物流現場の人の動きをリアルタイムで可視化・分析可能に
「Meister Apps™ 現場作業見える化パッケージ」
総合的な物流サービスを提供しているSBS東芝ロジスティクス株式会社では物流センター内の業務改善のために、作業者のデータ収集・可視化に早くから取り組んできた。活動量計を使用した作業行動の見える化に東芝と共に取り組んできた同社が、より効率的なデータ収集と分析を実現するソリューションとして採用したのが、東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)の「Meister Apps™ 現場作業見える化パッケージ」だ。
Before
現場での作業状況や業務上の課題把握のためには、現場に張り付いて観測対象者の作業状況を観察しデータを取る必要があった。そのためデータを取得できる対象者数も観測時間も限られる上、観測用紙に記入したデータをPCに入力する必要があった。また取得データの加工や分析にも時間と手間がかかっていたため、よりよい解決策を模索していた。
After
「Meister Apps™ 現場作業見える化パッケージ」により、リアルタイムで作業者の動作データの可視化を実現。ビーコンを利用して位置情報の取得も可能になり、複数の見える化テンプレートを利用することでデータ分析を効率的に行え、問題点や改善点を早期発見することができるようになった。必要な機器がワンパッケージ化されているため、必要な現場に迅速に適用しやすくなり、業務改善に向けた施策づくりや新たな機器導入のための効果測定のほか、同社の物流コンサルタント業務にも役立てられている。
ロジスティクステクノロジーを駆使し、物流DXを積極的に推進
1974年に東芝グループの物流コスト削減を使命として設立され、2020年には総合物流を手掛けるSBSグループの一員となったSBS東芝ロジスティクス株式会社。調達・製造から販売までのロジスティクス戦略を担うなかで蓄積してきたノウハウを生かし、ものづくりを熟知した物流会社として総合的な物流ソリューションを提供し続けている。
そんな同社において、自動化やロボット化などのロジスティクステクノロジーを駆使して業務の効率化や高度化を進め、現場業務から得たデータを活用する物流DX推進を担っているのが物流改革推進部だ。「2024年問題や人手不足など、物流業界をとりまく多くの課題を解消するために、物流センター内業務のロボット化や自動化などの技術研究に加えて、人手を減らしても出来る方法だけでなく、限られたリソースでより生産性の高い仕事ができる仕組みなど、人とロボットがうまく連携していくための環境整備に取り組んでいます」と説明するのは、物流改革推進部 次世代ロジ技術推進担当 グループ長 岩﨑 正氏だ。
物流改革推進部 次世代ロジ技術推進担当 グループ長
岩﨑 正氏
活動量計から作業者の行動推定結果を得る新たな手法に注目
そんな同部では、業務の効率化のために、早くからIE(Industrial Engineering)分析手法を用いて物流現場のデータ観測と評価をおこなってきた。当初は現場作業に密着してストップウォッチ片手にデータを収集したり、作業の様子をビデオ撮影したりする手法が主だった。「アナログな作業観測では、事前に段取りを細かく確認する必要がある上、人手も必要となり、観測対象者数にも限りがありました。そのため負荷も高い上に部分的な分析しかできず、全体を把握するのは難しい状況が続いていました」と同部主任 加藤 宏幸氏は振り返る。
そんな状況を大きく変えたのが、活動量計を用いたセンシング技術の活用だった。これは、加速度センサーを備えたリストバンド型デバイス(活動量計)を作業者が装着し、得られた波形データから、AI技術を活用して歩行、台車運搬、手作業、静止、といった作業区分を特定するというものだ。「もっと手軽に全体の作業内容を把握できる手段がないかと問題提起したのがきっかけでした。東芝グループ内のリソースをフル活用し、試行錯誤しながらより効率的にデータを取得するための挑戦を続けてきました」と岩﨑氏。データ分析には東芝アナリティクスAI「SATLYS」のAI分析サービス「SATLYS KATA 作業行動推定」を活用し、2017年には活動量計を活用した庫内作業の工数削減の取り組みが2017年度ロジスティクス大賞技術活用賞を受賞している。
活動量計を活用したAIの解析技術を活用し、取得したデータを元に現場の作業者の動きを推定できる環境づくりに成功した同社。しかし、次の課題として挙がったのが、取得した結果を抽出し、解析する時間と手間だった。「データを抽出するには、毎回、活動量計とPCをケーブルで接続しなくてはならず、一つずつデータを抽出し、その後自分でデータを加工、工夫する必要がありました。ここにかかる時間と手間を削減したかったのです」と同部の小島 敏美氏は語る。
物流改革推進部 次世代ロジ技術推進担当 主任
加藤 宏幸氏
物流改革推進部 次世代ロジ技術推進担当
小島 敏美氏
オールインワンパッケージの手軽さに加えて位置情報の取得が可能に
そんな課題を抱えていた同社がそれまでにも相談していた東芝から提案されたソリューションが、1つのパッケージで現場作業のデータ収集から可視化までを実現するMeister Apps 現場作業見える化パッケージだった。「無線LAN経由でリアルタイムに必要な情報が可視化できるのは大きなポイントでした。データ収集や分析のためのデータ加工もテンプレートを利用して自動化されます。すべてがパッケージ化されていることでかなり工数を削減できる点が大きなメリットだと思いました」と小島氏。
Meister Apps 現場作業見える化パッケージは、サブスクリプションで利用でき、初期導入時の大掛かりな設備投資が不要なため導入も容易だ。パッケージには、リストバンド型デバイス、スマートフォン、Wi-Fiアクセスポイントやデータ収集・可視化のためのPC、そして位置情報取得のためのビーコンが提供されるだけでなく、導入から使いこなすための見える化テンプレートなどがすべてオールインワンにセットされている。
また、ビーコンを活用して位置情報が取得できるようになることも大きな魅力だった。「動きの多い物流の現場で、作業者の行動や位置情報を時間軸で捉えることで、さらにきめ細かい分析が可能になることは魅力的でした」と加藤氏。
トライアルを経て、物流現場での作業内容を活動量計からのデータを元にリアルタイムに可視化する仕組みとして、2022年3月にMeister Apps 現場作業見える化パッケージの正式な導入が決まった。
客観的かつ精緻なデータ分析で物流の現場作業の効率化に貢献
「改善したいと思う現場にパッケージを持ち込み、1〜2週間ほどかけてデータを収集し、課題を抽出、分析した上で業務改善につなげています。その後、再度現場にて1〜2週間ほどデータを取得し、改善できたかどうかの検証をおこないます」と小島氏は説明する。
「可搬性が高く、スポットで使えるのはありがたい。当社の営業部門は物流コンサルティング業務も手掛けているため、お客様の物流現場を診断するツールとしても活用しています。リストバンド型デバイスを使った現場の見える化にはお客様の関心も高く、引き合いが増えるなど、営業面にもよい効果が出ています」と岩﨑氏は高く評価する。
Meister Apps 現場作業見える化パッケージの導入により、より精緻なデータが取得可能となり、可視化された客観的なデータに基づいた議論ができるようになった点も大きいという。「データをリアルタイムで収集し、グラフも同時に作成されて時間単位で更新されるため、素早い分析や判断につなげられます。さまざまな場面で柔軟に使えるソリューションとして大変重宝しています」と小島氏。さらに「工場などの製造現場では、作業位置が固定されているケースが多いため、ビデオカメラで撮影された映像から作業を推定する技術が多く使われています。しかし、我々のような物流現場では多くの作業者があちらこちらに移動するため、ビデオ分析の手法だけでは全体の活動を正しく把握するのは難しい。物流現場の作業者の負担が少なく的確に計測できるのはMeister Apps 現場作業見える化パッケージの大きな魅力です」と小島氏は評価する。
現場の作業だけでなく物流業界全体の業務改善に幅広く活用したい
現在はMeister Apps 現場作業見える化パッケージを主にピッキング作業の情報収集、分析結果の見える化に利用している同社だが、特長の一つであるビーコンによる位置情報の取得機能について、固定の位置情報だけでなく、今後、人が動いた軌跡まで取得できるようになれば、さらに有効な情報としての活用が可能になるだろう。また、倉庫管理の仕組みであるWMS(倉庫管理システム)のログデータと連携させることで、新たな用途への活用も期待しているという。作業推定のアルゴリズムを、ピッキング以外の梱包工程や事務作業などに適用する方法にも期待が寄せられている。
現場作業の可視化によって、物流業界のさまざまな課題解決に貢献する「Meister Apps 現場作業見える化パッケージ」。機器の進化に伴い、ストレスレベルや気温、湿度などのデータを取得することで作業者の体調を見える化する取り組みも進めているという。東芝は、今後も同社の活動を支えながら、さらなる課題解決につながるソリューションとして進化させていく。
SOLUTION FOCUS
IoTやAIの技術を活用し、作業員など人のさまざまな活動データ(5W1H)を自動的に収集・蓄積して、現場作業の実態把握や分析を可能にするサブスクリプションサービスです。人員配置などの課題や非効率作業のポイントを発見できるため、作業員の負荷適正化や効率化へ向けて対策が打て、現場全体の生産性向上に貢献します。ビーコンやリストバンド型センサー、スマートフォンなど必要なソフト、ハードをオールインワンパッケージとして提供しているため即日導入・利用開始が可能です。
SATLYS KATA 作業行動推定
「SATLYS KATA 作業行動推定」は、当社が提供しているAI分析サービスの中から、作業者の行動推定に特化したサービスです。リストバンドなどのウェアラブルデバイスを用いて作業者の腕の動きの加速度データから装着者の行動を東芝独自のディープラーニング技術で推定します。
この記事の内容は2023年7月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。
COMPANY PROFILE
会社名
SBS東芝ロジスティクス株式会社
設立
1974年10月1日
代表者
代表取締役社長 金澤 寧
本社所在地
東京都新宿区西新宿8-17-1 住友不動産新宿グランドタワー25階
事業内容
倉庫業、貨物利用運送事業、機械器具設置工事業、とび・土工工事業、通関業、航空運送代理店業、物流コンサルティング
URL
https://www.sbs-toshibalogistics.co.jp/