制御マイコンTMPM4K

PMSM 駆動システムの高性能化と低コスト化を両立するモーター制御マイコンTMPM4K

エレクトロスピニングによるナノファイバー形成技術を応用した新構造のSCiB™

  • 材料・デバイスプロセス技術

 ナノファイバー形成技術の一つであるエレクトロスピニング(ES)は,溶液を充填した紡糸ノズルに高電圧を印加し,電界で高分子を引き出して紡糸する技術です。今回,この技術の高速化を実現して量産レベルまで高め,一般のリチウムイオン二次電池で用いられているセパレーターの自立膜型絶縁材を使用しない,新構造のSCiB™を開発しました。
 ES によるナノファイバー形成技術を応用し,印加電圧や,材料特性,温湿度,紡糸ノズル - 基材間距離などの制御因子を適正化することで,リチウムイオン二次電池の電極材料の表面をナノファイバー膜で覆った構造(SCdE:Skin-Coated Electrode)を実現しました。この構造により,電池内の電極間距離を近づけられるため,高いイオン伝導性を確保でき,電池の内部抵抗を抑制できます。SCdE の採用で,SCiB™の強みである入出力性能を向上させられるだけでなく,単位体積当たりの容量も高められます。
 この新構造を適用したセルを量産ラインで試作し,SCiB™の高出力(1,800 W)セルである10 Ah セルと同サイズで,2,200 W の出力性能を達成しました。更に,独自の電極塗工技術と組み合わせて内部抵抗値を従来品に比べて約 40 % 低減し,セルの冷間始動性能の向上が可能となりました。
 試作したセルを用いた実証試験では,充放電を8,000 回以上繰り返しても95 % 以上の電池容量を維持することが確認できており,高入出力・大容量化と,SCiB™の特長である長寿命を併せて実現しました。今後,SCdE を用いた新構造を,車載や,鉄道,定置向けなどのSCiB™に展開し,実用化を目指します。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2019 Vol.74 No.2 2018年の技術成果
エレクトロスピニングによるナノファイバー形成技術を応用した新構造のSCiB™

エレクトロスピニングによるナノファイバー形成技術を応用した新構造のSCiB™