概要一覧
 
表紙イメージ 2009 VOL.64 No.11

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環境創造を実現する空調技術
巻頭言 21世紀の環境創造企業として再生可能エネルギー技術にチャレンジ 本文PDF(133KB/PDFデータ)
北本 学

TREND 空調技術の最新動向 本文PDF(709KB/PDFデータ)
本郷 一郎・温品 治信・平山 卓也

空調分野は電力需要の大きな部分を占めており,近年の省エネの必要性からいっそうの高効率化が求められている。このような状況のなか,空調機に用いられているヒートポンプ技術が,高効率を期待できることから世界的に注目を集めている。欧州では再生可能エネルギー利用技術として定義され,空調だけでなく給湯などの分野でも製品が開発されている。
東芝キヤリア(株)は,コンプレッサ,インバータ,及び冷凍サイクル技術をコア技術として研究開発を行い,省エネ性の高い空調機器を商品化してきた。今後も高効率な製品開発に注力していく。

インバータと高効率ロータリコンプレッサを用いたヒートポンプ給湯機 本文PDF(524KB/PDFデータ)
奥田 健志・田邊 智明・角田 和久

ヒートポンプは,再生可能エネルギーである空気の熱を用い,高効率であることから,従来のガス燃焼式給湯機と比較して,エネルギー消費に伴う二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に削減できる。そのため家庭用,業務用ともにヒートポンプ給湯機のニーズが高まりつつある。
東芝キヤリア(株)はこれに応えるため,エアコンで培ったインバータ技術と高効率ロータリコンプレッサを採用したヒートポンプ給湯機を開発した。家庭用,業務用いずれもトップレベルの省エネ性能と使い勝手の良さを備えており,幅広いニーズに対応することができる。

低炭素社会の実現に貢献する高効率ヒートポンプモジュールチラー 本文PDF(439KB/PDFデータ)
政本 努・立石 章夫・室井 邦雄

東芝キヤリア(株)は,東京電力(株)と共同で,大形チラーとしては業界で初めて(注1)HFC(ハイドロフルオロカーボン)冷媒 R410Aを採用した,高効率大形空冷式ヒートポンプチラー(熱源機)“ スーパーフレックス モジュールチラーTM”を2006年に開発した。その後,“水冷式スーパーフレックス モジュールチラーTM”を2007年に,大容量かつ省スペース仕様である“スーパーフレックス モジュールチラーTM Vタイプ”を2008年に,更に,蓄熱時高効率運転を実現した“スーパーフレックス モジュールチラーTM 氷蓄熱システム”を2009年にそれぞれ製品化した。
大形空調市場では従来,燃焼式熱源機が主流であったが,当社は,低炭素社会の実現に向けて,ヒートポンプの技術を軸に高効率な電気式ヒートポンプチラーの開発を推進している。

(注1)2006年10月時点,当社調べ。

ビル空調を支えるビル用マルチエアコンとWeb対応空調管理システム 本文PDF(557KB/PDFデータ)
中津川 憲彦・木口 行雄

省エネ法の改正でビル空調の省エネ要求が高まるなか,ビル用マルチエアコンの直流(DC)ツインロータリコンプレッサや高効率ベクトル制御インバータによる省エネとともに,それを管理するシステムによる効率的な省エネが求められている。
これに応えて,東芝キヤリア(株)は,Webに対応した空調管理システム“Web対応集中コントローラ”を開発した。この管理システムには,Webページのユーザビリティと視認性を重視した管理画面と,空調操作の一元管理や連動制御など空調機の運用による省エネを織り込んだ。

省電力化が進む家庭用ルームエアコン “大清快TM 本文PDF(584KB/PDFデータ)
佐藤 雄彦・北市 昌一郎・井手 伸一

地球温暖化対策として二酸化炭素(CO2)の排出量を削減するために,家庭における空調機使用時の消費電力の低減は重要な課題である。
東芝キヤリア(株)は,この課題を解決するために,家庭用ルームエアコン “大清快TM ”のUDRシリーズを開発した。エアコンの使用時間が増加傾向にある特に小能力域での省エネ性を高めるため,エアコンの心臓部であるコンプレッサに内蔵している二つの圧縮室の稼働状態を負荷に応じて自動可変する機構をもつ“デュアルコンプレッサ”を採用した。これにより,低負荷運転時の消費電力が低減できるとともに,その“見える化”によってユーザーの省エネ行動が喚起できる。



一般論文
オープンソースコミュニティへの貢献―Linux及びBSD用通信ソフトウェアの開発 本文PDF(314KB/PDFデータ)
神田 充・小堺 康之・福本 淳

近年,オープンソースと呼ばれるソフトウェアと,その開発形態が普及してきた。オープンソースでは,誰でも自由に使用したり改良できるライセンスの下で,世界中の開発者が協力してソフトウェアを開発し,そのソースコードは無償で公開される。企業がこれらオープンソースソフトウェアを利用する場合,ただ単に利用するだけでなく,オープンソースソフトウェア開発への貢献が求められる。
東芝は,Linux(注1)のIPv6(Internet Protocol version 6) IPsec(Security Architecture for the Internet Protocol)ネットワークスタック,Linux IPv6用パケットフィルタプログラム,及びLinuxとBSD(Berkeley Software Distribution)系OS(基本ソフトウェア)のIPsec用暗号鍵交換プログラムの三つのコンピュータネットワークにかかわるオープンソースソフトウェア開発に参加し,これらのソフトウェアの普及に貢献した。

(注1)Linuxは,Linus Torvalds氏の米国及びその他の国における登録商標。

組込みシステム設計の生産性を向上させる超高位設計言語 本文PDF(292KB/PDFデータ)
白井 智

東芝は,一つのアルゴリズム記述から,各種のマルチコアプロセッサ向けプログラムやハードウェアエンジンの動作記述など,様々なプラットフォーム向けに最適化したプログラムを自動合成することで,組込みシステムのソフトウェア・ハードウェア開発における設計の生産性を向上させることを目指した,超高位設計手法の開発を進めている。
超高位設計の入力となるアルゴリズムを記述するために新しく設計した言語には,ソフトウェアとハードウェア両方の開発を効率化するための工夫,特にマルチメディア処理に頻出するストリーム処理アルゴリズムの開発を効率化するための工夫が施されている。この言語は,特定のプラットフォームだけに効果があるメモリの使用方法や計算の並列化方法に依存しないように簡潔にアルゴリズムを記述できる性質と,最適化に必要な情報を簡単な解析で抽出できる特長を持つ。

ヘッド分離型CMOSカラーカメラ IK-HR1H/IK-HR1CD 本文PDF(340KB/PDFデータ)
大久保 正俊・篠崎 宏

小型かつ高画質のビデオカメラを求める声は,ハイビジョン化が先行する放送業界だけでなく産業・医療用カメラでも高まっている。
東芝は小型,高画質でフルハイビジョン(1080p)対応のヘッド分離型CMOS(相補型金属酸化膜半導体)カラーカメラ IK-HR1H/IK-HR1CDを開発した。カメラケーブルの信号線の削減と最適な熱設計によりカメラヘッドの小型化を図り,様々なシステムへ組み込めるようにした。カメラヘッドとカメラコントロールユニットの接続ケーブルには,映像信号の伝送レートが1.78 Gビット/sの高速デジタル伝送技術の採用により,最大10 mの伝送距離を確保した。当社は,様々な製品への組込みや使用環境に対応するため,ビデオカメラの製品ラインアップを拡充している。


DVDプレーヤの高画質化技術 XDETM 本文PDF(288KB/PDFデータ)
丸山 晃司・内藤 信正

最近の地上デジタル放送用テレビ(TV)は高解像のHD(High Definition)映像に対応しており,フルHD(1,920×1,080画素)の液晶パネルを搭載したTVが主流になりつつある。しかし,映画などが収められた従来のDVDは,720×480画素のSD(Standard Definition)映像であるため,DVDの再生映像をHD対応のTVで見ると画質が粗くぼやけて見える。
東芝は,このような問題を解決するため,複合映像処理技術 XDE(Extended Detail Enhancement)を開発した。この機能をDVDプレーヤに搭載することで,映像解像感を向上させHD映像に迫る画質で従来のDVDビデオを見ることができる。当社は,XDEを搭載した最新型のDVDプレーヤとして,XDE600を2009年夏に北米向けに商品化した。

金属構造物の多い製鉄所で安定した通信を可能にする漏洩同軸ケーブル方式無線LAN 本文PDF(396KB/PDFデータ)
杉山 智則・後藤 幾・野田 敬介

製鉄所では,操作者が天井クレーンなどの移動体を使用して長い移動路に沿って作業を行うシステムが多数ある。操作者は無線通信を介して受信するモニタの映像を見ながら作業を行うため,移動路全区間にわたり常に安定した通信が求められる。
東芝テック(株)は,従来型のアンテナに代わって漏洩(ろうえい)同軸ケーブルをアクセスポイントのアンテナとした新しい無線LAN方式を開発してきたが,今回,製鉄所にこの漏洩同軸ケーブル方式無線LANを用いることで,天井クレーンの移動路全区間で安定した受信レベルとスループットが得られることを実証し,実用化することができた。

直流送電システム用 光CT 本文PDF(475KB/PDFデータ)
村尾 武・平田 幸久・佐々木 欣一

光ファイバをセンサとして用いる光CT(Current Transformer)は,小型軽量で絶縁特性に優れ,交流電流はもとより直流電流も高精度に計測できる。直流送電(HVDC:High Voltage DC transmission)システムは,DC250 kVという高電圧主回路の直流電流を検出するため直流CT(DCCT)を多数用いており,光CTの特長を生かすことのできる適用分野である。
東芝は,HVDCシステムのケーブル保護用として光計測の特長を生かした光CTを開発し,電源開発(株)北海道・本州間電力連系(以下,北本連系と略記)設備の古川ケーブルヘッドにおける実フィールド試験検証を経て,2009年度中に商用器の製造に着手する予定である。

FPGA型デジタル計測制御装置の米国原子力発電所適用に向けて 本文PDF(467KB/PDFデータ)
後藤 泰志・林 俊文・穂坂 泰臣

東芝は,FPGA (Field Programmable Gate Array)を使用した原子力発電所向けデジタル計測制御装置を開発した。従来のCPU型デジタル計測制御装置は,CPUの製品サイクルが短いことから装置の長期供給が困難であり,また,ソフトウェアの機能検証に多くの時間と労力を費やしてきたが,FPGAは,必要な機能を実行させるための論理回路をプログラム可能なLSIであり,ソフトウェアを使用しない。更に,FPGA素子が変わっても,同じ設計の論理回路を使用できるため,装置の長期供給が可能である。また,当社はFPGA型計測制御装置に対して,内部の信号処理を透明化しわかりやすくする設計と,その検証方法を開発した。
FPGA型の監視装置は国内の原子力発電所に適用を開始しており,米国で建設を計画中の改良型沸騰水型原子炉(ABWR)プラントへも適用する計画である。米国の原子力発電所では,安全上重要な計測制御装置として使用するために,米国原子力規制委員会(NRC)の認可が必要であり,現在,認可取得に向けた活動を行っている。

小型化と操作性を両立させた次世代複合発券機 ET-1400 本文PDF(439KB/PDFデータ)
中尾 政弘・山下 雄毅・尾崎 嘉彦

複合発券機は,定期券及び多様な乗車券類を発券できる駅務機器であり,これまでに東芝は,10社以上の鉄道会社の駅窓口に納入している。開発から10年以上経過していることや,乗車券のIC化が都市部を中心に全国に拡大していることに伴い,次世代機を望む声が高まってきていた。
今回開発したET-1400では,従来機能を踏襲しつつ操作性や性能を大幅に向上させ,多機能で使いやすくIC化対応も可能な次世代の複合発券機を実現した。


R&D最前線
生体センシングによる個人に適応した温冷感計測技術 本文PDF(324KB/PDFデータ)
仲山 加奈子

皮膚温を測って一人ひとりの“暑い”や“寒い”を知る
周囲の温熱環境に対して,人間が感じる“暑い”や“寒い”といった感覚を“温冷感”と言います。
エアコンが原因となる冷房病などを予防するには,個人ごとの温冷感を客観的に計測して,個人の体に応じた優しい温度制御をすることが必要です。
東芝が開発した温冷感計測技術は,人の皮膚温を計測し,その変動から体温調節の状態を知り,その人の日常生活の下での温冷感を客観的に推定するものです。従来の方法に比べ,少ない情報で一人ひとりの温冷感を計測できる点が優れています。温冷感に合わせて温熱環境を制御することで,個人に合わせた快適で健康な空間が実現できます。