知財に特化したパッケージでは対応できない業務から効率化を実現
柔軟なカスタマイズと継続的な機能拡大を可能にする「知財管理サービス」
デンソーやトヨタ自動車等から受ける研究テーマについて、開発研究する株式会社SOKENでは、この開発から生まれる発明を出願申請に至る前段階に「特許ミーティング」という重要な発明検討プロセスがある。この特許ミーティングの効率化を目指して東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)が提供する特許業務ソリューション「知財管理サービス」を導入し、段階的に機能を拡大しながら知財管理業務全般のシステム化を着々と進めている。
Before
出願前に行われる特許ミーティングでは、スケジュール調整や議事録管理、特許案件の管理など、複数のツールが使われていた。そのため煩雑で、スムーズに情報共有できない状態が続いていた。そんな折、特許ミーティングで発明の質を評価する新たな仕組みが求められ、同時にツールの老朽化対応として既存環境の刷新が迫られることとなった。
After
東芝の知財管理サービスの導入により、特許ミーティングの煩雑な業務をシステム化。継続的な見直しとカスタマイズを行い、知財活動全般の業務を効率化することに成功した。同社が描く理想的な知財業務のシステム化を実現し、情報の一元管理化によるスムーズな情報共有により知財業務の効率化に貢献。全社的な知財活動支援ツールとして活用している。
知財活動において重要な事前調整業務のシステム化を目指す
株式会社SOKENは、1970年に排ガス低減と自動車の安全対策を目的に、トヨタグループ11社の出資により設立された研究機関。現在は株式会社デンソーとトヨタ自動車株式会社の2社を出資会社として、パワートレインやパワーエレクトロニクスなど自動車関連技術の研究開発を担っている。最先端の研究はもちろん、量産実装可能な技術の研究開発までを手掛け、研究開発に携わる人材が多く在籍している。これら研究開発の成果として、発明者から特許の提案を受け付け、その内容精査や出願するかどうかの検討、発明内容を評価する特許ミーティングを日常的に開催している。これら提案は、年間何百件もの数に上り、関係者の日程を調整し開催する特許ミーティングの業務負担の軽減と効率化が大きな課題となっていた。「出願自体は提案元となるデンソーまたはトヨタ自動車が行うため、わが社の知財業務としては、発明者と我々知財Gとにより発明内容がどのように提案元に貢献しているかを協議する特許ミーティングが重要な役割となっています」と研究企画室 企画課 知財・法務G 担当次長 間瀬顕正氏が説明する。
この特許ミーティングのスケジュール調整管理や議事録作成には表計算ソフトが、特許案件の管理業務にはスタンドアロンで動作するパソコンで別のビジネスソフトを使用していた。「この特許ミーティングの運用が煩雑で非常に手間がかかっていたのです」と間瀬氏は当時を振り返る。特許出願数は年間400件(2018年)を超すが、出願に至らない発明を含めると提案件数はさらに多く、特許ミーティングの数は相当なボリュームとなる。スケジュール調整だけでも多くの時間がかかるうえに、表計算ソフトと別のツールが全く連携していなかったため、情報管理の負担はいっそう大きなものとなっていた。
研究企画室 企画課 知財・法務G 担当次長
間瀬 顕正氏
発明の質を評価する機能実装や既存環境の刷新が大きな契機に
2017年に特許出願の数だけでなく、発明の質もきちんと評価すべきだという機運が高まり、管理項目として発明の質と評価の数値化が求められることに。「日程管理や特許ミーティングの議事録管理だけでも負担が大きいなかで、新たに質の数値化を管理し、社内全体で運用できるようにする環境づくりが求められたのです」と間瀬氏。
同室 平野つた江氏は当時の状況について「議事録の確認、案件の進捗確認など求める情報ごとに別のツールを使わなくてはならず、統合的に情報を確認できる環境が望まれました。また、長年使っていたビジネスツールをバージョンアップする必要もあり、他のソリューションに刷新すべきタイミングだったのです」と説明する。
そこで各社のソリューションを比較検討する中で東芝が提供する知財管理サービスと出会った。
議論しながら細かくカスタマイズできる柔軟性が大きな魅力
最初に同社が求めていた機能は、特許ミーティングの議事録や発明に関する質の評価、日程調整や発明に至るフローも含めた案件管理ができることだった。将来的には各社が運用している出願の仕組みとの連携も含め、審査請求や公報との紐づけなど一般的な知財業務にまで拡張できることを念頭に模索したという。「知財業務に特化した製品の場合、出願管理や年金管理などの機能はパッケージとして備わっていますが、特許ミーティングに関連した情報管理はオプションとして別途カスタマイズして実装する必要があるものばかり。コスト的にも見合うものがなかなかみつかりませんでした」と間瀬氏。
「東芝の知財管理サービスは必要なものを1つずつ議論しながら構築できる点が大きな魅力でした。価格的にも他社品製品とは大きな差があり、大変驚きました」と間瀬氏は当時の衝撃を語る。平野氏も「以前はデータを持っているのは私一人だったため、問い合わせ対応が多く、手間がかかりました。知財管理サービスを採用したことで、発明者自身が同じ情報を確認できるようになり、とても助かっています」と評価する。
また、クラウドサービスを利用するにあたり、デンソーの厳しいセキュリティ基準に合致しているかどうかの厳格なチェックが求められた。「我々は特許のプロですが、セキュリティのプロではありません。そこで東芝側に相談したところ、セキュリティ条件に関するアドバイスも含め、厳しいチェック項目に真摯に対応してくれました。当時社内でも先陣を切った画期的なクラウドサービス活用でしたが、安心してきちんと運用できる環境づくりができたのは東芝のおかげです」と間瀬氏。充実した支援体制も選択のポイントだったという。
そして、同社への提案アプローチの際に”誰が来たのか”という点も大きな選定要素の1つだったと間瀬氏は力説する。「他社の場合は通常は営業担当だけが来社されるため、用件を伝えても社内に持ち帰って検討するという流れになりがちです。東芝の場合、営業担当はもちろん、知財業務に詳しく、ソリューションそのものをハンドリングできるエンジニアが当初から同席し、疑問点にもすぐに答えてくれました。その結果、意思疎通も早く、実現のイメージがその場でできたのは大きなポイントでした」。
その結果、特許ミーティングに関わる各種業務を統合的に管理するソリューションとして、東芝の知財管理サービスが選ばれた。
段階的に機能を拡張、全社で活用できる知財活動支援ツールに成長
2018年の導入後は、段階的に機能を追加し、少人数でも運用できる環境が整備されてきた。従来は紙で運用していたトヨタ自動車との出願への手続きも、知財管理サービス内で行えるようになり、デンソーが持つ特許管理システムとの連携も実現した。「最初にプランを出し、相談しながら環境を整備してもらい、運用の中でより良いものに練り直していく。柔軟性のある仕組みだからこそ、PDCAを回しながらシステムの完成度を上げていけるのです」と間瀬氏は高く評価する。
同社が構築した仕組みの特長は、特許ミーティング時に判断した質の評価が、あらゆる機能に紐づけられるようにした点だ。「審査請求時においては、特許ミーティングで評価した質を基準に再考すべき指針をシステム側から発明者に提示し、適正な審査請求ができるように支援する機能が備わっています。第2国出願検討や年金維持検討についても、同様に発明の質を基準に要否判断の指針を提示されます。また、検討者へ通知するメール文も指針にあわせて自動変更される機能なども大変役立っています」と間瀬氏は説明する。
東芝の知財管理サービスを活用し、同社が描く理想的な知財業務の環境を整備したことで、「一番のメリットは、できなかったことができるようになったこと」と間瀬氏は力説する。「発明に関する質の評価を各機能に紐づけるなど、やりたかったことが実現できたのが何よりも大きい。全社一丸となった知財活動の支援ツールとして作り上げることができました」。ただし、自由度が高い知財管理サービスだけに、自分たちが知財業務のあるべき姿を明確に意識できているかどうかが最適な仕組み作りには欠かせないと指摘する。
東芝に対しては、定期的に拡張を続けていく過程で、課題解決に向けてしっかりとした提案をしてくれると評価する。「東芝の知財管理サービスは注文住宅のように必要なものを追加していける点が大きな魅力です。以前は表計算ソフトのマクロを駆使して個人別発明件数などを集計していましたが、新たな機能では検索するだけで済むようになりました。難易度の高い要望にも真剣に対応し、使いやすい仕組みに仕上げてくれています」と平野氏。細かいカスタマイズを可能にするのは、知財業務に精通した東芝ならではのノウハウがあったからこそだと間瀬氏の信頼も厚い。
知財管理サービスで情報共有が進み、情報管理の質向上にもつながった。「発明者も含めて全員が同じ情報を共有でき、齟齬が起きなくなりました。発明者が自分の特許情報を見て、万一間違いがあれば指摘してくれる。正しい情報で正しく処理できるようになりました。また、出願番号さえ入れておけば公開番号や登録番号などが自動補完されるのもとても便利です」と平野氏は使い勝手の良さを評価する。ボタン一つで情報が取得できるので、以前のように検索して情報を探し出し、メールに添付するような手間も一切なくなったという。
外部との連携も視野に知財戦略の新たな基盤に育てていきたい
今後も引き続き機能の使い勝手を向上させるべく、新たな開発を継続的に進める計画だ。その先には、自社の発明に関連した出願だけではなく、業界全体を見据えて自社の知財戦略を練っていくIPランドスケープを背景に、「情報分析ツールや特許庁のデータベースなど、他の仕組みと柔軟に連携しながら、知財管理サービスが外部データも含めて取り込んでいくことで、自社の知財戦略を立案できるような環境を整備していきたい」と間瀬氏は大きな期待を寄せる。特許ミーティングにおける質の評価だけでなく、出願後のデータもフィードバックした上でよりよい発明を生む環境づくりも進めていきたい考えだ。
さらなる業務拡張に向けて、今後も東芝の知財管理サービスを有効に使いこなしていくことだろう。
SOLUTION FOCUS
知的財産戦略の業務遂行を強力に支援する東芝の「知財管理サービス」ソリューション。
知的財産に関わる様々な情報をクラウド上で一元管理。
お客様独自の管理項目や画面、帳票、業務フローを用途・目的に合わせて柔軟に設定可能。
ノンカスタマイズで柔軟性の高いシステムを実現し、業務効率化の推進、権利の有効活用まで特許管理業務をトータルにサポートします。
この記事の内容は2021年3月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。
COMPANY PROFILE
会社名
株式会社SOKEN
設立
1970年11月
代表者
取締役社長 若林宏之
本社所在地
愛知県日進市米野木町南山500番地20
事業概要
パワートレイン、パワーエレクトロニクス、電池、熱システム、情報安全及び、
カーボンニュートラルの研究事業