概要一覧
 
表紙イメージ 2010 VOL.65 No.9
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低炭素社会を実現するスマートグリッド
巻頭言 スマートグリッドへの期待とその実現に向けて 本文PDF(121KB/PDFデータ)
横田 岳志

TREND スマートグリッドの技術動向と東芝の取組み 本文PDF(577KB/PDFデータ)
渡部 洋司・正畑 康郎

低炭素社会の実現のため自然エネルギーの導入やエネルギー利用の効率化が必要とされ,これらを実現する次世代電力送配電網(スマートグリッド)の構築が求められている。太陽光や風力などの自然エネルギーによる発電量は天候によって変化するので,これらの効率的な利用を実現するためには新たな課題を解決する必要がある。
東芝は,これらの課題を解決するため,大規模な実証実験プロジェクトに参加して知見を深めるとともに,それらを基にスマートグリッド構築に必要な技術の確立を目指している。更に,グローバル市場への展開で重要になるスマートグリッドの国際標準化活動に積極的に取り組み,標準化の側面からもスマートグリッド構築に貢献していく。
スマートグリッド監視制御システム µEMS 本文PDF(589KB/PDFデータ)
吉村 吉彦・小林 武則・矢野 良

低炭素社会の実現に向け,太陽光や風力などの自然エネルギーを利用した再生可能エネルギーの導入が世界的に急速に進んでいる。気象条件により大幅に変動する自然エネルギーを接続しているスマートグリッドの電力需給バランスを維持するためには,スマートグリッド内の需給制御を上位基幹系統と協調して行う必要がある。
東芝は,蓄電池を用いた最適な出力制御により,スマートグリッドにおける電力供給の信頼性向上及び系統運用の高度化を担う監視制御システムとして,µEMS(Micro Energy Management System)を開発した。

太陽光発電システムの出力変動抑制技術 本文PDF(473KB/PDFデータ)
奥田 靖男・木村 操

二酸化炭素(CO2)排出量削減の対策として太陽光発電の普及が進められており,わが国では2020 年に,2005年の20倍もの大量導入が計画されている。しかし,太陽光などの再生可能なエネルギーを使った発電は,天候の影響を受けて出力が大きく変動するため,今後,電力系統に大量に連系されると,系統周波数の維持などに問題が発生することが予想されている。
今回,東芝は,太陽光発電システムの出力変動を抑制する蓄電池を用いたプロトタイプを開発し,その性能を検証して抑制効果を確認することができた。今後,更に性能改善を進めることで,電力系統に優しい太陽光発電システムの製品化のめどが立った。

二次電池SCiBTMを適用した出力変動抑制用50 kW蓄電池システム 本文PDF(307KB/PDFデータ)
島田 直人・梅原 達士・大塚 真弘

自然エネルギーである太陽光を利用した発電は,二酸化炭素(CO2)の発生を抑制できることから,近年,その導入が増加している。しかし,太陽光発電は天候の影響を受けて出力が大きく変動するため,大量に導入されると連系する電力系統に影響を与える可能性があり,出力変動を補う蓄電池の新規導入が検討されている。
東芝は,太陽光発電の出力変動抑制を目的に,寿命特性に優れ大幅に安全性を高めた二次電池SCiBTMを適用した,50 kW蓄電池システムを開発した。この蓄電池システムは,組み合わせるPCS(Power Conditioning System)の出力容量との最適化を図り,10kWhの蓄電容量を備えている。蓄電容量は,20年相当の充放電を繰り返した場合でも残存容量を80%以上確保できるように見積もっている。

スマートグリッドの基盤となるAMIシステム 本文PDF(472KB/PDFデータ)
新田 恵子・弥栄 邦俊・後藤 義英

米国では情報通信技術(ICT)を用いて,発送電設備の不足を補い電力使用量のピークを削減するスマートグリッド計画が進められている。
東芝は,スマートグリッドの基盤として期待されるAMI(Advanced Metering Infrastructure)システムとして,スマートメータ,インホーム ディスプレイ,及びMDMS(Meter Data Management System)を開発した。スマートメータは,精度がANSI C12.20(米国規格協会規格C12.20)のクラス0.5%で,有効・無効電力量のほかに有効・無効電力,電圧,電流及び周波数の瞬時値を計測でき,Ethernet通信機能で電力会社のMDMSへ計量データを伝送する。インホーム ディスプレイは,スマートメータとZigBee(注1)通信で接続され,現在の電力及び電力使用量の表示や,デマンド(需要電力)及び電力使用量トレンドのグラフ表示などを行う。MDMSは,双方向通信でスマートメータの管理,制御,及びデータ分析を行う。

(注1) 家電向けの短距離無線通信規格の一つ。低速で伝送距離も短いが,代わりに省電力で低コストという利点がある。ZigBeeは,ZigBeeAlliance の米国及びその他の国における登録商標。

相互認証と暗号化処理を統合するスマートメータ用統合鍵管理技術 AMSOTM 本文PDF(360KB/PDFデータ)
神田 充・大場 義洋・田中 康之

スマートグリッドを構成する重要な要素の一つであるAMI(Advanced Metering Infrastructure)システムでは,双方向通信機能を持ったスマートメータと呼ばれる高機能なメータが必要になる。
東芝は,スマートメータに必要とされる通信セキュリティを強化する統合鍵管理技術 AMSOTM(Advanced Meter Sign-On)を開発した。 AMSOTMは,スマートメータ上で実行される複数の通信アプリケーション個々に必要な相互認証処理と暗号化処理の鍵管理を統合する。これによって組込み機器のため処理能力に制約があるスマートメータでの通信セキュリティの強化を実現し,更に将来登場するスマートメータ用通信アプリケーションへも適用できるようになった。



一般論文
次世代動画像符号化の標準化に向けたフィルタ処理技術 BALF  本文PDF(353KB/PDFデータ)
渡辺 隆志・中條 健

動画像符号化の次世代規格であるHEVC(High Efficiency Video Coding)の標準化が,ISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議)のMPEG(Moving Picture Experts Group)とITU-T(国際電気通信連合 - 電気通信標準化部門)のVCEG(Video Coding Experts Group)の共同組織であるJCT-VC(Joint Collaborative Team on VideoCoding)によって開始された。HEVCでは,現行の最新規格であるH.264/AVC(Advanced Video Coding)の2倍の圧縮性能を目標に掲げている。
東芝は,HEVCに向けた新たなフィルタ処理技術として,ブロック適応ループフィルタ(BALF:Block-Based AdaptiveLoop Filter)方式の開発を行ってきた。BALF方式はVCEGの共通参照ソフトウェアに採用されるなど,今後,HEVCの規格策定に貢献することが期待されている有力技術の一つである。

高画質なデジタルカメラを実現するランダムノイズ除去技術 本文PDF(471KB/PDFデータ)
河田 諭志・田口 安則・松本 信幸

近年,デジタルカメラに利用されるイメージセンサの微細化が進んでいる。これに伴い,一つひとつのセンサに入射する光量が低下し,撮影画像に発生するランダムノイズ(注1)が問題となっている。
東芝は,撮影画像の信号から,自然画像や撮影画像と相関の低い成分をノイズとして除去する新しい技術を開発した。これにより,デジタルカメラや監視カメラなどの画質を向上させることができる。

(注1) 周波数や振幅が不規則な雑音信号。

PWR原子炉容器の冷却材出入口管台に対する水中レーザ溶接技術 本文PDF(470KB/PDFデータ)
依田 正樹・田村 雅貴

原子炉容器や炉内構造物の溶接部などで,応力腐食割れと考えられるひび割れの発生が報告されている。
東芝は,PWR(Pressurized Water Reactor:加圧水型原子炉)原子炉容器の冷却材出入口管台(注1)( 以下,出入口管台と略記)に対する保全対策として,レーザを用いた遠隔水中溶接技術を開発した。試験により,出入口管台内面の応力腐食割れに対する予防保全効果や出入口管台材料への適用性を確認するとともに,実機に適用できる水中レーザ溶接装置を製作した。
この技術は,従来使用されていた気中溶接工法と比べると,原子炉容器の水抜きが不要なため,工事期間を短縮できるとともに作業員の放射線被ばくを低減できる。今後,当社のグループ会社である米国のウェスチングハウス社と協力して,国内外の多くのPWRプラントへこの技術の適用を推進していく。


(注1) 原子炉容器などにあらかじめ取り付けられている配管接続のための台。

ネットワークやテープレスメディアの放送素材に対応するフラッシュメモリ ビデオサーバ VIDEOS neoTM 本文PDF(373KB/PDFデータ)
加藤 信行

東芝は,1990年代半ばに,世界で初めて(注1)フラッシュメモリを使ったビデオサーバ VIDEOSTMを開発し,ハードディスク方式より信頼性の高い製品として放送機器市場に投入してきた。近年,放送局では放送信号をファイルで扱うことができるようになり,業務の効率を上げるためVIDEOSTMのファイル対応が急務となっていた。
当社は,このような要望に応えるため,今後のファイルベース ワークフロー(注2)に十分対応できる高信頼で,拡張性,柔軟性を兼ね備えたVIDEOS neoTMを開発した。VIDEOS neoTMは,最大10本のファイルIP(Internet Protocol)ポートがあり,それぞれのポートは700 Mビット/s 程度の速度を出すことが可能で,MXF(Material Exchange Format)(注3)などのファイルを高速で受信できる。また,同時にSDI(Serial Digital Interface)出力を40ch(チャンネル)備えており,更に,ストレージは60Tバイト(T:1012)までの拡張性がある。制御に関しても,VDCP(Video Disk Control Protocol)(注4)やAP(I Application Program Interface)(注5)を使って,MAM(Media Asset Management)(注6)などのサードパーティのソフトウェアと柔軟に連携することができる。

(注1) 1996年11月時点,当社調べ。
(注2) ファイル素材において,実時間に関係なく処理する(ノンリニアな)業務フロー。
(注3) SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers:全米映画テレビジョン技術者協会)で規格化された素材交換フォーマット。
(注4) ビデオサーバ用の標準制御プロトコル。
(注5) ソフトウェアを開発する際に使用できる命令や関数のこと。
(注6) コンテンツ管理を行うためのシステムの総称。


内部統制対応の運輸収入審査清算統計システム 本文PDF(375KB/PDFデータ)
成田 昌裕・古谷野 晃生

運輸収入審査清算統計システムは,鉄道事業者の財務報告の基となる鉄道収入の会計データを作成するシステムで,内部統制の目的の一つである財務報告の信頼性にかかわる。
今回開発した西武鉄道(株)運輸収入審査清算統計システムは,既存のシステムをリプレースして信頼性を高めるだけにとどまらず,内部統制に対応するため情報技術(IT)統制に基づいた仕組みを検討し組み込んだ。


R&D最前線
吸着剤によるリン回収技術 本文PDF(316KB/PDFデータ)
辻 秀之

下水中のリンを回収し,資源として再利用

リンは生命活動に不可欠な元素ですが,近年では,世界的なリン資源の枯渇が強く懸念されています。リン原料の100%を輸入に頼る日本では,その有効活用が特に必要ですが,鉱石として輸入されるリンの50%程度に相当する量のリンが下水に流入し,そのほとんどは再利用されていません。
東芝は,下水から高純度な形態でリンを回収でき,かつ何回も繰り返して使用することができる,“繰返し型”吸着剤の開発を進めています。また,リンを吸着した後にそのまま肥料として再利用することを目指した,“使いきり型”吸着剤の開発にも取り組んでいます。