eラーニングの運用業務をBPO化し、スタッフ教育のさらなる充実化を実現

リクルートスタッフィングでは設立以来、一貫して派遣スタッフのスキルアップを目指して研修に力を入れてきた。2001年には、その一環として他社に先駆けて新たにeラーニング「エラン」を立ち上げた。そして05年6月には、「エラン」の一層のクオリティ・アップを実現するために、パートナーを新たに変えて、コンテンツの開発と運用をBPO(Business Process Outsourcing)化し、着実に成果を上げている。


Before

集合研修だけではスタッフ教育が行き届かないという懸念が高まり、eラーニングの充実を図ることにした。コンセプトとしては、利用者がファイルなど具体的な成果物を作成し、それを運営側が評価するというインタラクティブなものだったが、運用がスムーズに進まず、受講者数は伸び悩んでいた。

After

実技演習的なカリキュラムによって運用できるようになり、受講者が作成する成果物(各種ファイルなど)に対して、明確な基準に基づいた評価、アドバイスができるようになった。受講者の評価も高まり、受講希望者が大幅に増加した。

派遣スタッフの確保・育成に注力し さらなる成長を目指す


事業統括部門 スタッフ企画統括室
研修センター
湊 恭美子 氏

 現在、労働市場では人手不足感が顕在化してきている。こうした中、人材派遣ビジネスは急成長を続けているが、競争も激化しており、優秀な登録スタッフの確保は急務となっている。スタッフの確保と同時に、個々の派遣登録者のさらなるレベルアップを目指し、派遣事業者自体が教育を担っていこうという傾向が高まっている。業界ビッグ5の一角を占めるリクルートスタッフィングは、創業当初から独自の教育研修によって派遣スタッフのスキルレベルを常に一定以上に維持し、クライアント企業からも高い評価と厚い信頼を寄せられている。

「当社では、正社員と比べると、スキルアップや新たなスキルの取得のための教育を受ける機会が非常に少ない派遣スタッフをサポートするために、すべての研修を無料で提供し続けています」と同社、スタッフ企画統括室、研修センターの湊恭美子氏は語る。

他社に先駆けてeラーニング「エラン」を立ち上げたのも、もちろんその一環だが、拠点が全国に拡大し、登録者数も急激に増えたために、研修ルームでのいわゆる集合研修だけでは十分に対応できなくなったからだった。当初はコンテンツの開発もサーバもリクルート本社に依存していたが、その後、規模が拡大してきたために、運用も含めてすべてをアウトソーシングした。だが、間もなくユーザビリティやクオリティ、効率などのさらなる向上を図ることになり、今後事業を拡大していくための課題解決を提案できるような新たなパートナーを探すことになった。

派遣スタッフに自信を持ってもらう アドバイスができるベンダーが必要


 まずは、eラーニング「エラン」の申し込みから修了までのおおよそのフローを見てみよう。受講希望者は、同社のホームページからエントリーし、開講通知を受けて受講を開始し、修了チェックを受け、結果の採点をフィードバックしてもらって完了ということになる。

そのフローの中で、受講希望者のデータを自社のシステムに取り込み、申し込みデータを作成するところまでが、同社が実際に行っている業務である。そこから先の、申し込みデータを受けて、コースの開講からメンタリングメールなどの受講促進フォロー、問い合わせメール対応、修了チェック採点・フィードバック、受講者進捗データの作成までの一連の業務はパートナーに委託されている。

「当社にとっては、派遣スタッフは大事なお客様ですし、派遣スタッフのみなさまには自信を持って派遣先に行って欲しい、と常に願っています。研修に参加してもらうのも、eラーニングを受けてもらうのも、そのためなのです」と湊氏は強調する。したがって、同社では受講するスタッフ個々への修了チェックに関するフィードバックというものを非常に重要視している。

その点について、同社、スタッフ企画統括室、研修センターの大嶋美佳氏は次のように説明する。

「インストラクターには、受講生のお隣にいるチューターのような気持ちになって、心のこもったアドバイスをしていただきたい、と当初からお願いしています。例えば、『ここまで来たのですから、もう一頑張りして、次の講座にチャレンジしてみましょう』というようなコメントを添えていただきたいということです」

また、クライアント企業の期待に応えるには、ベースとなるOAスキルは確かに必要だが、更に大切なことは、営業の資料を作成するというような具体的な成果物をアウトプットすることだと考えている。「ですから、修了チェックではソフトウェアのこの機能を使っているかどうかというようなことではなく、求められた成果物を明確に出すことができたかどうかを評価してほしいのです」と大嶋氏は言う。ところが、リクルートスタッフィング側がイメージしていたものと、以前の運用スタイルには若干のズレが出てきたという。以前は成果物よりも個々のスキルを重視する傾向にあり、スキルチェックにも採点者によってポイントが違う部分があった。

事業統括部門 スタッフ企画統括室
研修センター
大嶋 美佳 氏

受講を継続しようという気にさせる コンテンツの魅力が大きなポイント


 今後の規模拡大に対応できるシステム構築実現のために業務に妥協することはできなかった。そこで、新たなパートナーを探し、同社の目指すeラーニングの実現性について諮ることにした。しかし、「コンテンツの開発だけなら、すぐにOKしてくれるのですが、その後の運用も含めてとなると、尻込みする企業が非常に多かった。インタラクティブな仕組みでチェックボックスにクリックして採点するだけではない、相手の顔が見えるeラーニングシステムというのは、やはり運用面で難しいのだなと改めて痛感しました」と湊氏は話す。結局、7社に声を掛けて、残ったのは3社だけだった。

同社では、ベンダー比較表を作成し、コンテンツの開発、情報セキュリティ、コスト、運営機能、コンサルテーション能力、提案力などの要求項目についてそれぞれ評価点をつけ、最も点数の高いところにお願いすることにした。「最先端のeラーニングがどうなっていて、どうすればユーザビリティが向上するかというようなことについては、私共は知識がありませんでした。ですから、そういうところの提案や指示をしていただけると非常にありがたいので、それもパートナーを選ぶ大事なポイントでした」と大嶋氏。

最終的には、東芝ソリューションが選定されたが、大嶋氏によると、「別のSI企業にお願いしようかな、とほとんど決めかけていたところでした」と言う。それがひっくり返る結果になった理由は、「各社さんのコンテンツを見せていただきましたが、東芝ソリューションさんのものがスタッフの目線で見た時に一番わかり易かったので、そこに惹かれた部分が大きかった」と湊氏は語る。

東芝ソリューションが提案したコンテンツは、ダイオキシンの問題を取り上げたものだった。「少し難しい題材でしたが、ついつい興味を持って見入ってしまうような作りになっていました。こういうものをコンテンツとして出していけば、スタッフも楽しみながら継続して受講してくれると確信しました」と大嶋氏。

OA研修ルームでの集合研修の場合は、インストラクターもいるし、受講仲間もたくさんいるので、自分も頑張らないといけないという気になる。だから、途中でやめる人はほとんどいない。しかし、eラーニングとなると、自宅で1人きりで受講することになるので、継続してもらうのが難しいのだ。

OA研修ルーム

意思疎通を図り、 スタッフの目線に立ったサービスの実現を目指す


 同社が、BPOを通じて東芝ソリューションと新たな連携を組み始めたのは2005年9月のことだった。

リクルートスタッフィングでも、これまでの運用面での苦労から、具体的に何を求めているか、何をやってはまずいのか、ということがいくつか明確になってきていた。例えば、旧システムでは、文字が入った四角形を作成する場合、テキストボックスという機能を使っていないと評価が低かった。しかし同社にとっては図形の四角形を作成し、文字を直接追加入力しても成果物としてきちんと出来ていれば何の問題もないのだ。「これがどうしてバツなの、マルでいいじゃない」というような解釈の違いが随所に出て来るようになっていたのだ。しかし、プロフェッショナルとしての模範解答しかOKを出さない評価方法は、全ての登録スタッフには厳しすぎる、それがリクルートスタッフィングの考え方だった。OAスキルがまだこれからというスタッフに対しては、まず「私にもできる、できた」という実感を持ってもらうことが大切なのだ。もちろん、「こういう使い方が一番いいですよ。次回挑戦してみてください」といった前向きなアドバイスを付け加えることで、プロフェッショナルのスキルへ少しずつ近づいていってもらうのである。

かつてのパートナーに運営方針を明確に伝え切れなかったという反省を踏まえ、「いろいろとご相談させていただいています」と湊氏は言う。「例えば採点については、属人的になったり、流れ作業的になったりせず、いつでも平準的にできるようにしなければいけませんし、受講するスタッフに対するアドバイスのコメントの内容は、画一的なものではなく、あくまでもスタッフ一人ひとりの目線に立ったものでないといけません」

その結果、従来はざっくりとしたものしかなかった採点基準が非常に細かく決められた。それによって、採点者によって評価が違ってくるという弊害が除かれることになった。

同社では、受講するスタッフに対してスキルコードを付与しているので、個々のスキルについてはどうしても「ここはできていますが、ここはできていません」という評価にならざるを得ない。だからこそ、「ここはこうするといいですね」というようなスタッフの目線に立ったコメントが必要になるわけである。

受講生の評価も高まり 受講希望者も大幅に増加


 東芝ソリューションにBPOを依頼したことによる効果について、湊氏が挙げたのは、まず受講希望者が申し込んでから実際に受講できるまでに要する時間が短縮されたこと。また、開講数が増えたことも、効果の1つであり、具体的には対前年比で40%も増えている。

また、湊氏によると、「もし『エラン』のサイトをBPOでなく、自社内で行うとしたら、純粋にあと2名は従業員を採用しないといけないと思っています」というのだから、コスト面でも大きなプラスになっている。また、「エラン」と同じ規模の受講者に首都圏にある同社の研修ルームで受講してもらおうとすると、コストが約1億2,000万円のプラスになってしまうという試算もある。

そうした目に見える効果と同時に、受講者が「非常にわかりやすい」とか、「スクールで行っているExcelやWordなどの研修プログラムとは違って、講座の内容が仕事にすぐに使えるものになっていることが、実際に受講してみて初めてわかった」などと満足しているのも大きな効果と言えるだろう。

「単なるスキルのチェックだけを受けて、自分ではできると思って派遣先に行ったのに、実務としては全く使えないということがわかり、自信を失ってしまうことが結構あるそうです。このような経験を一度でもしたことがある人は、早く受講しておけば良かったと思うようです」と湊氏。その意味では、これまでより、はるかに理想に近いeラーニングが実現しているとも言えそうだ。

両者で運用を工夫し合い 修了率を5%アップしたい


 とは言え、画一的なサービスではなく、スタッフ個々へのより充実したサービスを実現するためには、まだまだすべきことはたくさんある。そこで、同社では毎月1回、東芝ソリューションとの間で定例会を実施している。ここでは、受講者数、フォローメールを送信した受講者数、修了チェックの数などを月次で確認し合うと同時に、「その月に見つかったさまざまな課題や問題点をお互いに共有し合い、その場で解決策を一緒に考える時間をできるだけ多く持つようにしています」と湊氏は言う。

言葉を換えれば、東芝ソリューションが持っているeラーニングシステム等に関する専門知識や経験、ノウハウと、同社が持っている人材管理に関する知識、経験、ノウハウを融合させることによって、より実効性のあるeラーニングを運用していくということである。もっとも、湊氏によると「内部の体制を整えていただいたり、採点の部分についてもシステム化できるところはしていただいたりという東芝ソリューションさんの内部の努力により、安定した運用ができています。私共の負担はかなり軽減されています」とのことだ。

そして、大嶋氏は当面の目標について、「受講生の修了率を現在の平均35%から40%へと5%アップくらいはアップしていきたい」「そのためにも、東芝ソリューションさんには私共のお客様であるスタッフを大事にしてくださる気持ちをぜひ持ち続けていただきたいと思います」と語る。

「就業機会の創出によって、社会に貢献する」という企業理念を掲げる同社は、あくまでも「日本で最大の就業者を抱える会社」を目指している。その意味では、BPOを通じた同社と東芝ソリューションの連携は、むしろこれからが本番になると言えるかもしれない。

SOLUTION FOCUS

BPOサービス

東芝グループでは、2001年から他社に先駆けてグループ10万人の「全社教育」のツールとしてeラーニングを活用しているが、そのシステム構築と運用を担当しているのが東芝ソリューションである。それを通じて蓄積してきたeラーニングに関する豊富な知識やノウハウ、経験を積極的に活かして、eラーニング業務を代行するのがBPOサービスだ。eラーニングと言うと、いかにもシステマティックなイメージがあるが、最も重要なのは実はそれに携わる人のマインドなのだ。受講者のためにという熱い思いが通じることによって、初めて実効性のあるeラーニングが実現できるのである。eラーニングをBPO化する際には、決して忘れてはならないポイントの1つである。

この記事の内容は2007年3月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

会社名
株式会社リクルートスタッフィング

設立
1987年6月

本社所在地
東京都千代田区有楽町1-13-1 第一生命日比谷ファースト

事業内容
人材派遣事業、人材紹介(紹介予定派遣)事業、アウトソーシング事業

URL
https://www.r-staffing.co.jp/