概要一覧
 
表紙イメージ VOL.75 NO.6(2020年11月)
英文ページへ

特集:高効率化で省エネ社会を支えるディスクリート半導体技術

巻頭言 世界を変える東芝ディスクリート半導体デバイス (p.1) 本文PDF(165KB/PDFデータ)
川野 友広

トレンド ディスクリート半導体技術の最新動向と展望 (p.2-8) 本文PDF(768KB/PDFデータ)
西脇 達也・横田 誠・山口 正一

環境・エネルギー問題が地球規模で深刻化する中,情報・通信,車載・産業,発電・送電など,様々な分野において電気エネルギーの更なる有効利用が求められている。
東芝デバイス&ストレージ(株)は,小電力から大電力まで電気エネルギーの変換や応用機器の保護に用いられるディスクリート半導体製品を幅広く展開するとともに,技術開発や商品化に取り組んでいる。先端のディスクリート半導体技術を活用した,電気エネルギーを高効率かつ安定的で安全に取り扱うソリューションの提供を通して,省エネ社会の実現に貢献する。

次世代大容量通信用電源向け 低耐圧パワーMOSFET技術 (p.9-13) 本文PDF(465KB/PDFデータ)
加賀野井 啓介・新井 雅俊・可知  剛

動画ストリーミングなどの大容量で通信スピードが要求されるコンテンツの増加に対応した,5G(第5世代移動通信システム)のサービスが開始された。通信量の増大に伴って基地局の消費電力も飛躍的に増え,電源の高効率化が求められている。基地局では,AC(交流)-DC(直流)電源によって商用電圧から通信用電源電圧の–48 Vが,DC-DC電源によって–48 Vから高周波アンプやシステムコントロールに必要な電圧が生成されるので,これら電源用の80 V耐圧や150 V耐圧の低耐圧パワーデバイスの効率向上が必要になっている。
東芝デバイス&ストレージ(株)は,基地局電源の高効率化のため,オン抵抗,ゲート電荷量,及び逆回復電荷量特性を飛躍的に向上させた,U-MOS Ⅹ-H 80 VプロセスのパワーMOSFET(金属酸化膜半導体型電界効果トランジスター)を開発した。また,同構造をベースに150 Vプロセスの製品化も進めている。

家電製品から送配電機器まで省エネに貢献するIGBT (p.14-18) 本文PDF(660KB/PDFデータ)
中村 和敏・早瀬 茂昭・小林 俊章・子迫 修司

IGBT(絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)は,家庭用調理器具などの家電製品から電力分野の送配電機器まで様々な用途に使用されている。家電製品では,エアコンなどのモーター駆動装置や,電子レンジ・誘導加熱(IH:Induction Heating)調理器などにIGBTが,電力送配電分野では,高圧直流送電(HVDC)用などにIEGT(Injection Enhanced Gate Transistor)が,幅広く使用され,省エネのキーデバイスとして更なる低損失化が求められている。
東芝デバイス&ストレージ(株)は,家電製品用として数十kHzの周波数で動作する電圧共振用IGBTや,高耐圧で,導通損失低減が可能なIEGTなど,用途に合わせて構造を最適化した製品を開発した。その結果,従来製品と比べて電圧共振用IGBT製品では放射ノイズを低減しながら26 %のスイッチング損失低減を,IEGT製品ではこれを適用したインバーターにおいて31 %の損失低減を,実現している。

SBD内蔵で信頼性を向上させた1.2 kV SiC MOSFET (p.19-23) 本文PDF(505KB/PDFデータ)
古川 大・河野 洋志・佐野 賢也

SiC(炭化ケイ素)を材料とするMOSFET(金属酸化膜半導体型電界効果トランジスター)は,その優れた性能から将来有望なパワーデバイスとして注目を集めている。しかし,ドレイン–ソース間に存在するpn(p:p型半導体,n:n型半導体)ダイオードへの通電で発生したエネルギーにより,SiC中の結晶欠陥が拡張されキャリアー伝導の阻害要因になるため,信頼性の向上が課題であった。
東芝デバイス&ストレージ(株)は,耐圧1.2 kVのSiC MOSFETにSBD(Schottky Barrier Diode)をpnダイオードと並列に配置し,pnダイオードへの通電を抑制することができるデバイス構造を開発した。試作・評価の結果,結晶欠陥の拡張を防止して信頼性の向上を図ることに成功した。

高速データ通信を支える低静電容量TVSダイオード (p.24-27) 本文PDF(468KB/PDFデータ)
松尾 圭祐・崔 秀明

電子機器は,高性能化及び小型化が進む一方,搭載されるICの細線化に伴って,静電気放電(ESD)に対して脆弱(ぜいじゃく)になってきている。また,モバイル機器の普及で人と電子機器との接触機会が増加しており,ESD対策の重要性が高まっている。
東芝デバイス&ストレージ(株)は,電子機器をESDから保護して信頼性向上に寄与するTVS(Transient Voltage Suppression)ダイオードを開発している。高速信号ラインで使用できる低静電容量化と,ESD耐性が脆弱な電子部品の保護性能向上を図った低静電容量TVSダイオードの提供で,高速データ通信を支えている。

IEC 62368-1に対応し電源ラインの堅牢な保護が可能なeFuse IC (p.28-30) 本文PDF(389KB/PDFデータ)
矢動丸 裕・引地 佑輔

電子機器に対する安全意識が国内外で高まっており,欧米では,情報通信・AV機器向けの新安全規格であるIEC 62368-1(国際電気標準会議規格 62368-1)(注1)が2020年12月から施行される。IEC62368-1は人体への傷害を防ぐための規格であり,規格の遵守のためには電源ラインの堅牢(けんろう)な保護が重要である。そのため,電源ラインの保護には従来のヒューズなどに比べて保護性能に優れた電子ヒューズ(eFuse IC)の需要が高まっている。
東芝デバイス&ストレージ(株)は,高速かつ高精度な過電流保護に加え,突入電流の抑制や,過電圧保護,過熱保護,電流の逆流防止などを組み合わせた様々な保護機能を実現できるeFuse ICとしてTCKE800/805/812シリーズを開発し,IEC 62368-1認証を取得後,製品化している。

(注1)IEC62368-1は,人体への傷害を防ぐ“ハザードベース・セーフティー・エンジニアリング(HBSE:危険から始まる安全工学)”という概念を基に開発され,IECで定められた新しい製品安全規格。

チップ積層によるフォトリレー小型化技術 (p.31-34) 本文PDF(661KB/PDFデータ)
田尻 直也・山本 真美・田中 和喜

リレーは,外部からの指示に従って電気回路をオン/オフするデバイスであり,電動部品を利用する用途に広く使われてきた。近年,様々なシステムの高度化や高効率化に合わせて,リレーの小型化,高速化,長寿命化,及び低消費電力化を目的として,従来のメカニカルリレー(以下,メカリレーと略記)を半導体のフォトリレーで置き換える動きが進んでいる。しかし,フォトリレーの定格電流はメカリレーに比べて小さく,フォトリレーの小型化と定格電流の向上を,同時に実現するのは難しかった。
東芝デバイス&ストレージ(株)は,チップ積層技術の導入とパッケージ放熱性能の向上により,小型で定格電流の大きいフォトリレー製品を実現した。また,従来と同じサイズのパッケージに小型抵抗チップを内蔵したことで,基板上の外付け抵抗が不要になり,高密度実装を可能にした。

高精度なモデルベース開発を実現するIGBT素子モデル (p.35-39) 本文PDF(525KB/PDFデータ)
溝口 健・池田 佳子・塚本 直人

近年,パワーエレクトロニクス分野などのシステム設計では,作成したモデルをベースにシミュレーションを活用するモデルベース開発(MBD)の手法が注目されており,MBDに対して,回路の電力効率や,電子部品から発生するEMI(電磁干渉)ノイズの高精度な予測が求められている。特に,電力制御回路で用いられる大電流・高耐圧のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)には,スイッチング特性を高精度に表現する素子モデルが不可欠である。
東芝デバイス&ストレージ(株)は,ディスクリート半導体製品に対応した素子モデルの開発を推進している。今回,従来の素子モデルでは正確な電力効率の予測とEMIノイズの予測を両立させることが難しかったIGBTについて,スイッチング時の動的なキャリアー動作を考慮した新たな素子モデルを開発した。評価の結果,テスト回路で実測したスイッチング特性の高精度な再現,及びシミュレーションでの高い収束性を確認できた。

高チャネル移動度と高信頼性を両立させたMOS型GaN素子を実現するプロセス技術 (p.40-43) 本文PDF(583KB/PDFデータ)
蔵口 雅彦・梶原 瑛祐・向井 章

GaN(窒化ガリウム)を用いたパワー素子は,パワーエレクトロニクス機器の小型化や低損失化を可能にするものとして期待されている。特に,MOS(金属酸化膜半導体)型GaN素子は,単体でノーマリーオフ動作と高速スイッチングが可能であることから有望視されている。
東芝グループは,ゲート部を掘り込んだリセスゲート構造のMOS型GaN素子に対し,チャネル移動度に影響するAlN(窒化アルミニウム)層の結晶性を選択的に制御するプロセス技術を開発した。この独自プロセス技術を採用した素子を評価し,ゲート部における高いチャネル移動度と,高温・高ドレイン電圧下での高い信頼性の両立を確認した。



一般論文
既開発製品群のソフトウェア仕様から標準モジュールを抽出できる機能構造モデリング (p.44-47) 本文PDF(419KB/PDFデータ)
砂川 英一・長野 伸一

製造業では,市場セグメントの細分化に伴って,少量多品種の製品開発が一般化してきている。ソフトウェアを含む製品開発の効率化には,再利用性の高い機能を標準モジュールとして整備することが望ましい。しかし,複雑化した機能間の関係や仕様の前提不一致が原因となり,既開発製品群から標準モジュールを抽出するのは容易ではなかった。
そこで,東芝グループは,ある製品群が持つ機能の再利用性を分析するために機能間の関係を表現する機能構造モデルを定義し,オントロジーを用いて機能を抽出・体系化して標準モジュールを特定できる機能構造モデリングを開発した。この手法を小売分野の既開発製品群に試験適用し,標準モジュールが抽出できることを確認した。

Power to Chemicalsの実現に向けたCO2電解セルの高電流密度化 (p.48-51) 本文PDF(651KB/PDFデータ)
小藤 勇介・御子柴 智・北川 良太

地球温暖化を抑制する意識の高まりから,温室効果ガスを排出しない脱炭素社会を構築するための技術が求められている。
東芝は,再生可能エネルギー(以下,再エネと略記)を用いて電気化学的に二酸化炭素(CO2)を有価物へと変換することで,CO2を削減するPower to Chemicals(P2C)技術の開発に取り組んでいる。しかし,これまではCO2の変換速度が遅いことや,装置のコストや設置面積が大きくなるなど,実用面で幾つかの問題があった。そこで今回,CO2ガスを直接反応させる電解セルを開発した。CO2ガスが電極に速やかに供給されて変換速度が向上すると同時に,カソード触媒層を多孔質化することでCO2供給が促進され,溶存CO2を反応させる従来セルに比べて約450倍の変換速度向上が実現できた。これにより,多量のCO2を削減する実用的システムの構築が期待される。

タービン発電機の点検工期を大幅に短縮できるロボット検査技術 (p.52-55) 本文PDF(966KB/PDFデータ)
桑原 央明・松崎 晃大・伊藤 一朗・新井 佑也

発電所のタービン発電機(以下,発電機と略記)は,定期点検によって維持管理されており,点検前後の発電機の分解・組み立てに工期を要することから,稼働率向上のために点検工期の短縮のニーズが高まっている。点検工期の短縮には,発電機のローターを引き抜かないで内部の詳細点検を可能にする技術の導入が求められる。
東芝グループは,発電機の点検工期を短縮するため,点検ロボット,点検ロボットを搬送するステーション,各種検査の自動化,及び点検を計画・管理するための管理システムから構成されるロボット検査技術を開発した。これにより,分解・組み立てが簡略化でき,検査を自動化することで,点検工期を従来の1/2以下に短縮した。

バンニングロボットによるコンテナ積み込み作業の自動化 (p.56-59) 本文PDF(783KB/PDFデータ)
堀内 晴彦・丸山 修

物流ビジネスでは,ネット通販のグローバル化や新興国での設備投資の拡大などに伴って,国内外で貨物が増加している。しかし,トラック荷台やコンテナ内の荷役作業は人手に依存した状況にあり,作業者の負荷軽減も進んでいない。
そこで,東芝インフラシステムズ(株)は,コンテナに貨物を積み込む作業を行うバンニングロボットを開発している。今回,貨物を一つずつ積み込む作業を自動化するため,独自のハンドリング機構,自動軌道補正技術,及び遠隔監視技術を開発した。

6色のLED搭載で広色域と高演色性を両立させた4K・8K撮影用カラーLED照明器具 (p.60-63) 本文PDF(632KB/PDFデータ)
羽生田 有美・東 洋邦・井手 渚紗

4K(3,840×2,160画素)及び8K(7,680×4,320画素)解像度の超高精細度テレビジョン(UHDTV)放送の撮影用照明として,従来のハロゲンランプに代わり,カラーLED(発光ダイオード)を用いた照明器具の導入が図られている。ドラマなどの演出用途では,有彩色点灯時には広い色域が,白色点灯時には高い演色性が求められている。
東芝ライテック(株)は,日本放送協会(以下,NHKと略記)と共同で,赤,緑,青,アンバー,シアン,及びライムの合計6色のLEDを搭載し,各色を調光して加法混色することでUHDTV撮影の要求を満足するカラーLED照明器具を開発した。UHDTVで撮影した映像を,新たに作成した高彩度色票で評価した結果,4色のLEDを搭載した従来のカラーLED照明器具に比べ,有彩色点灯時には広い表現色域を,白色点灯時には高い演色性を持つことが確認できた。

ホテル業務のホスピタリティーと生産性向上を両立させるチームコミュニケーションのデジタル化・分析技術 (p.64-67) 本文PDF(721KB/PDFデータ)
園尾 聡・降幡 建太郎・香川 弘一・泉 詩朗

ホテル業界では,顧客ニーズの多様化に対応した,顧客満足度の高いホスピタリティーが求められる。一方で,生産年齢人口の減少や労働条件の改善などに対応するための生産性向上も課題となっている。より良いサービスを効率的に提供するには,様々な業務を担当するメンバーが,チームとして業務の最適化を図る必要がある。
東芝デジタルソリューションズ(株)は,ホテル運営会社と連携し,チームコミュニケーションのデジタル化でホテル業務の改革に取り組んでいる。音声認識・合成技術を活用してチーム内のコミュニケーションを短時間かつ確実に行うことで,客室の清掃指示に掛かる時間を約80 %削減するなど,生産性と業務品質の改善を図った。また,チームコミュニケーション分析技術を用いて,今後の経営課題の解決に役立つ評価指標も可視化した。



R&D最前線
IoTシステムのセキュリティーリスクに対応した組み込み機器ソフトウェアのアップデート手法 (p.68-69) 本文PDF(225KB/PDFデータ)
鈴木 章浩

OSSを用いて,組み込み機器ソフトウェアのタイムリーかつ安全なアップデートを実現
IoT(Internet of Things)システムの普及に伴い,機器に組み込まれるソフトウェアの機能拡張や脆弱(ぜいじゃく)性への対応が重要性を増しています。それには,新しいソフトウェアをタイムリーかつ安全に適用するソフトウェアのアップデート手法が必要ですが,対象となる機器数が増えると,特定の機器に限定して対応する従来の手法は現実的ではなく,より標準化され適用範囲が広く,更に大量の機器にも対応可能な手法が必要になります。
東芝は,オープンソースソフトウェア(OSS)を用いて,多くの機器が接続されるシステムの更新を,タイムリーかつ安全に行うことができる手法を開発しました。

 
100 ms周期で走行車線を選択可能な深層強化学習手法 (p.70-71) 本文PDF(208KB/PDFデータ)
野中 亮助

短い行動決定周期に対応した深層強化学習手法で,一般道での自律走行の実現を目指す
近年,一般道のような複雑な環境下で自律走行を実現するため,従来のルールベースの手法による自律走行計画技術に替わって,深層強化学習手法を用いた自律走行計画技術が検討され始めています。しかし,従来の深層強化学習手法は,行動の決定を行う周期が短いと十分な学習ができず,俊敏かつ安全な自律走行を実現できないという問題がありました。
東芝は,このような問題を解決するために,行動選択の一貫性を考慮して行動探索を行う独自の強化学習手法を開発し,自動車向けの画像認識と同じ実行周期100 msでの走行車線の選択を学習可能にしました。これによって,一般道での自律走行の実現に向けた更なる技術進展が期待されます。

 

東芝レビューに記載されている社名,商品名,サービス名などは,それぞれ各社が商標として使用している場合があります。