日本初*の「AIパーソナル角層解析」を実現した
東芝アナリティクスAI「SATLYS™」

 「美」と「健康」事業を中心に、世の中の不安や不便といった「不」の解消に取り組む株式会社ファンケル。同社が長年の研究を活かして提供していた角層バイオマーカーによる解析サービスは好評だったが、次の課題として、解析結果が出るまでの時間とコストの問題をクリアすれば、提供できる場をさらに広げる可能性があると期待されていた。この課題を解決し、AIを活用することでさらに進化したサービスの実現に導いたのが、東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)が提供する「東芝アナリティクスAI SATLYS™(サトリス)」だ。

*角層細胞をAIで解析するカウンセリングサービス(2024年2月時点)


Before

同社では、旗艦店と通信販売限定で、角層バイオマーカーによる肌解析サービスを提供していた。好評だったが、有償でデータ解析を研究員が専用の解析機器で行う必要があり、結果が出るまでに通販だと二週間ほど時間を要していた。データ解析の精度を高め、サービス提供時間の短縮と全店舗での提供を目指し、AI活用を念頭に新たな仕組みを模索していた。

After

東芝のAIサービス 「SATLYS」を利用してフェーズを分けて開発を進め、2022年9月に新サービス「AIパーソナル角層解析」を全国の直営店で開始した。無料でその場でのパーソナルカウンセリングサービスとして肌解析を実施することで、体験者の売上単価、再来店率、継続率向上に大きく貢献、客層も広がった。

お客さまにとって真に価値ある商品を提供するために


 無添加化粧品からスタートした同社は、現在では「美と健康」の領域に特化した事業を展開している。

 同社の総合研究所では、皮膚の「角層」とその解析に関する独自の研究は20年以上の実績を誇る。なかでも2015年に開発した「角層バイオマーカー」測定技術は、角層細胞に含まれる7つのタンパク質を高精度に測定し、従来の肌測定では不可能だった肌内部のダメージや未来の肌トラブルを予測することを可能にした。この技術を応用した肌解析サービスを、有償サービスとしてファンケルの旗艦店「ファンケル 銀座スクエア」と通販サイトで提供していた。

 店頭や自宅で肌の角層を専用のテープで採取し、研究所にて同社の研究員が解析後、詳細な解析結果とともに、おすすめの商品やお手入れ方法の提案、生活習慣へのアドバイスなどを提供するというサービスは、「長年の研究成果に裏打ちされた、ファンケルにしか提供できないサービスで、お客さまには大変好評でした」と店舗営業本部 店舗販売企画部 販売企画グループ係長の馬玉シュ氏は語る。

 好評を得ていたサービスだが、研究員の経験値に頼る解析から、AIを活用してより多くのデータを積み重ねた上での新たなサービスの開発と、お客様体験の創造に向けて検討が始まった。

角層バイオマーカーが抱える時間とコストという課題の解決


 このサービスは知見のある研究員が専用の機器を利用してバイオマーカーの分析を行い、目視で角層細胞の形状を確認する必要があるため、時間とコストがかかるという課題があった。

 馬氏によると「有料サービスの上に、銀座スクエアでは約2時間、通信販売だと約2週間という時間がかかっていました。もっと多くのお客さまに無償で気軽に体験してもらいたい。そのためには、低コストで、解析時間を短縮できる仕組みが必要でした」と説明する。

 総合研究所 基盤技術研究センター 皮膚科学第三グループ 主任研究員の東ヶ崎健氏が着目したのが、AIの活用だった。「AIでモデルを作ればコストダウンと時間の短縮が実現できるはず。人間の目には見えない、または見過ごしてしまう部分まで認識してくれることにも期待しました」と東ヶ崎氏は語る。こうして肌解析へのAI活用の検討が開始された。開発を進めるなかで、コロナ渦での肌トラブルや、新たな顧客層の拡大という課題にも応える形で、全店舗の店頭で体験できる肌解析サービスの開発を目指すこととなった。

総合研究所 基盤技術研究センター
皮膚科学第三グループ 主任研究員
東ヶ崎健氏

AI分野における実績と、共創して開発できる安心感


 検討する中で、画像解析とAI技術に強みを持つ東芝アナリティクスAI「SATLYS」の活用が候補にあがった。「東芝であれば、AIモデルの試作・評価から本番環境の構築・運用・保守までをトータルでサポートしてくれる安心感がありました。またAIモデルの実装・運用、さらには、AIモデルの学習に必要な教師データの作成も東芝が支援してくれる。すでにさまざまな企業で活用されており、信頼も実績も申し分なかった」と東ヶ崎氏は振り返る。東芝がAIに関する特許を数多く取得していることも選定のポイントになったという。

 こうして2018年にAIの導入検討を開始し、ファンケルの長年にわたる研究の知見とデータ、そして画像解析AIに知見をもつ東芝との共創により、2022年9月に「AIパーソナル角層解析」サービスを全直営店舗で開始した。

 サービス開始にあたっては、カウンセリング内容や解析結果という専門用語やデータをいかにお客さまにわかりやすく伝えるかに苦心したという。同グループの内村史氏を中心に、店舗販売企画部の馬氏と共に話し合いを重ね、わかりやすい指標や用語の検討が重ねられたという。

 「AIが読み取ったデータ、研究所で使われる用語をいかにお客様にわかりやすく伝えるか、良い悪いという結果だけではなく、論理的に伝えるための表現に苦労しました。肌トラブルに対抗する力を7つの『肌力』と定義したり、お悩み別に分類したりするなどの工夫をしました」と内村氏は振り返る。「実はここが一番、苦心した点かもしれない」と東ヶ崎氏、馬氏、内村氏は口を揃える。

 こうして始まった「AIパーソナル角層解析」は、テープで角層を採取し、その場で肌スコープを利用して撮影、その画像が、クラウド上にある「SATLYS AI共通基盤」を通じて解析されすぐに解析結果がその場で確認できるようになった。「SATLYS AI共通基盤」上には、再学習とAIモデル更新機能も備えており、安定運用と精度向上を実現している。

総合研究所 基盤技術研究センター 皮膚科学第三グループ
内村史氏

購入単価が増え、再来店率も向上し顧客層も拡大


店舗営業本部 店舗販売企画部 販売企画グループ係長
馬玉シュ氏

 SATLYSを活用した「AIパーソナル角層解析」を開始した2022年9月は、コロナ禍により非接触が推奨され、直接お客様のお肌に触れるサービスの提供が難しくなっていた。とはいえ、「お客さまの多くは、自分の肌の状態を知り、実際に試してみて、最適な製品を選びたいと思っています」と馬氏。

 「解析結果はお客さまが10問の問診に答えている間に返ってきます。その速さにお客さまも驚かれます。しかも現在の肌状態だけではなく、未来の肌トラブルまでも予測してくれます。客観的なデータをもとにお客さまにとって最適な化粧品をご提案できる、非常に有意義なサービスです。これを全店に導入できたことで、お客さまとより深い信頼関係が築けるようになったと実感しています」と馬氏は語る。

 また「AIパーソナル角層解析」は、売上にも大きく貢献している。「サービスを体験した方と未体験の方を比べると、体験した方の購入単価が大きく上回っていました。購入アイテム数も増え、再来店率や継続率も上がっています」と馬氏は大きな手応えを感じている。

 さらなる効果は、顧客層の拡大だ。これまで同社化粧品の購入者は肌悩みや美容への意識が高まる30代~50代が中心だったが、同サービスを受ける4人に1人は20代や30代前半の若年層だという。

 AIによる解析結果は店舗で確認できるだけでなく、ファンケルのメンバーズアプリでお客さま自身がいつでも確認できるようになっており、継続的に体験すると、過去のデータと比較することができる。肌の改善状況がグラフ化されるので説得力があり、お客さまのモチベーション向上にもつながっているという。

よりよいパーソナルケアを目指して


 「AIパーソナル角層解析」はサービスを開始して以来、多くのお客さまの肌悩みの改善と肌トラブルの防止に活用されてきたが、今後も改善への努力は続いている。次の段階では、関連するデータやDXへの取り組みを、新たな技術開発へと応用していきたいという。

 もう一つの技術的な挑戦として内村氏が挙げるのが「予測値の精度のさらなる向上」だ。学習数を増やしたりするなど、東芝とも継続的に相談しながら研究開発を進めている。未来の肌トラブルリスクを予想する際の正答率を「限りなく100%に近づけたい」と、開発担当の東ヶ崎氏も意気込みを見せる。より細かい解析、より適切なカウンセリングを目指して精度の向上を図りたいという。

 売上増加と新規顧客層の獲得に大きく貢献しているファンケルの「AIパーソナル角層解析」。さらに多くの顧客と出会い、その美と健康に貢献するためにも、サービスの充実と進化は欠かせない。今後は生成AIの積極的な活用も進めていきたいという同社の進化を、東芝は引き続き高いAI技術で寄り添いつつ支えていく。

SOLUTION FOCUS

東芝アナリティクスAI「SATLYS™(サトリス)」

東芝アナリティクスAI 「SATLYS™」は、東芝の「ものづくり」の実績から得た知見をAI技術に集大成し、高精度な識別、予測、要因推定、異常検知、故障予兆検知、行動推定などを実現します。
お客様との共創を通して、AIモデルの設計・学習およびAI推論サービスの構築を行い、検査データ、センサーデータ、業務データ、行動データなどの解析により、生産性向上や業務効率改善を行います。

この記事の内容は2023年12月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

会社名
株式会社ファンケル

設立
1981年8月

代表者
代表取締役 社長執行役員 CEO 島田和幸

本社所在地
神奈川県横浜市中区山下町89-1

事業内容
化粧品・健康食品の研究開発、製造および販売

URL
https://www.fancl.jp/index.html