TCFDの提言に基づく情報開示

金融安定理事会により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」では、2017年に発表した最終報告書のなかで、企業に対して気候変動関連リスク・機会についての情報を開示することを求めています。東芝グループはTCFDへの賛同を表明しており、更に日本国内の賛同機関の取り組み推進を目的に設置された「TCFDコンソーシアム」にも参画しています。
TCFDの提言に基づき、気候変動が当社の事業に及ぼすリスク・機会についての情報開示を積極的に進めるとともに、リスク低減・機会最大化に向けた取り組みを推進していきます。

ガバナンス


東芝グループでは、気候変動をはじめとするサステナビリティ関連の重要課題に関し、取締役会が適切に監督を行うための体制を構築しています。サステナビリティに関する重要な方針、戦略、施策等については、取締役会への報告に先立ち、年に2回開催される「サステナビリティ戦略委員会」で議論されます。サステナビリティ戦略委員会は社長を委員長とし、サステナビリティ関連の各担当役員、主要グループ会社及び関係会社の社長、サステナビリティ関連部門長が出席しています。ここでの議題のうち経営にかかわる重要事項については、サステナビリティ担当役員及び環境担当役員から取締役会に報告された後、当社グループの経営戦略に反映されます。特に気候変動に関する取り組み状況に関しては、年に4回の頻度で取締役会に報告することとしています。

取締役会での気候変動に関する最近の主な決議・報告事例は以下のとおりです。

  • 2021年度:気候変動対応を含めたサステナビリティ経営に関する新たな方針「東芝グループサステナビリティ基本方針」を決議。
  • 2022年度:東芝グループの自社カーボンニュートラル推進構想とSBT設定目標の引き上げ、気候変動対応を含む東芝グループのマテリアリティに紐づく非財務KPIの設定に関して報告。

なお、環境に関するより詳細な施策などについては、サステナビリティ戦略委員会の下に位置する「コーポレート地球環境会議」において議論されています。コーポレート地球環境会議は年に2回開催されており、環境担当役員が議長を務め、主要グループ会社の環境推進責任者とコーポレートスタフ部門長が出席しています。ここで議論された内容は、その後主要グループ会社で開催される「グループ会社 地球環境会議」において各グループ会社内に展開されます。

また東芝グループでは、役員報酬制度において非財務面の評価を導入しています。(株)東芝の執行役・執行役員、及び分社会社・グループ会社の一部の上位役員の業績連動報酬における個人評価のなかで、気候変動対応を含めた環境経営に対する特別な寄与等が考慮されています。この評価項目には、温室効果ガス削減目標に対する進捗状況やカーボンニュートラル達成に向けた取り組み等が含まれています。

なお、役員への評価と同様の項目による、主要グループ会社に対する環境経営度評価も実施しています。環境経営度評価の結果は各社の業績評価に反映され、従業員の賞与にも反映されます。

戦略


東芝グループは「環境未来ビジョン2050」のもと、バリューチェーン全体におけるカーボンニュートラルの実現をめざして、気候変動に対する取り組みを進めています。自社グループ内での温室効果ガス削減に加え、社会における温室効果ガス削減に貢献する製品・サービスの創出拡大、調達取引先の皆様との協働による上流の排出削減など、バリューチェーンの各段階において積極的に施策を展開しています。
東芝グループのマテリアリティでも、「気候変動への対応」を重要項目として掲げており、カーボンニュートラルの実現は全社共通の重要な方針となっています。

気候変動の影響によって社会に様々な変化が起こる中、レジリエンスの高い企業経営を行うためには、気候変動が自社にもたらすリスク・機会を把握し、適切な対応を進めることが重要です。
東芝グループではサステナビリティ戦略委員会(委員長:社長)のもとで、気候変動関連のリスク・機会の把握とその対応策検討のためのシナリオ分析を、事業領域ごとに実施しています。

■シナリオの設定

シナリオ分析においては、以下の2つのシナリオを設定しています。

●1.5℃シナリオ:
主に移行リスク・機会に関し、気温上昇を産業革命前から1.5℃に抑える世界を想定し、IEA(国際エネルギー機関)のNet Zero Emissions by 2050 (NZE) シナリオを使用しています。このシナリオにおいては、炭素税や省エネ関連規制、再生可能エネルギー導入によるコスト増加などが予測される一方、脱炭素エネルギー技術や省エネ製品・サービスの需要拡大などによるビジネス機会の拡大も予想されます。

●4℃シナリオ:
主に物理的リスク・機会に関し、産業革命前からの気温上昇が4℃を上回る世界を想定し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書のRCP8.5シナリオを使用しています。このシナリオにおいては、1.5℃シナリオのような規制面や技術面の影響は想定されませんが、一方で異常気象によって台風や水害といった自然災害のリスクが高まるなど、物理的な被害による影響が拡大する可能性があります。

■分析方法

●対象範囲:
主要事業全体における影響を幅広く確認するため、2023年度はシナリオ分析の対象を、従来の5事業領域から以下の7事業領域に拡大しました。また、各領域においてもさまざまな事業を有しており、事業ごとにリスク・機会の内容や影響度が変わってくることから、事業部門ごとに詳細な分析を行い、各事業固有のリスク・機会を特定しています。自社の取り組みにとどまらず、上流(調達取引先)及び下流(顧客・利用者)も含めたバリューチェーン全体を分析の対象範囲としています。

-エネルギーシステムソリューション事業
-インフラシステムソリューション事業
-ビルソリューション事業
-リテール&プリンティングソリューション事業
-デバイス&ストレージソリューション事業
-デジタルソリューション事業
-その他(電池事業)

●時間軸:
短期・中期・長期の3つの時間軸を設定しています。「短期」としては、中期事業計画の設定期間をふまえた0~3年前後、「中期」としては、東芝グループ経営方針の設定期間及び温室効果ガス削減目標(中期)の設定期間をふまえた「2030年度」まで、そして「長期」としては、「環境未来ビジョン2050」及び温室効果ガス削減目標(長期)の設定期間をふまえた「2050年度」までを想定しました。

●分析のステップ:
TCFD提言に基づき、「リスク重要度の評価」「シナリオ群の定義」「事業インパクト評価」「対応策の定義」のステップに沿ってシナリオ分析を実施しています。
最新のシナリオ分析では、上記の「対象範囲」に記載した事業領域において、共通のフォーマットを用いた分析を実施しました。まず各事業部門はそれぞれの事業状況をふまえて、TCFD提言が提示するリスク・機会の分類に基づき、「1.5℃」と「4℃」の2つのシナリオに沿って、気候変動が事業に与える移行・物理的リスクと機会を特定します。その後、全社共通の評価基準に沿ってそれぞれのリスク・機会の重要度を評価します。評価基準としては、(1)3段階の「影響度」(売上高や支出への金額影響によって評価)、(2)3段階の「可能性」(発生確率や頻度によって評価)を設定しています。この2つの評価結果を掛け合わせることで、最終的な「重要度」を「大・中・小」の3段階で評価しています。なお、今回はこの評価結果をもとに、重要度が「中」以上のものを中心に開示しています。
また、これらの分析結果に対して関係コーポレートスタフ部門(経営企画部門、IR部門、サステナビリティ部門、環境部門)によるレビューを行い、各専門分野の視点も反映しています。更に、特定・評価されたリスク・機会のうち特に重要度の高いものや各事業特有のものについては、パラメータを設定して財務影響額や対策費の算出を行い、優先的に対応策の検討を進めていきます。

■分析結果

2023年度に実施した最新のシナリオ分析による主な結果は以下のとおりです。

●東芝グループにおける共通のリスク・機会

分類 主なリスク 重要度 主な対応策
移行リスク 政策・
法規制
  • 炭素税や排出権取引制度の導入拡大、証書価格の上昇による対応コストの増加、原材料への価格転嫁
  • 各国のGHG排出削減目標や政策にともなう再生可能エネルギー導入要請の高まり
  • 省エネ関連法規制・情報開示関連法規制の強化にともなう対応コストの増加
技術
  • カーボンニュートラルに貢献する製品・サービスの急速な需要拡大に対し、開発が遅れることによる販売機会損失
市場
  • 市場・顧客の選好の変化(気候変動対応への要請の高まり)に対し、対応が遅れることによる販売機会損失
  • 調達取引先における脱炭素化取り組みの加速にともなう調達品の価格上昇
評判
  • 気候変動対応の遅れによってステークホルダーからの信頼を失うことによる、事業継続リスクの増大
  • 気候変動対応に関する評価が下がることによる、ESG投資を受ける機会の損失
物理的リスク
  • 台風・水害などの自然災害発生にともなう影響(以下)による操業停止や対応コストの増加
     - 生産設備の損傷
     - 調達取引先への被害による部材調達への影響
     - 物流販売機能への影響
     - 従業員への影響
分類 主なリスク 重要度 主な対応策
移行リスク 政策・
法規制
  • 炭素税や排出権取引制度の導入拡大、証書価格の上昇による対応コストの増加、原材料への価格転嫁
  • 各国のGHG排出削減目標や政策にともなう再生可能エネルギー導入要請の高まり
  • 省エネ関連法規制・情報開示関連法規制の強化にともなう対応コストの増加
技術
  • カーボンニュートラルに貢献する製品・サービスの急速な需要拡大に対し、開発が遅れることによる販売機会損失
市場
  • 市場・顧客の選好の変化(気候変動対応への要請の高まり)に対し、対応が遅れることによる販売機会損失
  • 調達取引先における脱炭素化取り組みの加速にともなう調達品の価格上昇
評判
  • 気候変動対応の遅れによってステークホルダーからの信頼を失うことによる、事業継続リスクの増大
  • 気候変動対応に関する評価が下がることによる、ESG投資を受ける機会の損失
物理的リスク
  • 台風・水害などの自然災害発生にともなう影響(以下)による操業停止や対応コストの増加
     - 生産設備の損傷
     - 調達取引先への被害による部材調達への影響
     - 物流販売機能への影響
     - 従業員への影響
分類 主な機会 重要度 主な対応策
機会
  • カーボンニュートラルに貢献する技術及び製品・サービスの需要増加
  • カーボンニュートラルに貢献する製品・サービスの提供
    - GX(グリーントランスフォーメーション)コンサルティングサービスの提供
    東芝のGXサービス
    - 再生可能エネルギー関連技術、VPP、水素ソリューション、CO2分離回収技術などの開発・提供
    カーボンニュートラルに向けた取り組み(東芝エネルギーシステムズ(株))>
分類 主な機会 重要度 主な対応策
機会
  • カーボンニュートラルに貢献する技術及び製品・サービスの需要増加
  • カーボンニュートラルに貢献する製品・サービスの提供
    - GX(グリーントランスフォーメーション)コンサルティングサービスの提供
    東芝のGXサービス
    - 再生可能エネルギー関連技術、VPP、水素ソリューション、CO2分離回収技術などの開発・提供
    カーボンニュートラルに向けた取り組み(東芝エネルギーシステムズ(株))>
  • 共通のリスク・機会における「移行リスク」および「機会」は、主に1.5℃シナリオ下を想定しています。また、物理的リスクは4℃シナリオ下を想定しています。
  • 共通のリスク・機会の「重要度」は、上記「分析のステップ」に記載した「影響度」と「可能性」の評価をベースとし、リスク・機会への対応状況等も考慮して総合的に判断しています。

●東芝グループにおける事業別のリスク・機会

  1. リテール&プリンティングソリューション事業のシナリオ分析結果の詳細については、「東芝テックグループ統合報告書2023」をご参照ください。
    統合報告書(アニュアルレポート)(東芝テック(株))

1.5℃シナリオと4℃シナリオそれぞれを想定し、事業別のシナリオ分析を実施した結果、リスクについてはエネルギーシステムソリューション事業における再生可能エネルギー関連製品に関する技術・市場リスク、デバイス&ストレージソリューション事業における製造工程での温室効果ガス排出に関する法規制リスク、デジタルソリューション事業における人材に関するリスクなど、各事業の特性により異なるリスク要因を特定しました。また機会についても、再生可能エネルギー関連技術、鉄道システム、防災ソリューション、高効率LED照明、省エネ性能の高いエレベーター、POSシステム・MFP、パワー半導体、温室効果ガス削減に貢献するICTソリューション、車載用電池など、事業ごとにさまざまな機会を特定しました。

■対応策

上記のシナリオ分析で特定・評価されたリスク・機会への対応策の一部については、既に各事業領域における中期事業計画に組み込み、施策を推進しています。今後も重要度の高いリスク・機会については中期事業計画に反映し、定期的に進捗を管理していく予定です。
なお、2022年6月に発表した東芝グループの経営方針では、カーボンニュートラルに向かう社会的気運を機会ととらえ、事業においてインフラの構築やデータ社会の構築を進めることで、カーボンニュートラル実現に向けて貢献していくことを改めて宣言しました。この方針の実効性を高めるため、まず2022年度に東芝グループ全社横断プロジェクトを立ち上げ、自社グループの事業所・工場のカーボンニュートラル化に向けて具体的施策を織り込んだ削減ロードマップを策定し、活動を推進しています。また、社会全体のカーボンニュートラル化への貢献に向けては、2022年度にエネルギーアグリゲーション事業強化に向けた組織改正、2023年度にネガティブエミッションプロジェクトチームの立ち上げを行い、事業を迅速かつ効果的に推進するための体制を構築しています。
今後もシナリオ分析の結果を東芝グループの事業戦略につなげ、リスク・機会に適切に対応しながらレジリエントな企業経営を行っていきます。

 

リスク管理


東芝グループの気候変動に関するリスク管理は、全社的なリスク管理プロセスのなかに組み込まれています。気候変動関連のリスクも含め、経営に大きな影響を及ぼすビジネスリスクについては、事業遂行上の経営判断において、東芝グループの持続的成長と企業価値向上を目的とした経営判断基準、許容できるリスク範囲、事業撤退の考え方を明確化し、「ビジネスリスク検討会」において案件ごとにリスクチェックの実施、最大リスクの確認、モニタリング項目の設定を行っており、特に重要度の高い案件は経営会議で審議する仕組みとしています。ビジネスリスク検討会は月に複数回、案件が発生するごとに開催されます。TCFD提言に基づく気候変動関連リスク(政策・法規制リスク、技術リスク、市場リスク、評判リスク、物理的リスク)もビジネスリスクの基準に含まれており、今後は気候変動にかかわる評価プロセスの強化に取り組んでいきます。
また、気候変動に特化したリスク管理については、サステナビリティ戦略委員会のもとで実施する主要事業領域におけるシナリオ分析のなかでリスクの特定や重要度の評価を行い、その結果を委員会において共有しています。ここで特定・評価されたリスクについてはサステナビリティ担当役員及び環境担当役員から取締役会に報告された後、当社グループの経営戦略に反映されます。

指標と目標


「環境未来ビジョン2050」では、2050年度までに東芝グループのバリューチェーン全体でカーボンニュートラル実現をめざすとともに、その通過点として、2030年度までに温室効果ガス排出量を70%削減(2019年度比)することを目標としています。

なお、東芝グループの温室効果ガス削減目標は、SBT(Science Based Targets)イニシアティブから「ネットゼロ目標」の認定を取得しています。

2022年度時点では、Scope1・2、Scope3とも目標達成に向けて順調に削減が進んでおり、引き続きバリューチェーンの各段階における温室効果ガス削減施策を推進していきます。
また、Scope1・2、及びScope3カテゴリ11(販売した製品・サービスの使用にともなう排出)の実績については外部機関による第三者検証を受けており、データの信頼性を確保しています。