機能拡張をスピーディーに実現しビジネスの変化に柔軟に対応
1,600万件の部品、15,000万件のBOM(部品表)を管理するシステムを構築。機能拡張が容易になり、大量データの処理性能は大幅改善、運用コスト低減にも貢献。
Before
パッケージソフトウェアをカスタマイズして利用していたが、機能の追加や変更に時間を要し、業務の変化や現場の要求に応えるスピードが遅かった。データ量の増加に伴い処理性能が低下、運用コストの負担も大きかった。
After
機能変更、拡張要求に自社内で対応し、市場環境や業務のさまざまな変化にスピーディーに応えられるようになった。従来に比べてバッチ処理性能を3倍以上に改善、運用コストも削減した、今後、システムの利用範囲をさらに拡大する計画となっている。
顧客要求に応じた高度な半導体製造装置を開発
スマートフォンをはじめとするデジタル機器、白物家電やデジタル家電、電子化が進む自動車など、私たちを取り巻くあらゆるところに半導体デバイスが組み込まれている。マイクロプロセッサ、メモリ、パワートランジスタなどに代表されるこれら半導体デバイスは、「産業の米」とも呼ばれており、さまざまな技術の発展や産業の成長を支えている。
高性能化と高機能化が進む半導体デバイスの開発や製造に欠かせない高度な半導体製造装置を手掛けているのが、東京エレクトロンである。
「近年は、スマートフォンなどデジタル機器向けの半導体デバイスや、デジタルカメラの記憶メディアでもおなじみのフラッシュメモリなどが市場をけん引しています。市場の拡大に伴って半導体ベンダーの設備投資は活発で、当社が提供する半導体製造装置への引き合いも増加しています」と、同社執行役員を務めるIT本部の小泉恵資本部長は概況を説明する。
府中テクノロジーセンター
同社の製造装置は基本的には、各半導体ベンダーの要求仕様に基づいて開発され納入される。「当社にとってお客様の仕様がもっとも大切です。品質を管理してお客様にサポートを提供するという意味でも、すべての製造装置に関して設計図面、部品リスト、製造履歴などを管理しておく必要があり、そのためのITシステムを以前から整備してきました」と、東京エレクトロン九州で情報システム部部長を務めるとともに、東京エレクトロンのIT本部技術システムを兼務する川島律男担当部長は述べる。
パッケージソフトの旧システムにさまざまな課題
東京エレクトロン
執行役員 IT本部 本部長
小泉 恵資 氏
東京エレクトロンでは、かつては本社のメインフレーム上のシステムと、山梨、熊本、岩手、宮城、東京・府中などの製造拠点(関連会社)ごとのローカルなシステムを組み合わせて管理システムを構築していた。その後、全社でのシステム統一化を目的に、2000年頃にPLM(製品ライフサイクル管理)用のパッケージソフトを導入した。しかし、パッケージソフトのシステムを実際に運用してみると、いくつかの課題が浮き彫りになってきたという。
一つ目の課題は、機能の追加や変更に時間を要してしまう点だ。情報システム部設計支援グループの河村聡太郎グループリーダーは次のように当時を振り返る。「設計部門や製造部門から機能を追加してほしいといった要求があった場合や、組織が拡大したときにパッケージソフトの改修をソフトウェア開発会社に依頼しなければならないため、業務の変化や現場の要求に応えるスピードが得られませんでした」。
二つ目の課題が処理性能だった。「データ量やデータ属性の増加に伴って、部品の一括変更などのバッチ処理や部品表の出力が重くなってしまい、処理の終了見込み時刻に業務を合わせるといった逆転的な運用を余儀なくされていました」と、情報システム部設計支援グループの長谷川秀人副主事は明かす。ちなみに、設計図面点数は延べ680万件以上、部品点数は延べ1,600万件以上、装置の部品構成を管理するための部品表データ件数が15,000万件にも及ぶという。
三つ目の課題として、パッケージソフトウェアの保守費も相当な負担になっていたことが挙げられる。
「半導体製造装置の分野で生き残っていくためには、機能変更に対する制約が大きく保守費もかさんでいた既存のパッケージソフトを使い続けるのではなく、当社に適した効率的なPLMシステムをつくるべきではないかとの考えに至り、09年に部門横断の組織を立ち上げて新PLMシステムの開発に着手しました」(小泉氏)。
柔軟性に優れるサービス志向型の「PLMMeister®」を採用
新PLMシステムではいくつかの要件が定められた。なかでも一番のポイントは改修の容易性だったと川島氏は述べる。「パッケージソフトを使った旧システムで課題となったベンダー依存性をできるだけ抑えるために、ある程度の変更であれば当社側で作り込める柔軟なシステムを要件として掲げました」。また、もうひとつの課題であった処理の遅さについては、業務に影響を与えないように、およそ従来比3倍の性能目標が定められた。同社はこれらを含む種々の要件を複数のシステムベンダーに提示したのち、各社が出してきた提案を公平・公正に評価した結果、「PLMMeister®」をベースにした東芝ソリューションの提案を採用することにした。
PLMMeisterは、導入企業の形態に合わせたPLMシステムをセミオーダー的に構築できるWebサービス型のソリューションで、ビジネスの変化に対応できる柔軟性を持つほか、システム構築および運用コストの抑制が図れるなどの特徴を備えている。部品管理、BOM*1管理機能などを共通アセットとして組み込めるのも利点で、さまざまな製造業に導入実績がある。「多くの機能を柔軟に拡張できる『SOA*2』方式を採用しているところが心に響きました」と、小泉氏は選定の理由を説明する。「また、旧システムで出たさまざまな課題に東芝ソリューションが解決に当たった経緯があり、当社の業務やシステムを熟知しているという点も良かったです」。
東京エレクトロン九州
情報システム部 部長
東京エレクトロン
IT本部 技術システム担当部長
川島 律男 氏
半導体製造装置などの研究開発が行われている先端プロセス開発センター。
新PLMシステムの開発では、東芝ソリューション側がPLMMeisterをベースにデータベースやロジックを開発し、東京エレクトロン側が画面開発を担当した。旧システムでカスタマイズされていた機能もすべてPLMMeister上に実装された。
東京エレクトロンと東芝ソリューションとで共同開発
川島氏らはこの共同開発のプロジェクトに「情(じょう)」という名前を付けたという。「単に『新PLMプロジェクト』では面白みがありません。東京エレクトロンと東芝ソリューションがそれぞれ『情熱』を持ってプロジェクトに臨むという意味と、『情報技術』の力で当社の業務を効率化したいという意味の両方を込めて名付けました」(川島氏)。なお、両社のエンジニアリング力を結集させようと、「情」には「Joint of Engineer(Joe)」という意味も込められているという。
通常のシステム構築やインテグレーションでは、ユーザー企業の要求仕様に基づいてシステムベンダー(インテグレータ)が開発し、完成したシステムを納入物としてユーザー企業が受け取るという形態が一般的だ。これに対して今回の「情」プロジェクトでは、東芝ソリューションがシステム本体を開発し、東京エレクトロンがユーザーインタフェース(画面)を開発するというスキームで進めることにしたため、すり合わせのオーバーヘッドや開発の後戻りが懸念されたが、「東芝ソリューションはそうした進め方にもしっかりと対応してくれました」と、河村氏は言う。
また、新システムの稼動に向けて課題となったのが旧システムからのデータ移行であった。「データの移行忘れや欠損が生じてはならないので、東芝ソリューションと共同で綿密なリハーサルを繰り返すとともに、並行してデータのクレンジング(誤データなどの洗い出し)を進めていきました」(長谷川氏)。
実際の切り替え作業は、東京エレクトロン東北(岩手県)および東京エレクトロンFE(東京都府中市)を皮切りに、東京エレクトロン九州(熊本県)、東京エレクトロン山梨(山梨県)、東京エレクトロン宮城(宮城県)と順に進めていった。業務に影響を与えないようにゴールデンウィークや夏期休業などの時期に行う必要があり、すべての移行を完了するまでに1年半を費やしたという。最後にリファクタリング(プログラムの内部構造の整理)やバージョンの統一を実施して、当初の計画通り、2013年8月に新システムへの切り替えを完了した。
東京エレクトロン
情報システム部
設計支援グループ
グループリーダー
河村 聡太郎 氏
*1 BOM/Bills of Materials(部品表、部品構成表)の略。製品がどの部品・下位構成品・中間製品および原資材などから構成・製造されるのかという関係を示したリスト、またはデータベース。
*2 SOA/Service Oriented Architecture(サービス志向アーキテクチャ)の略。ソフトウェアを「サービス」という機能単位に分解して構成する方式。複数のサービスを組み合わせてユーザーから見たアプリケーション機能を実現するため、自由度が高く開発効率にも優れる。
柔軟性が確保され機能強化を東京エレクトロンで推進
東京エレクトロン
情報システム部
設計支援グループ 副主事
長谷川 秀人 氏
パッケージソフトベースで構築されていた旧システムでの変更に時間を要するなど、ビジネスの変化に即応できないという課題は新システムではどうなったのか。SOAで構成されるPLMMeisterを採用したこと、および東京エレクトロン側で画面を設計できるようにインタフェースとシステムロジックとを切り離したことなどがあいまって、きわめて柔軟性の高い新システムが完成したと川島氏は言う。「最終的にとてもいいシステムができ上がったと思っています。余談ですが、文化も立場も違う東芝ソリューションと一体感を持ちながら『情』プロジェクトを進められたことで、完成を祝った打ち上げはとても感動的なものになりました」。
河村氏も、「開発費用はもちろん、開発期間についても当初の約束の範囲できっちりやってくれたことに感謝しています」と述べている。なお、社内ユーザーの要望に沿った画面機能の拡張などはすでに社内で行っているそうだ。
旧システムではバッチ処理の遅さも課題に挙げられていたが、新システムでは目標とした3倍以上の性能が得られており、「システムの処理完了を待たなければならないといった運用上の制約からようやく解放されました」と長谷川氏は述べる。また、各拠点が独自に機能を追加したことで生じていたわずかな差異も、システムの一元化により解消された。
現在は東京エレクトロンの国内拠点にのみ本システムを適用しているが、中国の昆山(クンシャン)にあるフラットパネルディスプレイ製造装置の製造拠点にも近日中に展開する計画である。
さらなるバリューを生み出すITへと進化を図る
東京エレクトロンでは新しいPLMシステムをスタートラインと位置づける。川島氏は、「『情』プロジェクトは東芝ソリューションの協力もあり成功を収めましたが、機能的にはまだまだ旧システムの置き換えにすぎません。今後は今回のシステムをベースにしながら、設計者や製造担当者の業務負担を減らすようなバリュー(価値)をIT部門としていかに付加していくかが重要と考えています」と述べた。
ITを統括する小泉氏も同様に、「これまでIT部門はコストセンターと言われてきましたが、これからはバリューセンターへの進化を目指していかなければなりません」と意欲を示すとともに、「当社のITがバリューを生み出すためにも、東芝ソリューションの今後の提案に期待しています」と述べている。
東京エレクトロンは2013年9月に、米国の半導体製造装置企業であるアプライド マテリアルズ社との経営統合を発表した。「半導体の技術革新はすさまじく、半導体製造装置メーカーの生き残り競争も激化しています。アプライド マテリアルズとの経営統合によって、さらなる成長を目指していきます」(小泉氏)。これからも東芝ソリューションは、バリューを生むITへと進化を図る東京エレクトロンに貢献していく。
半導体材料を円盤状の薄い板に加工した「ウェーハ」を評価機まで運ぶ。ゴミの付着を防ぐため、箱の中は真空だ。
ここに掲載しているコンテンツは、日本経済新聞 電子版広告特集「先端企業が挑み続けるイノベーションの姿」として、2014年3月~2015年3月まで掲載されたものの転載です。
この記事の内容は2014年2月14日に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。
COMPANY PROFILE
会社名
東京エレクトロン株式会社
創業
1963年11月11日
代表者
代表取締役会長兼社長 東 哲郎
所在地
東京都港区赤坂5-3-1 赤坂Bizタワー
事業内容
半導体製造装置のリーディングサプライヤーとして幅広い製品分野の開発・製造・販売を行っている。また、半導体製造装置の分野で蓄積した専門技術を生かして、フラットパネルディスプレイ(FPD)製造装置も手がけており、それぞれ世界市場で高いシェアを獲得している。2013年9月に米アプライド マテリアルズ社との経営統合を発表。真の「グローバル・イノベーター」として半導体・ディスプレイ産業の発展に大きく貢献する企業を目指す。