基幹システムの共有で合理化・省力化を加速

全国地方紙が活用できる「新聞共有システム」

共同通信社は、記事や写真の編集・管理を行う「素材管理」や紙面制作を行う「組版」、印刷設備に紙面データを受け渡す「出力」など、新聞社の基幹システムを共同利用できる「新聞共有システム」を構築。新聞社が改善を望んでいるシステム負担の低減を実現し、さらなる合理化・効率化に貢献。


Before

投資額の大きい新聞制作システムがオープン化したことで、以前に比べてシステムのライフサイクルが短縮。更新頻度も高まるなど、新聞各社ともシステム投資が経営に大きなインパクトを与えていた。そして、さらなる合理化・効率化に向けて地方紙では新たな環境を必要としていた。

After

新聞制作システムを共有化することで、地方新聞社が自社内で設備を保有することなく紙面制作が可能な基幹システムを整備。バックアップサイトの設置など災害・障害対策も強化された。参加新聞社が増えていくことでシステム投資負荷の軽減と効率化が期待されている。

地方新聞社のシステム投資負荷を軽減するために


 アジアに軸足を置く総合国際通信社として、全国の新聞社とNHKが組織し1945年に誕生した一般社団法人共同通信社。国内外の主要88都市に支局を展開し、様々なニュースを取材、編集し、全国の新聞社やNHK、民間放送局、海外メディアに提供。新聞をはじめラジオやテレビ、各種Webサイトなど配信先は多岐に渡り、日本語だけでなく英語や中国語、韓国・朝鮮語で配信を行っている。正確公平な情報提供によって公平な世論の形成と社会の健全な発展を目指し、国際相互理解の増進に寄与することを目的に報道活動を続けている。

 共同通信社をはじめとした新聞業界では1970年代よりシステム化を継続的に行ってきており、現在では合理化や効率化がかなりの部分で進んでいる。汎用機などで構築されていた、新聞制作に欠かせない素材管理や紙面制作を行う組版などの新聞制作システムは、現在はクライアント/サーバー型のオープンシステムによって構築されている状況だ。その結果、コスト削減はある程度進んだものの、システムのライフサイクルは以前に比べて大幅に短くなっていると一般社団法人共同通信社 システム共有化推進本部事務局次長の柴田敏満氏は現在の状況を概観する。「新聞制作システムは新聞社の基幹システムであり、投資額も大きい。ライフサイクルが短くなることで、新聞各社ともシステムの維持管理に関する負担が大きくなっています」。しかも、新聞の購読者数の減少や広告収入の落ち込みなど経営環境が変化する中、システム投資負荷を軽減するための方策が、業界全体で模索されていた。

一般社団法人 共同通信社
システム共有化推進本部事務局 次長
柴田 敏満 氏

先導する共同通信社に、いち早く賛同した東奥日報社


株式会社 東奥日報社
システム局次長 兼 システム部長
千葉 誠昭 氏

 そこで、共同通信社を中心に加盟新聞社が集まってシステム共有化の検討が開始されることになった。このときに立ち上げたのが、加盟社50社による「加盟社システム共有化研究会」だった。「実際に実現可能なのかどうかが未知数だったため、RFI(Request For Information)を出してベンダーに情報提供を求めました。その結果、一定のコスト削減効果があり共有システムは実現性のあるものだという結論に至ったのです」と柴田氏。実は、この研究会に関する作業部会が発足した当初から参加していたのが、後に新聞共有システムのファーストユーザーとなる株式会社東奥日報社だった。

 そんな新聞業界全体で様々な議論が進んでいた2008年に、日本新聞協会が毎年開催している新聞制作講座の中で、地方銀行のある取り組みが紹介された。これが新聞共有システムを構築するきっかけだったと柴田氏は当時を振り返る。「複数の地方銀行が手掛けた業務システムの共有化に関する事例が紹介されました。同様の取り組みをすることで、新聞業界でもコスト削減に繋がる可能性を感じたのです」。

1888年に「東奥日報」を創刊し、現在はおよそ朝夕刊完全セットで25万部の発行部数を誇る地方新聞社の東奥日報社は、青森県に密着した地元の新聞社として多くの人に親しまれており、現在はインターネット動画サイト「東奥NETテレビ」や子供向け「週刊東奥小中学生新聞(JuniJuni)」の発行など様々な活動を展開している。「県紙である我々も、システムコストをいかに削減できるのかについて常に模索していました。同時に、バックアップセンターの用意など万一災害が発生したとしても、紙面作りが続けられる安定した仕組みも必要だと検討の過程で考えるようになったのです」と語るのは、株式会社東奥日報社 システム局次長の千葉誠昭氏だ。

その後、研究会の結論を受けて共同通信社が共有システムへの参加加盟社を募り、RFP(Request For Proposal)作成に向けた検討委員会が発足。「ある程度参加の方向性を各社に固めていただいたうえで参加をお願いしました。この中で最初に導入する意思表明を行ったのが、リーダー的な位置づけだった東奥日報社だったのです」(柴田氏)

わずか数本のラックで実現、高度な技術力に裏付けられた提案


 いよいよ実現に向け検討委員会で具体的なRFPを作成し、新聞制作システムを提供している各ベンダーに提案を依頼することに。その提案の中で高く評価されたのが、東芝ソリューションが提供するメディアマネージメントソリューション「DynamicCMS®」だった。「Webメディアなど新聞以外へのコンテンツ提供のしやすさといった将来性はもちろん、ネットワークが遮断されても紙面作りが継続できる“ローカル組版”の豊富な経験を高く評価しました」と柴田氏。他にも、遠隔地のサーバーを複数の拠点から利用できるよう最適なパフォーマンスで環境を整備した新聞業界での実績や、大規模顧客での経験を活かしたプロジェクト管理能力など、東芝ソリューションを評価したポイントを千葉氏は語る。

 また、多数のラック導入を前提にしたシステム構成を提案するベンダーが多い中、「東芝ソリューションは、わずか数本のラックでシステム構築する提案でした。逆に何か漏れていないかと心配になるぐらいでした」と柴田氏。しかし、その心配をよそに、東芝ソリューションの提案内容は、仮想化によって集積度を高める工夫を凝らすなど、高度な技術力に裏付けられたものだったという。

 「RFPで一番気にしたのが、広域ネットワーク越しでも快適なレスポンスが維持できるかどうか。特に紙面作りではサイズの大きな画像データも取り扱います。違和感なく使えるレスポンスが実現できるかどうかは重要」と千葉氏。このレスポンスに関してもしっかり考慮された提案がなされたという。

 参加する新聞各社が定量定性両面で各ベンダーの提案を評価し、最終的に東芝ソリューションが新聞共有システムを構築するためのベンダーとして選ばれることになったのだ。

最適だった「CMS」コンセプトが生み出す、さまざまな効果


 2011年6月にベンダーが仮決定したのを皮切りに、新聞共有システムに参加することを表明した4つの新聞社と一緒に仕様を固め、基本設計から詳細設計、開発作業を経て2013年4月より運用テストを開始。ファーストユーザーとなる東奥日報社の紙面を2013年9月に完全移行した。

 今回の新聞共有システムは、上流工程となる編集から紙面制作までの工程で利用するシステムであり、記事・写真などの素材を編集・管理する「素材管理」と紙面を制作する「組版」、そして広告などのデータと紐づけて輪転機に紙面データを受け渡す「出力」の大きく3つの機能が提供されている。これらの環境は、東日本にあるデータセンター内のブレードサーバー上に構築された仮想環境の中で稼働しており、万一の際には西日本にあるバックアップサイトが立ち上がるよう設計されている。

 「テストの段階ではOSやデータベースなど要素技術の面で課題が顕在化しましたが、スケジュールを守るべくバックエンドも含めた体制をしっかり整備していただくことができました」と柴田氏は評価する。実際の現場では、「当初の要件定義に含まれていなかった機能が明らかになると、現場に常駐しているエンジニアがスクリプトを作成するといった柔軟な対応を行ってくれたこともありました」と千葉氏も振り返る。

 特に今回のプロジェクトで苦労したのが、多くのステークホルダーとの意見調整だ。「発注者、受注者、利用者と杓子定規に考えてしまうと、なかなかプロジェクトが前に進みません。そこで発注者である我々を介さず直接要件について話してもらうなど、コミュニケーションを円滑にするための一助として東芝ソリューションが貢献してくれました」。

 実際の効果について柴田氏は「コスト削減が大きなテーマではありますが、参加企業が増えてきた段階で改めて評価する必要がある」としながらも、「サーバー室にあったラックの数が激減したことでスペース効率が高まり、冷却のための電気代はだいぶ削減できています」と千葉氏は評価する。

新聞共有システムの組版システムの画面にて紙面制作を行っている整理部員

新聞共有システムの組版システムの画面にて紙面制作を行っている整理部員

 また、東奥日報社では夕刊発行に向けてシステムが朝からきちんと立ち上がるよう夜中の確認作業が日課となっているが、現在はわずかではあるが確認作業の時間短縮にも貢献している状況だ。「バックアップセンターがあることで切り替えがいつでもできるという精神的な支えは大きい」と千葉氏。システム監視業務も共同通信社側で集中的に行っており、安心感に繋がっていると評価する。

 他にも、これまでは紙面確認のために新聞紙面サイズのプリンターである大刷り機で印刷を行い、遠隔地の支局へは縮小サイズの紙面をFAXで送信し確認依頼を行っていたが、現在はWebブラウザで検索し、PDFで確認することができるようになっている。ペーパーレス化に向けた第一歩を踏み出している状況だ。また、外部からの記事送信がVPNを経由して迅速に行えるようになり、特定のフォーマットで記述することでメールから直接記事入稿できる機能も新たに実装。現場からは好評だという。

今回の新聞共有システムで最も東奥日報の現場から期待されているのが、他の新聞社の記事を活用して紙面作りに役立てる「紙面交換」機能だ。現在他の新聞社と紙面を交換をする場合は、写真や文字情報の修正ができないフォーマットでしか交換できないが、新聞共有システムは写真や文字情報がそのままデータ交換できるような機能実装が可能な仕組みとなっている。「紙面に合わせて写真の色合いを調整したり地域にゆかりのある部分のテキストを太字にしたりするなどの加工ができれば、その効果は大きい」と現場からの期待も高い。新聞共有システムに参加する新聞社が増えれば増えるほど紙面交換のメリットが大きくなるはずだと千葉氏は力説する。

今回の共有システムについて柴田氏は「すべての環境をWindows化したことがコスト削減に大きく貢献しています。新聞共有システム以前からWindows化に取り組んでいた東芝ソリューションの先進性は評価できるポイント。システム全体の構造やCMSというコンセプトが、今回の新聞共有システムに最適だったという事です」と振り返る。

各社の強みとなるようなシステムを目指して


 現在は第一期の新聞共有システムが稼働を開始しているが、地域ごとに広告の差し替えや記事の入れ替えなどが柔軟にできる仕組みの実装を、第二期システムとして検討開始する予定だと柴田氏は将来像を語る。「第一期システムに引き続き、多くの新聞社に参加していただきたいと考えています」。また、コスト削減がテーマとなっている新聞共有システムだけに、参加する新聞社が増えることで機能が膨らむ際にも、可能な限りコスト削減を意識した東芝ソリューションの提案に柴田氏は期待を寄せている。

 また、利用者の立場として千葉氏は「新聞各社が持っているノウハウがシステムに実装されれば、我々にも役立つものになるはず。新聞共有システムを利用することで、互いに進化していければと願っています」と語る。

 最後に、理想的な新聞共有システムについて尋ねたところ、「新聞共有システムは、新聞社にとって根幹のシステムです。安定性はもちろん、間違いを防ぐこともできるようなシステムであるべき」(千葉氏)、「コスト削減という観点だけではなく、新聞社それぞれの強みになるような、プラットフォーム的な重要な位置づけのものにしたい」(柴田氏)と、二人は力説。今後の新聞共有システムのさらなる拡大と地方紙の未来を、東芝ソリューションはしっかりと支えていく。

この記事の内容は2014年1月27日に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

会社名
一般社団法人共同通信社

創業
1945年11月1日

代表者
社長 福山 正喜

所在地
東京都港区東新橋1-7-1 汐留メデイアタワー

概要
国内外ニュースをはじめ、写真や映像の収集、編集、配信

URL
https://www.kyodonews.jp/


会社名
株式会社東奥日報社

創業
1888年12月6日

代表者
代表取締役社長 塩越 隆雄

所在地
青森県青森市第二問屋町3-1-89

概要
日刊新聞発行、出版、各種文化事業、観光事業、ニューメディア関連事業

URL
https://www.toonippo.co.jp/