全国約120万人の大規模eラーニングを一元管理 保険販売体制の確立に挑む
約120万人の保険募集人ひとりひとりを
一つのIDで管理する、大規模システムを実現。
規制緩和で激変を迎えた保険業界
1996年4月、生命保険会社や損害保険会社の業務範囲などを規定している保険業法が、約半世紀ぶりに全面改定された。料率の自由化をはじめ、子会社・持株会社による生命保険業と損害保険業の相互参入、銀行、証券の相互参入、経営破たんなどから契約者を守る支払保証制度、銀行による保険募集の解禁、保険仲立人(ブローカー)の導入、ソルベンシーマージン(支払余力)の導入など、多くの制度改正が行われた。金融自由化を保険分野でも推し進める、いわゆる規制緩和である。これにより各社間の競争が激しくなり、差別化を図るためそれぞれが独自の保険商品を次々と開発していった。その結果、保険商品の種類が増えたうえ、商品の内容も複雑になり、消費者への保険商品を販売する代理店や募集人(保険契約取扱者)は、商品やサービスの内容を把握していくことが困難な状況になりつつあった。これを受け、損保業界では販売体制を改善する動きが進められた。
販売現場のサービス力を高める
業界大手の三井住友海上火災保険も、販売体制を改善するため、顧客対応力を向上させる取り組みを始めた。「保険契約の約90%を担う募集人の商品に関する知識を向上させる体制を作り直すことが鍵でした」と話すのは、販売推進部次長代理店ITチーム長兼メディア・チャネル企画チーム長の成相修氏だ。そのため、商品を販売する代理店と募集人の研修方法の改革に取り組んだ。「以前は各社横一線で商品の差別化はない状態。商品知識も複雑ではなかったのですが、自由化以降、商品内容や料率区分などが複雑になり、募集人自身が保険商品を理解しやすくなるようにと考えました。研修、マニュアルや説明ツール、事務ミス防止のシステムやチェック体制などを設けサポートしてきましたが、全国規模の募集人の状況を考慮した場合、インターネットを駆使し、より早く、より的確な分かりやすいシステムがあればと考えたのです。そこで、すべての募集人に向けた新たな教育システムを作ることにしました」(成相氏)。
販売推進部 次長 代理店ITチーム長 兼 メディア・チャネル企画チーム長
成相 修 氏
代理店単位から一人ひとりの募集人単位へ
三井住友海上火災保険は、募集人一人ひとりの業務・知識レベルに応じた教育と学習機会を充実させることを目指した。これまでのやり方と比べると大きな方向転換だった。同社には、当時全国で約120万人の募集人がいた。「これまでの教育研修は代理店単位で集合研修で実施していました。しかし、それでは規模が大きくなるにつれて不十分なので、個人単位で知識の習得状況を把握できる仕組みを構築しなければならないと考えました」と代理店システム部代理店MS1グループシステムマネージャーの山田大輔氏が言う。同社は募集人向けに新たな学習支援システムの構築作業に着手した。120万人規模を対象にした教育システムは簡単ではない。加えて、資格制度の変更も考慮に入れなければならなかった。募集人が保険商品を取り扱うには、日本損害保険協会が実施する「損害保険募集人試験」に合格し代理店として登録を受けるか、登録を受けた代理店において募集人として届出をし受理されることが必要だ。こちらは、一度合格すれば有効だったものが、5年ごとの更新制へ変更された。新設された「保険商品教育制度」も5年ごとの更新制だ(三井住友海上火災保険は、募集人資格、商品専門資格として運営している)。「募集人個人の資格取得や更新状況を把握することも目的のひとつでした。誰がいつ資格を更新しなければならないか、それを管理できるようにしたかったのです。また、この新たな管理業務が我々の営業にとって過度の負担にならないようにしたかった」(山田氏)。
代理店システム部 代理店MS1グループ システムマネージャー
山田 大輔 氏
パッケージで新システムを構築
「新制度が施行される2008年11月までに新システム稼働の目標を掲げ、ゼロからの自社開発かパッケージを利用した開発か検討しました(成相氏)。」「自社開発には膨大な時間とコストが必要(山田氏)。」という判断から、同社はパッケージソフトを導入する方針を固めた。最終的に選ばれたのは、東芝ソリューションの人財管理ソリューション「Generalist®」だった。成相氏は、その理由について「パッケージには、私たちが持っていないノウハウが詰まっていますし、1から開発しモジュール毎のアプリケーションを検証しなくても良く開発時間も節約できます。それを利用しない手はありません。また、東芝ソリューションへの信頼もありました」と言う。山田氏は「教育研修を本社で企画し、営業部門、代理店、募集人と研修を実施していく我々の業務フローと『Generalist』の階層構造の相性が良いと判断したから」と評する。人財管理ソリューション「Generalist」には大別すると6つのモジュールが用意されているが、その中からキャリア管理システムの「Generalist/CM」、eラーニングシステムの「Generalist/LM」を組み合わせ、募集人向けの学習支援システムの構築をスタートさせた。このシステムは「MSカレッジ」と名づけられた。
パッケージを熟知した対応力
三井住友海上火災保険が「MSカレッジ」構築に際し最も苦労したのは、システムの稼動時期は決まっていたが、肝心の制度がまだ決まっていなかったことだ。「新たに導入される『保険商品教育制度』の制度が決まる前にシステムの要件を定義しなければならず、構築中に何度も仕様変更を余儀なくされた」と山田氏は振り返る。「Generalist」はもともとカスタマイズには定評のあるパッケージだが、要件が定まらなくては、作業が進まない。「新システムによる教育研修体制の確立は必ずやらなければならないことでしたから、東芝ソリューションには協力いただいた事が多かった。その都度歩み寄ってくれ、いままで培った業務ノウハウをもとに私たちの要求を反映してくれた。その手腕には脱帽しました」(成相氏)。そして、保険商品教育制度がスタートする前の2008年10月、無事にカットオーバーを迎え、「MSカレッジ」は120万人規模の募集人が保険商品に関する最新の知識を習得・検証し、資格取得や習得状況を一元管理できるシステムとして稼働した。
販売推進部 次長 代理店ITチーム長 兼 メディア・チャネル企画チーム長
成相 修 氏
変革のトリガーに
代理店システム部 代理店MS1グループ システムマネージャー
山田 大輔 氏
新たな学習支援システムは様々な成果をもたらした。1人ひとりに一つのIDで管理しているので資格取得や受講履歴など一元管理ができるばかりか、動画やアニメーションを取り入れ楽しく学べる工夫をしているので資格取得のための学習が行いやすい、といったeラーニングでの成果が出てきた。それに加えて、これまでの業務も格段に効率化された。「本社主催のもので年間100回を超える研修や勉強会があります。そこに地域ブロックや各支店主催のもの、さらに資格制度の変更に伴い、フォローしなければならないことが増えたので、業務は純増しました。しかし、私たち社員と代理店の募集人、双方向の情報のやりとりが容易になったおかげで、現場の負担は以前より少なくなったと思います。eラーニングだけでなく、リアルの研修も含めた教育のポータルを作ることができました」と山田氏は手応えを感じている。それでも満足はしていない。「募集人の学習体制や環境が整ったに過ぎません。この仕組みを最大限に活用し、保険を販売するプロとして募集人一人ひとりがお客様への説明を確実に行って、お客様の意向を確認したうえで契約するといったプロセスの適正化を確保できて、はじめて機能したことになります」(成相氏)。あくまで顧客の視点で体制を推し進めようと考えている。今後の課題は、「教育研修コンテンツの拡充、資格取得への啓蒙、業務へのモチベーション醸成など、あらゆる角度から適正な販売体制の構築を支援していくこと」(成相氏)。抜本的な変革に向けた保険業界のディファクトスタンダードを目指す同社の挑戦に、引き続き東芝ソリューションもシステム面からの期待は高い。
SOLUTION FOCUS
東芝ソリューションが自社開発した人財管理ソリューションパッケージ。人事給与のみならず、eラーニング、キャリア管理も含めたソリューション。1998年から販売され、現在までに東芝グループ(10万5千人)をはじめ、製造、流通・サービス、建設、金融など多業種で900社以上の導入実績を持つ。先進的人事・給与制度から業種・業界ごとの固有制度まで幅広い機能を有するほか、複数法人の一括管理機能によりシェアードサービスはもちろんグループ企業の情報一元化も可能。評価・給与制度改定にも柔軟に対応できる高い適応力で戦略的な人材マネジメント環境を実現する。大企業向け導入実績としては国内トップシェア、中堅企業向けを含めた総合実績でも国内有力パッケージという位置付けで、ユーザー会による情報交換なども盛んである。
この記事の内容は2009年7月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。
COMPANY PROFILE
会社名
三井住友海上火災保険株式会社
設立
1918年10月21日
代表者
取締役社長 江頭 敏明
本社所在地
東京都中央区新川2-27-2
事業内容
全国に本部20・営業部支店126・営業課支社645の営業ネットワーク、損害サポート部29・保険金お支払センター282・損害サポート専門スタッフ約8250名の損害サポートネットワーク、世界の41の国と地域に318拠点の海外ネットワークを有し、営業・事故サービス体制で契約者に商品とサービスの提供を続ける。損保業界でも「法人(ビジネス)に強い」と評されるのは、三井物産を中心とした各界の広い支持のもとに興された旧三井海上、関西の銅業・貿易の有志により立ち上げられた旧住友海上、両社のノウハウと数多くの企業からの信頼を持ち寄り、2001年に三井住友海上としてスタートしていることに端を発す。