生物多様性の保全

生物多様性保全に向けた取り組みの重要性


近年、生物多様性は世界中で劣化しており、その進行は加速し続けています。2019年にはIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)が地球規模アセスメントの結果として、人間活動の影響により「世界の陸地の 75% が著しく改変され、海洋の 66%は累積的な影響下にあり、湿地の 85% 以上が消失」していること、また地球全体でかつてない規模の種が絶滅の危機に瀕しており、「既に推計 100 万種が絶滅の危機に瀕している」ことを発表しました※1。2010年の「愛知目標」※2の策定をきっかけに、世界中の国々で生物多様性の損失を止める対策が講じられましたが、完全に達成できた目標はゼロという結果も報告されています※3。これらの状況は、生物多様性を社会活動のなかに組み込む「生物多様性の主流化」がいまだ不十分であることを裏付けるものとなっています。 

食料や原材料の供給、自然災害の抑制、精神的充足など、人間のいのちや暮らしは生物多様性を基盤とする生態系からのさまざまな恩恵(生態系サービス)に直接的・間接的に支えられています。経済的視点で見た場合、世界の総GDPの半分以上に当たる44兆ドル相当の経済価値創出が生態系からの恩恵に依存していると言われています※4。この恵みを私たち人類が将来世代にわたり享受し続けるためには、人間が多様な生物のはたらきから成る生態系の一部であることを認識するとともに、生物多様性の損失と生態系サービスの低下を阻止するための取り組みをいっそう強化していく必要があります。

  • 2019年発行The global assessment report on BIODIVERSITY AND ECOSYSTEM SERVICES (SUMMARY FOR POLICYMAKERS)
  • 2010年に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された生物多様性の損失に歯止めをかけるための国際目標。2050年までに「自然と共生する世界」を実現することを長期ビジョンとし、2020年までにとるべき20の行動目標を提示。
  • 2020年CBD(Convention on Biological Diversity)発行 Global Biodiversity Outlook 5 
  • 2020年WEF(World Economic Forum)発行 Nature Risk Rising: Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and the Economy.

加速する世界の動き


生物多様性にかかわるこのような危機に対応するため、「愛知目標」に続く次期国際目標「ポスト2020生物多様性枠組」の策定が進んでいます。同枠組では「Living in harmony with nature」(自然と共生する世界)という2050年のビジョンのもと、2030年までに生物多様性を回復の軌道に乗せること(ネイチャーポジティブ)が世界のミッションとして描かれる見通しです。そして、2030年のミッションを達成するためにとるべき21の具体的な行動目標が示される予定です。

これらの行動目標のなかには企業の事業活動にかかわるものが数多くあり、陸域・海域の保全、ビジネスのバリューチェーンにおける生物多様性への負の影響の削減、プラスチック廃棄物の削減、気候変動に対する緩和、適応への貢献がそのいくつかの例となります。

また、「ネイチャーポジティブ」をめざすそのほかの注目すべき動きとして、Science-Based Targets for NatureやTaskforce on Nature-related Financial Disclosuresなどの長期目標策定や開示に関するガイドラインの検討が挙げられます。企業に対し、バリューチェーン全体における環境への影響・依存及び生物多様性に関するリスク・機会の把握を通じた、科学に基づく長期的な目標の設定や社外開示を促すものとなっています。

持続可能な社会の実現をめざす企業にとって、生物多様性保全に向けた取り組みはもはや切り離して考えることができない課題となっています。

  • 2022年度中に開催予定の国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で策定予定

第7次環境アクションプランでの取り組み


東芝グループでは、「環境未来ビジョン2050」に基づき策定された「第7次環境アクションプラン」(活動期間:2021~2023年度)において、生物多様性保全活動を化学物質及び水資源の管理に並ぶ、「生態系への配慮」項目の一つとし、「生態系ネットワークの構築」「希少種の保護、生息域外保全」「海洋プラスチック問題への対応」「気候変動への対応(緩和・適応)」「水の保全」の5つのテーマのもと、世界中の製造拠点を中心に活動を推進しています。それぞれの拠点自らが、それぞれの地域生態系の一部であることを認識し、敷地内や近隣地域において地域の特性や課題に応じた取り組みを行っています。活動にあたっては、「連携」「広報」「教育」を重要な要素として取り込んでおり、活動のいっそうの拡大及び深化をめざしています。従業員自らが参加する活動を主軸に置くことにより、従業員自身の意識向上にも役立っており、生物多様性保全活動の継続的な展開につながっています。なお、21年度は世界11か国の約60拠点で活動を推進しました。活動内容の詳細については東芝グループの社外向け環境活動ウェブサイトで紹介しています。

■5つの「活動テーマ」と3つの「拡大・深化ツール」

活動テーマ
Activity Theme

Theme 1

生態系ネットワークの構築
ビオトープの構築、同構築を目的とした植樹
Building of ecosystem networks
Creating biotopes, tree planting contributing to building ecosystem networks, etc.

Theme 2

希少種の保護、生息域外保全
事業所内外における希少な動植物の保護
Conservation of rare species, promotion of ex situ conservation
Conserving rare plants and animals on and off the premise, ex-situ conservation

Theme 3

海洋プラスチック問題への対応
事業所周辺・海岸・河川の清掃、食堂や売店などでの使い捨てプラスチックの削減など
Response to marine plastics issues
Cleanup on and off the premise, at rivers and oceans, reduction of one-way plastics at company cafeterias and company shops, etc.

Theme 4

気候変動への対応(緩和・適応)
気候変動の緩和、防災・減災を目的とした植樹、堰づくり、緑のカーテン設置など
Response to climate change (mitigation, adaptation)
Tree planting contributing to climate change mitigation and prevention or reduction of natural disaster, creation of green curtains, etc.

Theme 5

水の保全
海岸や河川の清掃、植樹による水の涵養など
Conservation of water
Cleanup at rivers and oceans, water recharge through tree planting, etc.

拡大・深化ツール
Boosting Tool

Tool 1

連携
行政、NPO/NGO、地域住民、従業員などさまざまなステークホルダーとの協働による、取り組み内容の拡大・深化
Collaboration
Expanding and deepening activities through collaboration with various stakeholders, such as public administrations, NPOs/NGOs, local citizens, company employees, etc.

Tool 2

教育
近隣学校への出前授業、市町村主催勉強会、社内教育における活動事例紹介など
Education
Holding education classes at nearby schools or introducing Toshiba Group's biodiversity activities at seminars carried out by local governments or at education classes for employees, etc.

Tool 3

広報
社内外ウェブサイト・レポートでの活動紹介、社外表彰・認証への応募、行政・団体主催による各種プログラムへの登録など
Publicity
Introducing activities to the public through company websites or reports, applying for outside awards or recognitions, signing up for awareness programs and campaigns carried out by public administrations or organizations, etc.

■東芝グループ生物多様性保全活動紹介サイト

東芝グループ生物多様性保全活動の例:

東芝セミコンダクタ・タイ社 「地元病院への使用済み布袋と紙袋の寄贈」

東芝プラントシステム 川崎事業所 「かながわ水源の森林づくり事業への協力」

東芝 柏崎工場 「柏崎・夢の森公園 里山保全活動」

東芝 府中事業所 「プロナチュラリスト 佐々木洋さんをお招きしてのオンライン自然観察会」

東芝グループでは現在、生物多様性保全に関するリスクと機会は以下の図のとおりと認識したうえで活動を行っていますが、今後、加速する世界の動きに注視しながら、リスクと機会の更なる分析と対応方針の検討を進めていきます。

生物多様性関連イニシアティブ・業界団体への参画


東芝グループは、各種イニシアティブや業界団体への参画を通じて、世の中の動向に関する情報収集と生物多様性の主流化に向けた活動を行っています。

生物多様性のための30by30アライアンス

本アライアンスは、2030 年までに陸と海の30%の保全をめざす「ポスト2020生物多様性枠組」の一つの目標案(「30by30 目標」)の達成に向けた、日本国内での先駆的な取り組みを促し、発信するために発足された有志連合です(事務局 環境省)。日本では「30by30 目標」の国内達成に向けて「30by30 ロードマップ」が策定され、国立公園などの保護地域の拡張と管理の質の向上や、保護地域以外での生物多様性保全に資する地域(OECM)の設定・管理、生物多様性の重要性や保全活動の効果の「見える化」などが掲げられています。東芝グループは、アライアンスメンバーとして、国内拠点における生物多様性保全活動や、拠点外の「30by30目標」対象エリアの管理の支援などを通じて同目標に貢献していくことをめざします。

  • Other Effective area-based Conservation Measures:
    保護地域以外で生物多様性保全に資する地域。民間などの取り組みにより保全が図られている地域や、保全を主目的としない管理が結果として自然環境を守ることにも貢献している地域を指す。

経団連生物多様性宣言イニシアチブ

本イニシアティブには、「経団連生物多様性宣言・行動指針(改定版)」が掲げる活動に取り組む、あるいは全体の趣旨に賛同する265社・団体(2022年9月1日現在)が参加しており、日本経済界の幅広い活動の国内外に向けた発信と、活動の更なる深化・裾野拡大を目的としています。東芝はメンバー企業の一社として、今後とも本イニシアティブの目標達成に向けて貢献していきたいと考えています。

電機・電子4団体生物多様性ワーキンググループ

本ワーキングループは電機・電子業界の生物多様性保全活動の啓発と推進を目的としており、生物多様性保全の主流化に向けた各種施策の展開を行っています。現在は、2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させる「ネイチャーポジティブ」をワーキングループの2030年中期活動計画における「めざす姿」とし、ポスト2020生物多様性枠組や、情報開示などの重要な社会動向の情報収集・共有及び、電機電子業界としての対応方針について議論を続けています。また、関連省庁や外部機関との連携・協調による業界のプレゼンスアップ、課題解決の迅速化も図っています。東芝は本ワーキンググループの設立(2011年)以来継続的に参画しており、今後ともほかのメンバー企業との連携のもと、ワーキングループの目標達成に向けて貢献していきたいと考えています。

  • JEMA:一般社団法人日本電機工業会、JEITA:一般社団法人電子情報技術産業協会、CIAJ:一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会、JBMIA:一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会

東芝グループ生物多様性ガイドライン(2009年9月制定)


基本方針


東芝グループは、生物多様性の保全及び生物多様性の構成要素の持続可能な利用のため、次の取り組みを行う。

  • 事業活動が生物多様性に及ぼすかかわりを把握する。
  • 生物多様性に配慮した事業活動などにより、生物多様性に及ぼす影響の低減を図り、持続可能な利用を行う。
  • 取り組みの推進体制を整備する。

具体的な取り組み


  1. 工場の立地や再配置において、生態系の保護などに配慮する。
  2. 地方公共団体や民間団体などとのコミュニケーションを図り、連携した活動を行う。
  3. 持続可能な社会の一員として、継続的な社会貢献活動を行う。
  4. 環境対策による生物多様性を含む種々の環境側面への影響・効果を評価する。
  5. 資源採掘までを視野においたサプライチェーンにおける生物多様性保全への取り組みを推進する。
  6. 事業活動に由来する資源の消費や環境負荷物質の排出による影響を評価する。
  7. 自然の成り立ちや仕組みに学び、事業の特性に応じて、技術による貢献をめざす。