美食魔物べいかりあすの全貌

美食魔物べいかりあすの全貌

①隠遁の術・・・暗闇と同化する漆黒のボディ

ホームベーカリーがパンを食べている様子を表現するために、ホームベーカリー以外は黒く塗装。これは人間浄瑠璃や歌舞伎からアイデアを着想し、黒衣のような黒い箇所は認識しないとするデザイン思想から来ている。これによってホームベーカリーが人格を持ち、べいかりあすとして自律的にパンを食べるように見せることに成功した。すべての機構はこの思想を実現するために、パーツ一つ一つを黒くすることにこだわった。

②分身の術・・・外装と釜を内部メカと分離して跳躍

べいかりあすがパンを食べるためには、ホームベーカリー自体を持ち上げる必要があった。しかし、ベイカリー本体は3.6kgと重く、モーターで垂直方向に持ち上げるにはかなりのパワーが必要となるため、現実的ではなかった。そこで、ベーカリーがパンを食べているように見える最小要素である白い筐体部とパン焼き釜のみを持ち上げ、それ以外のパーツと分離する機構を採用した。これを実現するため、筐体の底部を切断し、制御基板やヒーター等を下に残す機構とすることで、持ち上げる部分の重量は約40%に軽量化された。この結果ベーカリーは、パンを焼く機能を残しつつ、競技時にはベーカリーが持ち上げ、パンを食べる動作を実現することができた。しかし、軽量化したとはいえ、約1.4kgもの金属製の釜と筐体を持ち上げながら、高速で走行するのは至難の業であった。

③高跳びの術・・・コンパクトスムースなZ駆動機構

今回の競技では、スタート時の本体の高さは70cm以内に抑えるルールとなっていた。しかし、スタート後は高さ1m、1.5m、2mにつるされたパンを食べるために高さ(Z)方向を可変する機能が必要であった。そこで、ラック&ピニオンギアと引き出しなどに使われるスライドレールによるZ駆動機構を開発した。ラック&ピニオンはモーターの回転を直進運動に変換する機構であり、その動きを2mまで増幅するために、スライドレールを3連で並べる構造とした。重い釜を持ち上げるために、両側から挟むようにこの機構を2本配置し、Z機構を伸ばした際の大きなたわみを抑えるため、バックル構造で補強した。また、3段階で止まるように、高さを検知する光センサを搭載し、それぞれの高さに到達した際、ソレノイドコイルにより、固定ピンが飛び出しその上でラックを保持するハードロック機構を採用した。

④縦横無尽走法・・・メカナムホイールによるXY移動機構

1分以内に9m x 9mのステージに吊るされたパンを食べきるため、ステージ上を高速で縦横無尽に走る機構が必要である。その観点から、私たちはメカナムホイールを採用した。メカナムホイールは車軸に対して45度傾斜した樽型のローラーを多数配置したホイールであり、前進や後進、旋回だけでなく、本体の向きを変えずに左右に移動したり、斜め方向にも進むことが可能である。まさに縦横無尽に移動するべいかりあすに最適な移動機構であると言える。しかし、この性能を存分に発揮するには4つのホイールをバランスよく制御することが必要であり、ホイール性能のばらつきを考慮した上で、各モーターの回転数などを精緻にフィードバック制御することが求められる機構である。

⑤くるりん機構・・・こぼれたパンも捕捉する第二の牙

さすまた機構により紐が跳ね上がりガードすら飛び越える場合を想定して、それらを捕捉する第二の牙、くるりん機構を採用した。しかし、これはさすまた部よりも上部に設置する必要があり、単純に取り付けるとレギュレーションである初期高さ70cmを超えてしまう。そのジレンマを解決するために、初期状態では本体内部に設置し、Z機構が動作することで、保持されていたバネにより、くるりんと回転し、べいかりあすの最上部に設置されるからくり機構を考案した。また、これによりロープの位置を検知するToF(Time of Flight)センサの感度も向上し、走行性の安定化も可能となった。

⑥無敵刺又(さすまた)・・・どんなパンも捉えて釜に落とす

やんちゃに走るべいかりあすがパンを食べるためには、広い範囲でパンを捉え、釜に落とすことが必要だった。レギュレーションで許された本体の平面サイズは70cm × 70cmであったが、ホームベーカリーが食べている様子を表現するため、私たちはそのわずか1/30である釜の内径( 13.5cm × 11.4 cm)の上でパンを落とすことに挑戦した。それを実現するため、八の字構造で広がるポールから成り、その中心部でパンを紐から外すさすまた機構を採用した。また、紐がさすまた部に勢いよく当たった際に、紐が跳ね上がり、パンが明後日の方向に飛ぶことを回避するため、さすまたの左右と背部にガードを設置した。

⑦こだわりのパン・・・モンスターも唸るグラスフェッドバターの極上の味わい

私たちはできるだけおいしいパンをべいかりあすに食べてもらうために、パンのレシピにも試行錯誤を重ねた。しかし、パンはレギュレーションにより、分量のみならず、小麦粉のメーカーまでレシピの指定がされており、あまり自由度はないと思われた。その中で、バターに関しては指定が分量のみであり、種類までは規定されていなかった。そこに着目し、グラスフェッドバターを採用した。グラスフェッドバターとは、牧草だけを餌として飼育された牛のミルクで作られたバターである。パン焼きに使うことで芳醇な香りとミルクの風味が漂う極上のパンを作ることができる。美味しくなる一方、耳はサクサクに、中はふんわりとした仕上がりとなり、パンを吊るすことが難しくなることが判明した。うまくパンをつるさなければ競技中に振動で落ちてしまう。しかし、私たちはパンのおいしさにもこだわり、あえてこのパンを使って競技に挑んだ。

おまけ・・・秘密のカラーコード

実はべいかりあすには「茶色、黒、黄色、灰色」に並んだシールが貼られています。お気づきになった方はいるでしょうか?まだ見つけていない方は、ぜひ、どこに貼られているか探してみてください。そして、このカラーコードにはとある秘密が隠されています。その意味とは。。。