カラクリ妖怪儀メレオン★の全貌
チームT芝が掲げた目標は最高点の【360点】。すなわち1ラウンド3投を全て20のトリプル(60点)に刺し、かつ、それを2ラウンド繰り返すというのが目標となる。60点を取るためには7.5m先にあるダーツボードの中の、横3.5cm×縦2cmというわずかなエリアにダーツを刺さなければならない。チームは試行錯誤の末、『ダーツボード付近まで舌を伸ばし、1投目で舌先から確実に60点を射貫く 親カメレオンちゃん』と、親カメレオンちゃんの肩に乗り『親カメレオンちゃんの舌をガイドにダーツを飛ばし、1投目に刺さったダーツの付近に2投目、3投目のダーツを刺すことを狙う2匹の子カメレオンちゃん』を生み出した。1投目が目的の位置に刺されば高得点が狙える一方、1投目を外した場合に2投目、3投目でリカバーできないリスクも内在する。そんな複雑怪奇な儀メレオン★の機能を紹介する。
①パンタグラフ型延伸機構パンタグラフ型延伸機構・・・舌を長く伸ばし、射出機構を近づける
7.5m離れた位置から射出して60点を狙うと、射出角度が上下に0.1度ずれただけで目的の領域から外れてしまう。本番の気流や温度、湿度などの環境が読めない中、1投目で射貫く精度を担保するのは困難と考え、ダーツボードの近くからダーツを射出する方式を考えた。もしボードの近くでダーツを射出することができれば、60点を獲得する確率が上がる。ただし『舌を伸ばす前、舌は体の中に入っていること』というレギュレーションとの両立が必要である。
そこで、電車の集電装置『パンタグラフ』の機構を応用した延伸機構を開発した。超巨大なこの舌は初期状態では親カメレオンちゃんの口に中に折りたたまれて収められており、射出ボタンを押すとロックが外れて、自らの重さで5mの長さまで伸びる。舌が伸びる動作に伴って発生する揺れは、舌先にぶら下がるように設置された動吸振器が打ち消す。射出ボタンを押してから3投目のダーツが射出されるまでの制限時間が30秒しかない中、この動吸振器によって約10秒という短時間で揺れを抑制することができる。
②自動照準器・・・自動で目標位置に照準を合わせ、確実に高得点を狙う
今回の競技で特に厳しかったのは、高い精度が求められるのにも関わらず『本番環境で試射が許されない』という点であった。カメレオンの設置台とダーツボードまでの距離や高さは規定されていたが、設置床の水平は保証されていない。また本体の傾きやパンタグラフの歪みなど、ずれのリスクは数え切れない。
そこで、舌先の射出機構の下に自動照準器を搭載した。自動照準器は、ダーツボードを認識するカメラと、射出機構を上下左右に動かすパン・チルト機構で構成されている。舌が伸びた後、カメラが的の外形の円を認識、そのデータから20のトリプルの位置を計算で割り出し、パン・チルト機構がダーツの先端を目標の方向に操作し、狙いを定める。
③カタパルト式射出機構・・・ダーツを精度よく高速に射出する
射出機構の課題は、ダーツという特殊な形状の物体を毎回同じ精度で高速に打ち出す点である。そこで、航空機を短距離で加速させる仕組み『カタパルト』を模した、カタパルト式射出機構を開発した。
射出機構の推進力にはパチンコ用のゴムを用いた。ゴムとダーツは形状を最適化した接続部品で繋がっており、ゴムの弾性力をダーツの推進力に効率よく変換することができる。また接続部品は射出トリガーのロック機構も備えており、1投目は規定の時間経過後に、2投目、3投目は発射ボタンが押された後にトリガーが外れて射出される仕組みである。ダーツが滑走する部分にはガイドレールが備えられており、ダーツの胴体と羽をガイドにして安定した軌道を実現する。このような機構により1投目のダーツは時速53kmで射出される。
④ジップライン・・・2、3投目のダーツを1投目の付近に確実に刺す
さまざまな制約により、巨大なパンタグラフ機構を3つ並べることはできなかった。そこでダーツボードに刺さった1投目のダーツから繋がる細い舌をガイドにして、2投目、3投目のダーツを飛ばすジップライン方式を採用した。この機構により、狭い範囲に確実に3本のダーツを集めることができる。
ジップラインの開発は『舌は切れてはいけない』、『舌は床についてはいけない』、『舌を伸ばす前、舌は体の中に入っていること』、『舌を伸ばす前、3匹の舌は接してはいけない』というレギュレーションとの戦いでもあった。ジップラインを実現するため、『巨大な尻尾』、『スライド式リレール機構』、『ソフトロボット』が開発された。
⑤スライド式リレール機構・・・ダーツをジップラインと空中合体させる
レギュレーション『舌を伸ばす前、舌は体の中に入っていること』をクリアするため、スライド式リレール機構が開発された。巨大な尻尾(後述)が動作すると、親カメレオンちゃんの上顎部分に設置された スライド式リレール機構 が左右に展開する。リレール機構の先端にはリング状の部品『子ちくわ』が取り付けられており、スライド式リレール機構が展開されると子ちくわは子カメレオンちゃんの眼前に押し出される。子ちくわにはダーツボードと繋がる細い舌(後述)が通してあり、ジップラインのワイヤーとハーネスの役割を果たしている。子カメレオンちゃんから射出されたダーツは子ちくわに刺さり、空中で合体することにより、ジップラインとなる。
⑥ 棒倒し式ロープ引張機構・・・ジップラインのロープを張り、リレール機構を動作させる
ジップラインの課題は『いかにしてジップラインのワイヤーを構築するか』という点であった。ジップラインのワイヤーとなる細い舌には釣り糸が選定された。この細い舌は、試技開始時点では親カメレオンちゃんの舌であるパンタグラフ型延伸機構の左右に引っかけられるように設置されており、舌の先端はリング状の部品『親ちくわ』に接続されている。親ちくわは1投目のダーツ 射出口付近に取り付けられており、射出とほぼ同時にダーツと合体してダーツボードまで飛び、ダーツが刺さることによって固定される。これがジップラインの到着点となる。
1投目の射出が終わると親カメレオンちゃんの後方に備えた2本の巨大な尻尾が倒れる。細い舌の後端はこの尻尾と接続されており、尻尾が倒れることによって後方に引っ張られ、ダーツボードと一直線に結ばれる。前述のスライド式リレール機構と合わせ、これらがすべて動作することでジップラインが構築される。
⑦ソフトロボット・・・ちぎれやすい舌を優しく、しかし確実に止める
子カメレオンちゃんの舌にはカセットテープが選定された。ダーツが射出されると、射出されたダーツにくっついたテープ製の舌はダーツの飛行を邪魔することなく滑らかにほどけていく。この舌が床につかないように優しく制止するのが、子カメレオンちゃん の後方に取り付けられたソフトロボットである。ダーツが射出された0.8秒後、サーボモーターが動作し、その先端に取り付けられた台所用スポンジで舌を優しく押さえる。これにより舌を切ることなく制止することができる。
⑧ダーツ射出リモコン・・・エレベーターボタンと変わりないクリック感を再現
ダーツの射出ボタンには、東芝が社会を支える製品のひとつ、エレベーターのボタンを採用した。LED発光で視認性を確保し、本物と変わりない心地よいクリック感を再現した。『開延長』ボタンを押すとロックが開き、パンタグラフ型延伸機構が『長く延び』る。『2』、『3』のボタンを押すと2投目、3投目が射出されると同時に、子カメレオンちゃんの背中が怪しく光る。
ロゴに込められた想い
カメレオンちゃんのロゴは名前の由来ともなった『からくり儀右衛門』の和のイメージを踏襲し、紋をモチーフに作られている。紋の下部には大きな親カメレオンちゃん、その両肩には舌を伸ばす子カメレオンちゃんをあしらい、3匹が協力して3本のダーツを20のトリプルを射抜くことを表現した。
おまけ・・・秘密のカラーコード
儀メレオン★にもべいかりあす同様「茶色、黒、黄色、灰色」の線が描かれただシールが貼られています。儀メレオン★を持つときの目印として養生テープが貼られていたのですが、見た目を良くしようという話に、遊び心が足されました。ちなみにこの「茶、黒、黄、灰」は抵抗器に印刷されるカラーコードで1048(トウシバ)と読めるようになっています。