生産技術トピックス
2016年
大容量ドラム式洗濯乾燥機用高出力モータ
- 制御技術
ドラム式洗濯乾燥機の洗濯・脱水容量9kgから11kgへの大容量化に対応する高出力モータを開発した。
大容量化に伴い、モータの出力トルクを10%程度増やす必要があるため、ネオジム磁石の高磁力化及びコイルの巻回数を増加した。しかし、トレードオフとして脱水回転数が低下するため、昇圧制御を併用してモータ印加電圧を増大させることで脱水回転数の低下を抑制した。これにより、モータ体積を増加せずに、大容量化を実現できた。
このモータは、2015年11月に商品化したドラム式洗濯乾燥機 TW-117X3に搭載された。
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年の技術成果
LEDベースライト光源部自動組立ライン
- メカトロニクス技術
東芝ライテック(株)製LEDベースライト TENQOOシリーズの生産性向上を図っている。
今回、出荷数の多いボリュームゾーン品種を対象にLEDベースライト光源部(LEDバー)の自動組立ラインを開発し、2015年1月から10万個/月の生産体制を構築した。DFM(製造性考慮設計)による部品設計と、保有する自動組立技術や低コスト画像検査技術を活用して自動化率を高め、人員生産性を1.9倍に向上させた。
- 関連論文:東芝レビュー.70. 10, 2015, p.60-61.
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年の技術成果
エアコンの省エネ技術
- 制御技術
エアコンを省エネ化する高効率な新型コンプレッサモータを開発した。
コンプレッサは、エアコンの構成部品の中でもっとも消費電力量が多く、中間能力(注1)と呼ばれる低速運転での消費が大半を占める。そこで省エネ化に向け、コンプレッサを駆動するモータの低速運転を重視する設計改善が求められた。新型モータは、磁石の極数を従来の4極から、低速での効率が有利な6極に変更することで消費電力量を低減した。
このモータは、2015年11月に商品化されたルームエアコンDRシリーズのコンプレッサに搭載され、業界トップクラス(注2)の省エネ性能に貢献している。
- (注1) 定格能力の約1/2
- (注2) 2015年11月現在、家庭用ルームエアコンにおいて、当社調べ。
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年の技術成果
シリコーン樹脂材料の熱劣化挙動を反映した寿命予測技術
- 実装技術
LED(発光ダイオード)照明用光源モジュールは、放熱部材のコストを適正化するため、高い精度の寿命予測技術が求められている。
そこで、設計寿命を満たす部材温度の上限を見極めるため、加速動作試験を行った。その結果、LED光源モジュールの封止樹脂を構成するシリコーン樹脂の弾性率が熱履歴に伴って増大し、LEDチップ間に応力が集中して生じた亀裂によってワイヤが断線し、光源モジュールが不点灯になることを明らかにした。シリコーン樹脂の物性変化が光源モジュールの寿命に影響を及ぼすことから、高温下での放置時間に応じて機械物性を取得した。熱応力解析で算出した応力値が引張試験による破断強度を上回る時間を亀裂発生時間と定義し、異なる試験温度での亀裂発生時間からアレニウス則に従って寿命予測式を導出した。この手法によって、部材温度の上限を予測できるようになった。
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年の技術成果
QCLを用いたCO2同位体比分析技術
- 光応用・画像検査技術
CO2(二酸化炭素)の同位体比(13CO2/12CO2)にはモノの起源や由来に関する重要な情報が含まれており、温室効果ガスの排出源特定や食品の産地特定などへの活用が検討されている。そこで、CO2ガスの同位体比を高精度に測定できる技術を開発した。
同位体比測定技術の一つにレーザ吸収法がある。分子振動で特定される各同位体ガスの吸収波長と同じレーザ光を照射し、光吸収率からそれぞれの濃度とその比率を測定する。今回CO2同位体ガスに対して、従来より1万倍以上高い吸収率を持つ中赤外波長の光を出す量子カスケードレーザ(QCL:Quantum Cascade Laser)を適用し、同位体比を±0.0001%の精度で測定可能にした。
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年の技術成果
ナノインプリントを用いたワイヤグリッド偏光板作成技術
多品種少量生産の半導体製品生産管理シミュレーションシステム
- 知識・情報システム技術
多品種少量生産の半導体前工程では、生産品目・数量の変動によって生産能力が変わるため、投入工数や生産能力を見誤ると納期遅延や払出し未達を起こすリスクがある。これらのリスクを事前に把握し解決するために、高精度に流品予測(注)をするシミュレーションシステムを開発した。
このシステムは、生産ラインの設備群や生産能力などをモデル化したシミュレーション技術を用いて、生産計画の検討段階で将来の生産リスクをシミュレーションする。入力データから払出し未達のリスクを推測し、リスクの改善を踏まえたシミュレーションを実施することで、改善サイクルを短縮し、払出し未達のリスク解消に貢献した。
- (注) いつ、どの設備群で、どれくらいの生産能力が必要かを予測。
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年の技術成果
走査型広がり抵抗顕微鏡による微細領域のキャリア分布分析技術
- 薄膜プロセス技術
走査型広がり抵抗顕微鏡(SSRM)を用いた半導体デバイスのキャリア濃度分布の測定技術を開発している。半導体デバイスの製造プロセスの開発では、微細領域のキャリア濃度を把握することが重要である。SSRMは電圧を印加したナノスケールのプローブで試料の表面を走査し、測定した抵抗値から半導体のキャリア濃度を算出する。測定時にプローブを試料へ押しつけたまま走査するため、試料の表面が削れてダストが発生し、測定再現性が悪化する問題があった。
そこで、プローブの動作アルゴリズムを適正化し、測定点だけでプローブを押しつける方法に変更することでダストの発生を低減させ、再現性を向上させた。この方法によりNAND型フラッシュメモリセルの抵抗像を再現性よく測定することに成功した。
今後、定量性向上に向けて、デバイスシミュレーションとの連携に取り組んでいく。
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年の技術成果
塩化ビニル樹脂及びRoHS規制物質の代替化を実現する機械的信頼性予測技術
- 機械構造・製造技術
東芝グループは、環境負荷低減のため、PVC(塩化ビニル樹脂)と、一部が2019年度からRoHS指令(有害物質使用制限指令)の規制物質に指定された可塑剤などの代替化を進めている。電線の被覆に多用されるこれらの物質を代替すると、屈曲耐久性が低下する場合があるため、屈曲耐久性の高い電線を採用し、製品で使用される状態での屈曲耐久性を設計段階で確保することが肝要である。
そこで、電線メーカー間で異なる屈曲耐久性の評価手法を統一し、東芝グループ内で標準化するとともに、屈曲耐久性を予測するシミュレーション技術を開発した。この技術を家電製品の配線設計へ適用した。
今後、この技術を様々な製品の新規開発に適用していく。
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年の技術成果
モバイル製品向けHDDの製造管理システム
- 知識・情報システム技術
製造ライン内で、製造中の検査結果データから客先固有の出荷条件に関係する情報を抽出して、完成見込みの予測、並びに所要部材の投入を指示する、製造管理"アドバンストかんばん"システムを開発した。
このシステムは、多様化する客先からの品質要求に対して、納期どおりに完成できるかどうかを過去の検査履歴なども活用して推定する。製品の客先を特定する型番ごとに、完成見込みを予測し可視化するとともに、最新の製造状況に基づいて部材の投入を電子かんばんを使って制御することが特長である。また、生産データを一元管理する生産ダッシュボードにより、異常監視と進捗の可視化も強化した。
このシステムをHDD(ハードディスクドライブ)の海外生産拠点に導入し、納期遅れによる販売機会損失の削減、製造ラインにおける在庫量の適正化、及び製造間接費の削減に貢献できるようになった。今後、この技術を他の製造拠点にも展開していく。
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年のハイライト
リチウムオン二次電池SCiB™3Ahセルの自動外観検査
- 光応用・画像検査技術
車載向けに開発した高入出力リチウムイオン二次電池SCiB™3Ahセルは、長期間にわたって安全性を維持するために、アルミニウム製の容器にレーザ溶接を施して密封する構造を採用している。しかし、溶接のできはえを非破壊で検査することは難しく、特にアルミニウムの溶接部には金属光沢があるため一般的な画像処理だけで微小な凹凸を検出するのは極めて困難だった。
そこで当社は、画像処理と3Dレーザ計測を組み合わせた自動外観検査装置を開発し、当社のSCiB™セルを量産している新潟県柏崎工場で運用を開始した。この結果、検査人員の大幅な削減と官能に頼らない信頼性の高い検査を実現した。更に、この検査装置で計測した3Dデータは、高度なチューニングを要求されるレーザ溶接条件の管理にも利用できる。
今後は、継続収集したビッグデータを解析し、製造プロセスの更なる合理化と品質安定化につなげていく。
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年のハイライト
社会インフラ製品のフィールド領域へのIE展開とツール活用
- 生産エンジニアリング技術
これまで、工場内製造ラインにおける組立作業の生産性向上を主な目的として培ってきたIE(Industrial Engineering)技術を、社会インフラ製品の現地据付作業などのフィールド領域にも展開している。
多くの社会インフラ製品では、量産製品とは異なり、工場出荷後に現地で据付調整や保守点検といった作業が発生する。これらの作業をIEの視点で緻密に観察し、分析することで現場での"ムダ"を顕在化させ、データドリブンで作業効率を向上させることができる。フィールドでの作業は、エリアが広いため歩行が多いことや、作業手順や治工具類が不明確、現場が毎回異なるなど特有の課題がある。これらの対策として、当社が開発している活動量計による屋外作業者の位置・動線把握、眼鏡型ウェアラブル端末での画像投映による作業指示、3Dスキャナによる作業エリアの3Dデータ化にも取り組んでいる。関係部門と連携し、社内外へのソリューションを創出していく。
関連論文
- 掲載誌名
- 東芝レビュー 2016 Vol.71 No.3 2015年のハイライト