お客様へのサービス向上のためにオペレーショナル・リスクをコントロールする

お客様に心から満足していただけるように、行員一人ひとりが
「信用第一」を胸に、質の高いサービスを常にご提供していく。
静岡銀行の内部統制を、東芝ソリューションが力強くサポート


本格化するオペレーショナル・リスク対策


 国際業務を行なう民間銀行の自己資本比率に関する国際統一基準、BIS規制※1が、2006年度末に改訂される。新BIS規制(バーゼルII)と呼ばれる新規制には、従来の信用リスク(貸し倒れリスク)と市場リスク(保有資産の相場変動リスク)以外に、オペレーショナル・リスク※2が自己資本比率を算出する際の要素に加えられたことが特徴だ。これはIT化の進展によるシステム障害や職員の事務的ミスなど、損失発生のリスクが増している銀行の業務の変化に対応するためだ。これまで定量的に計測されることの少なかった業務上で発生するリスクに対する管理能力が、金融機関の経営体質を計る指標になった。金融機関の間では日本版企業改革法(日本版SOX法)の制定にも呼応し、新BIS規制対応に向けた内部統制のあり方が注目されている。そこで、各金融機関でリスク管理体制の見直しやデータベースの再構築など、オペレーショナル・リスクを的確にコントロールして削減する動きが本格化しはじめた。

※1 BIS規制/1988年に国際間における金融システムの安定化や、銀行間競争の不平等の是正などを目的に、国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlements)の関連機関であるバーゼル銀行監督委員会が制定。自己資本比率の算出方法やその最低基準(8%※日本では国内業務だけを行なう銀行は4%以上とする独自の規制を設けている)が定められている。自己資本比率が高いほど貸し倒れや株価下落への備え、つまりリスク管理能力に優れ、健全性の高い銀行とされている。

※2 オペレーショナル・リスク/一般には、信用リスクと市場リスク以外の全てのリスクを指すが、風評につながる例が多いことから事務リスク、システムリスクが中でも注目されている。バーゼル銀行監督委員会はオペレーショナル・リスクを「内部プロセス・人・システムが不適切であったり、機能しないこと、または外生的事象に起因する損失に関わるリスク」と定義している。

顧客サービスの向上には、日常の業務管理が必要


 その中で、静岡銀行の滝澤聡康リスク統括部オペレーショナルリスクグループグループ長(以下:滝澤グループ長)は「新BIS規制で求められるオペレーショナル・リスク管理のフレームワークはまったく新しい考え方ではない」と話す。同行は、ムーディーズより「A1」、スタンダード・アンド・プアーズより「A+」に格付される財務体質を誇り、従来PDCAサイクル※3を適用して内部統制を進め、顧客サービスの向上に努めてきた。統合リスク管理という観点からオペレーショナル・リスクを考慮に入れたマネジメント体制も整備していた。しかし、人間が業務に携わる以上、事故やミスがゼロになることはあり得ない。「だからこそ、人為的な損失を最小限に抑え、業務に影響を与えないシステムづくりが不可欠なのです」と滝澤グループ長は語る。顧客や株主、地域社会などへのサービス向上のためには、新BIS規制の有無にかかわらず、日常のリスク管理を徹底し、より厳正な内部統制を進めることが必要と同行は考えているからだ。

※3 PDCAサイクル/マネジメント手法のひとつ。計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のプロセスを順に実施し、最後の改善を次の計画に結び付けて永続的に品質の維持・向上や業務改善活動などを推進するもの。

静岡銀行 リスク統括部
オペレーショナルリスクグループ
グループ長 滝沢 聡康 氏(右)と児玉 辰彦 氏(左)

経験に頼るマネジメントからの移行


 静岡銀行は顧客サービスに直結する事務の品質改善のために様々な取り組みを推進している。現在、多くの金融機関では、窓口業務は派遣社員やパートが行なう例が多いが、そのような正行員以外の従業員も含めた全ての行員が受ける事務研修を3倍に増やした。また、来年には、1万ページにおよぶ事務規定の徹底のために、ガイダンスによるラーニングが受けられるよう営業店の業務端末を一新する。「1万ページのマニュアルを全て覚えるのは、常識的に不可能。システム的に補完する必要がある」(滝澤グループ長)。このように、これまでも同行は顧客の要望などを収集し、事務プロセスを分析して顧客満足度の向上を図ってきた。しかし、それは「最終的には行員の経験と感覚に頼るしかない。だが、それでは客観性に欠ける。その対応が本当に正しいかどうか、客観的な根拠が必要でした」と滝澤グループ長は従来の問題点に触れ、客観的指標となるデータが必要と語る。そこで、同行は人材教育の充実によってスキルアップと意識向上を図ると同時に、事務リスクを定量化する方法を模索した。

製造業の品質管理手法に学ぶ


 事務リスクの軽減に向けシステムの改善に乗り出した同行は、そのパートナーとして東芝ソリューションを選んだ。「顧客満足度の向上やリスク管理に関し、製造業の品質管理手法に学びたかった」(滝澤グループ長)というのが、選択理由のひとつだ。東芝ソリューションは、地域金融機関向けの事務品質ソリューション「事務品質アラーム®」を開発していた。このシステムは、リスク指標となる様々なデータを収集・分析して統計学的に品質を改善させるためのものだ。東芝が製造業として長年培ったシックスシグマ※4による品質管理手法を応用した独自のシステムだ。業務の中で発生するオペレーショナル・リスクの管理体制を、静岡銀行グループ全体の内部統制をサポートする仕組みとして機能させるには最適のソリューションだった。「ソリューションを検討していた2005年当時、自分たちのニーズを満たすものはこれ以外になかった。金融機関が抱える課題に目をつけた先見性も評価しました」(滝澤グループ長)。

※4 シックスシグマ/1980年代初頭に、アメリカの通信機器会社モトローラで開発され、生産プロセス改革に用いられる、トップ・ダウンで行なう経営・品質管理手法。

危機回避に直結する事務業務の可視化


 2005年12月、同行のリスク統括部と東芝ソリューションは共同でシステムの構築に着手した。システムをそのまま使うのではなく、同行の業務に合わせて追加の開発を行なう必要があったからだ。2006年11月からの本格稼動に向けて「事務品質アラーム」導入過程の今、「リスクデータの分析に着手していますが、業務プロセスの見直しが期待できるツールとして、大きな手応えを感じている」(滝澤グループ長)と評価する。同行は、導入にあたって 3,000以上もある事務業務プロセスから、特に重要な500プロセスを抽出してモデル化した。様々な視点から情報を収集・分析し、オペレーショナル・リスクを効率的に管理しようとしている。「どのプロセスにリスクがあるのか一目瞭然になることで、プロセスそのものを変える、人間がやっていた業務を機械に置き換えるなどの対策を打ちやすくなる」とリスク統括部オペレーショナルリスクグループの児玉辰彦氏は話す。また、貴重な情報となる顧客の意見や要望をデータベース化する機能もカスタマイズにより追加した。「電子化によって、お客様へのフィードバック時間の短縮を実現できました。今後はテキストマイニングの機能なども盛り込み、経験の浅い行員の支援やスキルアップを目指した教育面での活用など、ナレッジマネジメントの促進も視野に入れています」(滝澤グループ長)。

システム化がもたらす銀行の健全性


リスク統括部 オペレーショナルリスクグループ グループ長
滝沢 聡康 氏(上)
リスク統括部 オペレーショナルリスクグループ
児玉 辰彦 氏(下)

 事務リスクの管理で最も困難なのは、行員の意識の徹底だ。同行は、事務リスク管理を各部署の自発性に委ねていた。しかし、ミスが発生した場合、報告したくない、と思ってしまうのが人間の心理だ。だが、それでは管理側は困る。そこで、リスク管理をシステム化すれば、それを解決できると同行は考えた。データベースへの登録としてルーチン業務の中に組み込んでしまえば、心理的な障壁がなくなるというわけだ。「システム側で収集したデータから背景を分析すれば、再発防止策だけでなく、潜在的なミスの芽まで見えるようになります。さらに、対策を実施した後の改善状況についても経営陣を含む関係者がモニタリングできるようにもなります」(滝澤グループ長)。同行は、原価計算システムで一つひとつの作業にかかるコストを管理してきたが、今後は「事務品質アラーム」と組み合わせて、リスクとコスト両面からバランスの取れた営業体制の整備にも役立てていく方針だ。さらに「事務品質アラーム」の導入により「営業店の端末やホスト上の作業履歴などを一元収集し、各店舗のリスク管理や事務サポートなど、様々な視点で分析して、顧客サービス向上に役立てたい」(滝澤グループ長)と大きな期待を寄せている。顧客の満足度向上を追求し続ける静岡銀行。こうした同行の経営姿勢に触れたからこそ、東芝ソリューションは、今回の事例をモデルに、より金融機関に適合したソリューションとして「事務品質アラーム」を進化させていくに違いない。

SOLUTION FOCUS

地域金融機関向けリスクベース事務品質管理ソリューション事務品質アラーム®

2006年度末からの新BIS規制(バーゼルII)施行を踏まえ、オペレーショナル・リスク適格要件達成を促すソリューション。銀行事務のリスクや品質を的確に評価し分析した上で先進的な改善計画を策定するシステムとして、銀行内で過去に起きたミスやクレームを内部データ化し、関係者への通知を確実に行なう。また、真の悪化要因を抽出すると同時に、損失に結び付く可能性を警告する早期警戒指標を浮かび上がらせ、解決のための改善計画作成を支援する。オペレーショナル・リスク計量化のためのリスク指標となるデータ収集からモニタリングまで、“銀行事務先進的改善”のための戦略的フレームワークを実現する事務品質管理ツールだ。

この記事の内容は2006年9月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

会社名
株式会社静岡銀行

設立
1943年3月1日

代表者
頭取 中西 勝則

本社所在地
静岡県静岡市葵区呉服町1-10

事業内容
14地銀や有力信金がひしめく金融激戦区の静岡県において最大の市場占有率を誇り「地域とともに夢と豊かさを広げます。」という理念のもと、地域に密着した顧客本位のさまざまな活動で全国的にも「地銀の雄」のひとつとして知られる銀行。バブル期における不動産・開発融資の自制をはじめ、経営のあらゆる局面において漫然とした取引や出費を戒める行風でも存在感を示し、その邦銀トップレベルの盤石な財務体質は外部の格付機関からも高く評価されている。

URL
https://www.shizuokabank.co.jp/