水リスクへの対応

世の中では不十分なインフラ管理による浄水の不足や、気候変動にともなう渇水や洪水の被害が問題となっています。数多くの事業を抱える東芝グループは、⾃然資本のなかで「⽔資源」に与える影響が⼤きい事業を有しており、また、世界各地に活動の拠点があることから、「水リスク」への対応は、環境経営における重要な課題の一つです。そのため、企業活動に影響を及ぼす「水リスク」について評価・分析を行い、管理の強化に努めています。

  • 生態系の利用変化や、水などの資源開発、気候変動、汚染、外来種など5分類・12項目についてセクター別にマテリアリティ分析を行うツール(MSTツール)を用いて各事業が自然資本(特に水資源)へ与えるの影響度を評価

水リスク評価


国内外のすべてのグループ生産拠点(約60サイト)を対象とし、水のリスクを「水量(水資源、地下水、渇水)リスク」「水質リスク」「水害リスク」「規制・評判リスク」に分類し、評価を行っています。
評価にあたっては、まず、世界資源研究所(WRI)の水リスク評価ツール「Aqueduct」を用いた1次評価と、その結果を補完するためのアンケート調査を対象拠点に対して実施し、ハザードマップなどと合わせて、拠点ごとのデータを取得・整備したうえで、流域の水リスク(外部要因評価)を5段階(very High/High/Medium/Low/very Low)で評価しました。
次に、外部要因評価の結果がvery HighまたはHighを示したリスクレベルの高い拠点を対象に、取水量や排水量、生産高等の主要指標に基づく事業影響度(カテゴリ1~5)を加味して⾼優先拠点(優先度1~4)を選定し、リスクの高い拠点を抽出しました。

水リスク評価フロー

高リスク拠点の分類

評価結果

それぞれの水リスクに対する評価結果の一覧は以下のとおりです。

評価結果

対象拠点のうち、優先度1に抽出された拠点は下表に示す6拠点でした。これらの拠点では既に取水の抑制や、適切な排水処理、そしてBCP対策などを施し、リスクの低減に努めています。
東芝グループでは、今回の評価で抽出されたリスクの高い拠点を中心に水リスクの最小化を図るとともに、水リスクの低減に寄与する製品・サービスの提供を通じて、各地域の水課題の解決に貢献します。

優先度1に抽出された拠点
  高リスクと評価された内容
拠点A 日本 水資源リスク、渇水リスク
拠点B 日本 排水水質に関する規制・評判リスク、洪水リスク
拠点C 日本 洪水リスク
拠点D 日本 洪水リスク
拠点E 日本 洪水リスク
拠点F フィリピン 渇水リスク、排水水質に関する規制・評判リスク
優先度1に抽出された拠点
  高リスクと評価された内容
拠点A 日本 水資源リスク、渇水リスク
拠点B 日本 排水水質に関する規制・評判リスク、洪水リスク
拠点C 日本 洪水リスク
拠点D 日本 洪水リスク
拠点E 日本 洪水リスク
拠点F フィリピン 渇水リスク、排水水質に関する規制・評判リスク

水リスクへの取り組み事例


拠点のリスク低減活動

【事例】雨水の有効利用による水使用量の削減

東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社

東芝ジェイエスダブリュー・パワーシステム社では、雨水の利用や処理水の再利用により水使用量を削減しています。
雨水は、池に溜め、構内の植栽への散水や製造工程における冷却水、トイレ用水などに利用しています。
雨水貯水池は定期的に清掃を行い、水質の維持に努めています。また、工場建屋の屋根に降った雨水は雨水専用の貯水槽に一旦貯め、貯水槽に監視モニタを設置し、水が溢れ出ないタイミングで池へ移送することにより、無駄なく雨水を回収しています。この雨水の利用により、年間15,000m³の水使用量を削減できました。

清掃の様子
貯水用の池
雨水貯水槽

【事例】クリーンルーム外調機及び加湿用エアワッシャーの純水削減

加賀東芝エレクトロニクス(株)

加賀東芝エレクトロニクス(株)では、ディスクリート半導体と呼ばれるトランジスタやダイオードの素子のうち、特に電流・電圧の制御を行うパワー半導体に注力して製造を行っています。その製造過程では多くの水を使用します。
半導体の製造に適したクリーンルーム内の温湿度を保つためには空調機の稼働が欠かせません。空調機に外気を取り込む前に、外調機で外気を処理し空調機に送り込むことで、空調機の負荷を下げるとともに省エネにもつなげています。外調機のエアワッシャーには常時純水が流れており外気を加湿して空調機へ送っていますが、この純水の量をクリーンルーム内の湿度と連動させ最適化することで、水の受入量を削減しました。(年間削減量:2,383㎥/年)。

  • エアワッシャー:空気中の汚染物質を水で除去すると同時に、加湿を行う装置

東芝グループの製品・サービスによる貢献

【事例】排水ゼロ化による持続可能な水循環システムの確立

東芝インフラシステムズ(株)

都市部の急激な人口増加と経済発展が進む新興国では、水質汚濁が年々深刻化し、排水の水質改善や排出先の水環境保全のニーズの高まりとともに、健全な水循環を実現するための法規制が強化されています。
東芝グループでは、河川の水質汚染リスク低減と、排水の再生及び再利用という水資源の有効活用促進の視点から、工場からの排水をゼロ化するZLD(Zero Liquid Discharge)システムを提供しています。
ZLDは排水中の不純物を濃縮分離し、再生水を回収する機能と、不純物が濃縮された水を蒸発させて乾燥した固形廃棄物を得る機能から成り、最終的に系外に排出される排水をゼロになるまで低減します。
ZLDシステムを適用することで、水の枯渇や水資源汚染問題に対して、公共用水域の水質汚濁防止に貢献します。
水回収設備で用いる膜処理の目詰まり防止対策で回収率を80%から95%に改善することにより、蒸発に必要なエネルギーを約4分の1に低減し、温室効果ガス排出量を半減します。

※:インド自動車工場での導入実績に基づく試算結果

ZLDシステムの概略プロセスフロー

自動車工場事例(排水サンプル)