ワークフローの「差し戻し」も標準機能で実現
知財業務を一元化し、柔軟な作り込みができる東芝の「知財管理サービス」

 各種エンジン用電子制御燃料噴射関連機器を中心に、幅広い製品をグローバルにビジネス展開する株式会社ミクニでは、既存の知財管理システムの刷新に合わせて知財管理システムとワークフローの一元化を目指し、東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)が提供する「知財管理サービス」を採用した。


Before

知財管理システムとワークフローシステムを別々に運用しており、案件情報の転記や整合確認などに掛かる負担が大きかった。システムの利用が知財担当に限定されており、発明者など他部門との情報共有に課題があり、システムの運用の自由度にも限りがあった。また、出願工程管理を別途表計算ソフトで管理しており、うまく共有できていなかった。

After

知財管理サービスの特長であるフォルダ体系を利用して必要な情報が一元管理できるようになり、発明者など他部門にも必要な範囲の情報を開示できるようになった。同社が求めるワークフローを標準機能のみで実現し、転記作業などの工数が10分の1にまで削減されたほか、ペーパーレス化でテレワークへの移行もスムーズに。必要な管理項目の追加などが柔軟に行えるため、知財業務以外の事務作業にも応用できるようになった。

高度な技術を生かした知財戦略の要となる知的財産グループ


 株式会社ミクニは1923年に輸入商社の三國商店として事業をスタートし、2023年には創立100周年を迎える長い歴史を持つ企業である。四輪車や二輪車向けの燃料噴射システムを中心とした自動車関連製品をはじめとしてガス制御機器など幅広い事業をグローバルに展開している。

 事業領域が多岐にわたる同社において、グローバルに知的財産管理を行っているのが、コーポレート本部 経営管理室 知的財産グループだ。事業部門及び子会社からの要請に応じて発明提案の受付から権利化、審査請求、権利維持に向けた年金管理など知財業務を一手に担っている。
 同グループでは、発明者となる技術者や特許事務所との橋渡しをしながら、高度な技術を持つ同社の知財戦略を推進している。

 

技術者へのデータ開示やワークフロー運用に課題あり


 同社が利用していた既存の知財管理システムには様々な業務上の課題が顕在化していたと語るのは同グループ 係長 樋江井 理子氏だ。「知財管理システムと社内の汎用的なワークフローの仕組みが連携しておらず、特許データに関連したフローを実行するたびにデータを入力せざるを得ませんでした。専任担当者が必要になるほど煩雑な業務となっていたのです」と当時を振り返る。

 また、特許出願の進捗状況などの問合せに効率的に対応するため、技術者にもシンプルに情報開示できる環境が求められていた。「当時運用していたシステムでは、技術者用の画面も知財管理者と同じもので、技術者に必要な情報のみを簡易的に提供できるインターフェースではなかったのです」と樋江井氏。

 さらに、別途表計算ソフトで案件の工程管理をする一方で加えて手書きのノート台帳を作らざるを得ず、情報が分散管理されていた。「当時のシステムでは手続き完了日などは管理できましたが、手続きに至るプロセスを管理したくとも簡単に項目が追加できないため、表計算ソフトと手書きのノート台帳を併用して管理せざるを得なかったのです」と同グループ サブリーダー 高橋 健一郎氏も当時の状況を振り返る。「個別のツールで管理してしまうと状況が把握しづらくなり、チーム全体の業務が見えにくくなっていました」と同グループ リーダー 松本 崇氏は語る。

 そんな折、既存システムのバージョンアップのタイミングが近づき、課題となっていたワークフローとの連携も含めて管理システム全体の見直しを図り、新たな環境を模索することになった。

コーポレート本部 経営管理室 知的財産グループ リーダー
松本 崇氏

理想的なワークフロー運用が標準機能で実現できる点を評価


 システム全体の一元化や技術者への適切なインターフェースが提供できる仕組みを念頭に、複数製品を候補に検討を進めるなかで注目したのが、クラウドサービスとして手軽に利用できる、東芝の知財管理サービスだった。「社内のサーバを増やすことにはIT部門が難色を示していました。そのため、クラウド環境のサービスであれば導入できるのではないかと考えました」と樋江井氏。バージョンアップのたびに高額な費用が発生することなく、クラウドサービスならば定額費用で利用でき、常に最新の機能が利用できる点も大きな決め手となった。

 また、同社が求めていたワークフローがフォルダの設定だけで実現できる点も高く評価したポイントだ。「人事異動の際のワークフロールートの見直しや差し戻しも、フォルダの設定で簡単ですぐに実施できるなど、実務レベルでも非常に使いやすい」と高橋氏は評価する。さらに画面設計の自由度が高かった点も高く評価、新たな知財管理の基盤として東芝の知財管理サービス導入を決断した。

 

特許業務全般の一元化を実現、大幅な工数削減を可能に


コーポレート本部 経営管理室
知的財産グループ サブリーダー

高橋 健一郎氏

 現在は、発明提案から出願、審査請求、権利化および権利維持の年金管理といった特許業務全般の一元化が実現し、知財グループおよび発明者となる技術者や、公開範囲が限定された子会社のメンバーなど、総勢300名ほどが利用する基盤となっている。また、商標管理をはじめ、契約書を保管するデータベースとしても活用しており、商標管理や公報検索システム連携、審査経過情報取込など各種オプションも利用し、知財業務を効率的に運用している状況だ。公報検索システム連携オプションは、他社の類似情報を調査する際にも役立っているという。

 実際の運用では、技術者からの発明提案を入力するタイミングや、出願の審査が通って出願申請を促すタイミングなど、それぞれの必要なタイミングに応じて担当者にメールで通知が送られる仕組みになっている。「年金管理については、期限が近づいた案件のリストがメールで通知され、権利維持するかどうかの判断に向けたワークフローを動かしています。東芝の知財管理サービスであれば、年金納付に必要な帳票フォーマットで納付書を作ることができ、納付金額も自動計算されるので、作業時間の削減にも大きく貢献しています」と高橋氏。

 東芝の知財管理サービスの導入で特筆すべき点は、標準機能だけでワークフロー的な運用が実現できたことだ。
 「業務に慣れていないメンバーでも、フォルダ体系で業務フローを組み立てられるため、自分の作業範囲を把握しやすい」と樋江井氏。松本氏も「業務手順書は作成するだけでも時間がかかりますが、業務フローがフォルダ体系で構築できるため、通知のメールを見れば次にやるべきことがわかるようになっている。手順書を作らずとも運用できるのはありがたい」と評価する。

 以前は年間500件ほどのワークフローの運用に約250時間かかっていた。しかし、東芝の知財管理サービスに切り替えたことで、今では1件あたりわずか数分で対応できるようになり、10分の1ほどにまで作業時間を短縮することができた。さらにはワークフローを利用する審査者への通知もシステムから定期的に設定した時刻に自動送信されるため、日々のメール件数が多い審査者でも目につきやすく、忘れ防止につながり、短期間でワークフローを回収できるようになった。「以前は、ワークフローの進捗、結果の共有も紙で行われており、データ化されていませんでした。ワークフローの情報が共有化できたことをきっかけに、分散していたノート台帳や個別の管理表などの情報もすべて東芝の知財管理サービスで共有化することで、ペーパーレスで業務ができるようになり、コロナ渦の折、テレワークへの移行もスムーズでした」と樋江井氏は高く評価する。

コーポレート本部 経営管理室
知的財産グループ 係長

樋江井 理子氏

 また、過去の情報が蓄積されることも大きなメリットだという。「人事異動があった場合でも、前任者がどんな回答をしたのか、画面からすぐに確認できます。」と高橋氏。「情報を集約できたことで、最新の情報だけでなく過去の振り返りも可能となった。将来的な予測も立てやすくなり、先を見据えた仕事にも役立てられる」と松本氏の期待は高い。

 今回の東芝の知財管理サービス導入は、導入決定から知財部門内での展開まで約半年という短期間で進められた。「東芝の担当者には定期的に足を運んでもらい、こちらの状況を熟知した上で大変親身に環境整備を進めていただきました。レスポンスも早く、基本的に我々の要望に対して“できない”と言われたことはない気がします。知財管理サービスを作り込むプロセスはとても楽しい思い出になっています」と松本氏は振り返る。

経費の見える化や事前ミーティングの情報蓄積などさらなる活用に期待


 最近同社が新たに取り組んでいるのは、製品ごとに発生する経費の見える化だ。「標準機能のなかで、経費関連の情報を管理する項目を設定し、案件ごとの費用を把握できるようにしています。将来的な経費予測に役立てたい」と樋江井氏は意気込みを語る。

 今後は、発明提案の前に行われる技術者と知財部門とのミーティングなどの情報管理などもシステムに取り込んでいきたいという。「ミーティングのなかではさまざまな議論が行われるため、その発明提案前の情報についてもしっかり記録する必要があります。また保有している特許の価値評価の項目なども加え、権利維持業務にも役立てたい」と高橋氏。さらに、特許事務所とのシステム連携についても、互いに効率化につながるようなフローが見えてくれば検討したいという。

 さらに、一部のグループ会社にとどまっている情報公開範囲を海外の子会社などにも共有できていければと考えている。「海外現地法人でも新たな技術が生み出されており、出願管理が必要です。日本同様に情報を公開して知財管理サービスの業務フローに乗せていけるよう、利用可能な範囲を広げていきたい」と松本氏は今後のビジョンを語る。

 東芝の知財管理サービスは、同社の幅広い事業を支える知財戦略に欠かすことのできない情報基盤となっている。今後も同社のビジネスを強力に支え続けていくことだろう。

SOLUTION FOCUS

知財管理サービス

知的財産戦略の業務遂行を強力に支援する東芝の「知財管理サービス」ソリューション。
知的財産に関わる様々な情報をクラウド上で一元管理。
お客様独自の管理項目や画面、帳票、業務フローを用途・目的に合わせて柔軟に設定可能。
ノンカスタマイズで柔軟性の高いシステムを実現し、業務効率化の推進、権利の有効活用まで特許管理業務をトータルにサポートします。

この記事の内容は2021年10月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

会社名
株式会社ミクニ

創立
1923年10月

代表者
代表取締役社長 生田 久貴

本社所在地
東京都千代田区外神田6-13-11

事業概要
四輪自動車・二輪車向け部品、生活機器関連品等の製造販売等

URL
https://www.mikuni.co.jp/