概要一覧
 
表紙イメージ 2009 VOL.64 No.8

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製品ライフサイクルでの高信頼化技術
巻頭言 形式手法に基づく高信頼システムのライフサイクル管理 本文PDF(109KB/PDFデータ)
片山 卓也

TREND 製品ライフサイクル高信頼化
―仕様と実装と環境のギャップをライフサイクルで管理する技術
 本文PDF(447KB/PDFデータ)
内平 直志

製品の大規模化,複合化,オープン化,及び協働化に伴い,設計・製造時には想定できない様々な状況変化に対しても,製品ライフサイクルを通じて高い品質を維持することが求められている。
東芝は,ライフサイクルの中で仕様,実装,あるいは環境の変化によって生じるそれぞれの間のギャップを品質の劣化ととらえ,そのギャップを監視,検出,及び修正することで高信頼化を実現する“製品ライフサイクル高信頼化モデル”に基づき,製品を構成するハードウェアやソフトウェアだけでなく,人間系プロセスを含むシステム全体の高信頼化を実現する技術開発を行っている。

デジタル機器の信頼性向上を実現するヘルスモニタリング技術 本文PDF(477KB/PDFデータ)
廣畑 賢治・中村 浩二・須田 幸宏

デジタル機器は,小型・高性能化,多機能化などを背景に利用形態が多様化し,想定外の使用環境や使用方法により不具合が発生するリスクが高くなるおそれがある。ユーザーが予期しない故障に見舞われずに安心して製品を利用し続けられるようにするためには,信頼性向上の新たなアプローチも必要になる。
東芝では,デジタル機器の使用状況や異常な状態を監視し,故障の予兆となる状態を検知するヘルスモニタリング技術を開発し,製品のアベイラビリティ(可用性)と保守サービス力の向上を目指す取組みを進めている。故障発生前の対応策の検討,故障時の原因究明時間の短縮,及び保守の効率化に活用することが狙いである。ヘルスモニタリング技術の拡充と製品展開を進め,デジタル機器の信頼性向上に寄与していく。

市場品質の監視による早期対策からプロアクティブな品質保全とサービスへ 本文PDF(405KB/PDFデータ)
西川 武一郎・原 貫三

製造時に多大なコストを掛けて製品を検査しても,出荷後の市場における品質問題を完全には防ぎきれない。
そこで東芝は,ノートPC(パソコン)の出荷後の修理情報を活用して,問題をより早い段階で検出するための分析技術を開発した。また,動作中のPCをモニタリングすることで故障発生前に予兆を検知し,ユーザーにその情報を提供するとともに, これに合わせた点検サービスを開始した。これにより,プロアクティブ(積極的)な品質保全として,ネットワーク経由で収集したモニタリングデータを活用して,ユーザーの使用状況に応じた新たなサービスが可能になる。

コモディティ機器向けネットワーク接続診断技術 NetScopeTM 本文PDF(394KB/PDFデータ)
伊瀬 恒太郎・田島 武志・田中 康之・勝部 泰弘

パソコン(PC)はコモディティ(日用品)化し,技術知識のない一般ユーザーも購入している。その用途は,eメールやWebのようなネットワークの利用が主流となっている。一方,無線LANを使ったホームネットワークの構築は,一般ユーザーにとって難しい作業であり,ネットワークの設定や運用のトラブルも多く発生している。
東芝は,ネットワークトラブルの原因解析を行う技術“NetScope”を開発した。NetScopeは,当社のPCサポートセンターに蓄積されたコールデータ(ユーザーからの問合せや相談などの記録),PCの設定状態,及びインターネットへの到達性から,トラブルの原因をユーザーに提示できる。ユーザーは,これに基づきサポートセンターと相談しながらトラブルを解消することができる。一方,サポートセンターは,NetScopeの提示に基づき,トラブルの原因を迅速に切り分け,解決方法を効率よく提供できる。

データ構造に関する仕様を含め検証できるC言語プログラム部品検証ツール CForge 本文PDF(361KB/PDFデータ)
酒井 政裕・今井 健男・片岡 欣夫

東芝は,“仕様を基点としたソフトウェア高信頼化”というコンセプトで,ソフトウェアの信頼性向上に取り組んでいる。その一環として,仕様とプログラム部品を対応付けながらメンテナンスを行うことで,プログラムの改変・拡張時の信頼性を確保することを目指している。
今回,仕様とC言語プログラム部品の整合性の静的検証を行うツール CForgeを開発した。これはデータ構造とポインタを扱うことができ,また,仕様に基づいて網羅的に検証できる。

高品質なソフトウェアを効率よく開発できるモデルベーステスト技術 本文PDF(329KB/PDFデータ)
太田 暁率・進 博正・渡邊 竜明

高品質なソフトウェアを効率よく開発するため,ソフトウェア開発の上流工程から,動作モデルを用いる仕様検討と,動作モデルを用いてテスト設計を進めるモデルベーステストの導入が進められている。しかし,適用対象が複雑になるとテストケースが膨大になるため,テストケースを選択する技術が求められている。
東芝は,独自のテストケース選択方式を搭載したモデルベーステスト技術を開発した。この技術は,動作モデルから得られた状態遷移系を同値関係により縮約してテストケースを選択し,縮約前の状態遷移系上で復元することで同値な状態間の遷移関係を網羅した状態遷移テストを生成する。この技術を自動車のクルーズ制御システムに適用し,その有効性を確認した。

電子機器製品の高品位設計を実現するESLツール S.E.R. studio 本文PDF(320KB/PDFデータ)
荒木 大・中村 敦資

システムLSIの集積度が高くなり構造が複雑になったため,その性能や特性がわかりにくくなり,アプリケーションを稼働させたとき予期しない不具合が発生するケースが増えている。
(株)インターデザイン・テクノロジーは,このような課題を解決するために,ESL(Electric System Level Design)ツールのS.E.R. studioを商品化した。このESLツールを活用した実機レスでの設計評価環境は,実機のハードウェア(HW)及びソフトウェア(SW)を開発する前の上流設計の段階で,実機アーキテクチャの作り込み,設計の高品位化,及び設計結果の可視化などに対して非常に有効である。


潜在リスク評価手法RFMEAによる業務プロセス改善 本文PDF(549KB/PDFデータ)
鳥居 健太郎・西川 武一郎・平野 佳穂

国内外で医療事故の実態が明らかになり,より安全な医療業務の確立のために,重大事故が発生する前にその業務を改善することが重要な課題になっている。
東芝は東芝林間病院と連携して,FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)を基に,業務の中に潜む,まれにしか発生しない重大事故のリスクを定量的に評価する手法RFMEA(Risk FMEA)を開発した。また,実際の業務の中で発生するインシデント事例から,どこにどれだけの問題があるかを容易に把握できるインシデント レポート システムも開発した。東芝林間病院では,これらを用いたPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルにより業務のリスク評価と改善を行い,更なる安全性の向上を図っている。


障害情報フィルタリング技術 本文PDF(332KB/PDFデータ)
長谷川 哲夫・中島 暢康・リー クァンリン サムソン

電力の送電系統のようなシステムで発生する障害に対しては,担当者は機能復旧や事後対策を迅速に行う必要がある。そのため各担当者は,関連する障害情報を的確に認識する必要がある。しかし,気象条件などその要因によっては,障害は各所で同時に発生して障害情報が短時間に数多く発生し,障害情報の量が人間による情報監視の限界を超えてしまうことがある。 また担当者にとっても,障害情報を的確に認識するためのノウハウの継承も課題となっている。
今回東芝は,各担当者が認識すべき情報を抽出する障害情報フィルタリング技術を開発した。シミュレーションによる評価を行った結果,事前に詳細な設定をすることなく,短期間に必要な障害情報だけを配信できるようになることが確認できた。


診断技術の進化を支える遠隔監視プラットフォーム TMSTATIONTM 本文PDF(392KB/PDFデータ)
沖谷 宜保・永野 和俊・岸原 正樹

高度化する社会インフラ設備の保守サービスには完成がなく,日々改善し進化していかなければならない。
東芝ソリューション(株)が開発した遠隔監視プラットフォーム TMSTATION(ティーエムステーション)は,社会インフラ分野で長年培った“遠隔監視”の技術と,設備保守に関する様々なデータを一元管理する“保守統合データベース(DB)”を融合させ,何かあったときの保守だけではなく,情報を蓄積及び分析することによる,常に先進的で最適な,進化する保守サービスを実現するIT(情報技術)基盤である。このIT基盤により,“進化する診断”を実現することができた。今後も,保守サービスの付加価値向上のために機能を拡張していく。




一般論文
RAIDコントローラ T380 本文PDF(349KB/PDFデータ)
大森 幹雄・川村 和也・藤本 真吾

MAGNIATMシリーズに使われている東芝製RAID(Redundant Array of Independent(Inexpensive)Disks)技術のRAID MasterTMに基づき,RAIDコントローラ T380を開発した。RAID Masterは,高性能,高信頼性,高可用性(高耐障害性),及び保守性向上を狙ったもので,ソフトウェア(SW)RAIDのMAGNIA ATA RAIDを製品化し,ハードウェア(HW)RAIDであるT380にも適用した。
T380は,デュアルコアI/O(Input/Output)プロセッサなど最新のデバイスを採用し,通常動作とは独立した診断プログラムがRAIDコントローラの状況を監視することで,高性能と高信頼性を実現している。また,磁気ディスク装置(HDD)が2台故障してもデータを失わないRAID 6をサポートし,エラーの頻度が高くなった場合に,診断プログラムの結果を利用して自動的に待機系HDDにデータをコピーする予防保全機能があり,簡単にデータを失わないように可用性を高めている。また,障害発生時に解析情報を記録しており,コントローラを解析すれば障害情報が得られる工夫を行っている。更に,バッテリーは外部型と内蔵型の2種類を用意し,簡単に交換できるようにして保守性の向上を図った。

SpursEngineTMによるネット配信動画の高画質化技術 本文PDF(320KB/PDFデータ)
中村 誠一・菊池 義浩・田中 明良・金子 敏充

近年,ネットワークインフラの高速化に伴い,ユーザーがホームビデオで撮影した動画などを気軽に配信するためのシステムが急速に普及してきた。これら,ネットワーク配信(以下,ネット配信と略記)される動画の画質は,DVDなどに比べるとあまり良い状態ではない。これまでDVDなどを高画質化する技術が様々な方面から提案されてきたが,これらのネット配信動画に対しても,高画質化を切望する声が数多く聞かれるようになってきた。
東芝は,このようなニーズに応えるために,既に実用化しているDVDなどの高画質化技術を発展させ,ネット配信動画に特化した新しい高画質化技術を開発した。

東京電力(株) 500 kV 変電所 集中監視制御システム 本文PDF(489KB/PDFデータ)
辻 尚志・野田 剛敏・三浦 祥吾

東京電力(株)管内にある27か所の500 kV変電所(注1)では,建設時期,システム開発メーカー,及び設備形態の違いにより,様々な監視制御システムが個別に開発され運用されてきた。今後,更なる電力流通コストの低減が求められるなかで,開発コストの削減,誤操作の防止,信頼性の向上,フレキシブルな運用などを目的として,変電所監視制御の集中化が進められている。
東芝は,東京電力(株)と協同で,500 kV変電所 集中監視制御システムを開発した。このシステムの1号機は2008年5月に運用が開始され,2008年度中に7変電所で運用が逐次開始された。開発したシステムでは,ソフトウェアの機能,データベース(DB),及び画面の標準化を行うことで,品質の向上とコストの削減を実現するとともに,電力イントラネット ミドルウェアや高信頼プロトコル,防護装置などにより,高いセキュリティを実現した。


(注1) ここでは,変電所と開閉所の総称として変電所と呼ぶ。

アラブ首長国連邦 400/220 kV スウェイハン変電所の運用開始 本文PDF(456KB/PDFデータ)
京藤 太吉郎・奥田 実・松村 顕

アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ水電力庁(ADWEA)は,系統の安定度や信頼性の向上を目的として,400 kV電力系統の拡充を行っている。その一環として,既設の220/33 kVスウェイハン変電所に400 kVシステムの新設と220 kVシステムの増設を行い,2008年5月に400 kV系統の受電,2009年2月に220 kVシステムの商用運転をそれぞれ開始した。スウェイハン変電所は,首都アブダビ地区とアルアイン地区を結ぶ400 kV送電系統を担うとともに,フジャイラ発変電所へも接続され,電力安定供給の責務を負う大規模かつ重要な連携変電所となる。
東芝は,この新設・増設工事をフルターンキー(FTK)(注1)契約形態で受注し,既設設備との切替え作業や対向する複数の変電所との接続改造工事など多くの課題を,当社の変電プロジェクトエンジニアリングの高度な技術力により克服して工事を完遂した。

(注1) プラントなどの工事において,設計,調達,建設,及び試運転助勢までを一括して行うこと。

高精度な発電機群脱調未然防止リレーシステム 本文PDF(433KB/PDFデータ)
犬飼 道彦・井上 泰典・安田 忠彰・西 哲哉

脱調未然防止リレーシステムは,電力系統で重大事故が発生したとき発電機の脱調を予測し,一部の発電機を選択的に解列させることにより,電力系統に生じる影響を最小限に抑制するために使用される。千葉県房総方面の電力系統は大電源を含む異電圧ループで形成されており,従来のアルゴリズム(注1)では精度の良い脱調予測が困難であった。
東芝は東京電力(株)と共同で,この課題を解決できる新方式を採用した脱調未然防止リレーシステムを開発した。電力系統内の各所で取得される有効電力量から得られたパラメータによる重回帰分析結果に基づき,複雑な系統でも精度良く発電機の選択的な解列を行うことができる。

(注1) コンピュータを使ってある特定の目的を達成するための処理手順。

パラフレーズ技術を利用した情報・知識利活用ソリューション 本文PDF(343KB/PDFデータ)
齋藤 佳美・倉田 早織・加納 敏行

情報・知識利活用ソリューションは,日常業務で作成される様々な業務文書において,文書の品質を高め,精度よく分類し整理して活用できるようにするためのシステムである。従来から,文書の検索や分類に単語を単位とした処理が行われているが,ことばの意味により近い高度な検索や分類へのニーズが高まっている。
東芝ソリューション(株)はこのようなニーズに応えるために,新たにパラフレーズ技術の開発に取り組んでいる。パラフレーズ技術とは,同じ意味を表す様々な表現を生成する技術であり,同じ意味の文を一つにまとめ上げるために利用できる技術である。従来の検索・分類技術をベースにパラフレーズ技術を活用することにより,文の意味を基にした処理を行い,高精度の検索や分類を実現する。


R&D最前線
スポーツ番組を短時間で視聴できる映像内容解析技術 本文PDF(275KB/PDFデータ)
上原 龍也

スポーツ番組の新しい見方を提案
映像情報のデジタル化が進みハードディスクレコーダーなどが普及した結果,長時間の番組を大量に,かつ簡単に録画できるようになりました。しかしその一方で,大量に録画した番組の中から見たいシーンや番組を簡単に探すことが困難になってきました。
東芝は,シーン検索の手助けになるように,映像内容を解析して自動的にチャプターを作成する,映像インデクシング技術を開発しました。これは“マジックチャプターTM”などとして,当社のハードディスクレコーダーやAVノートPC(パソコン)に搭載されています。更に,スポーツ番組を便利に視聴できるように,コーナーテロップ検出技術を開発しました。これにより,スポーツ番組を試合中とそれ以外にチャプター分割することができます。好きな選手の登場シーンを見つけたり,試合部分だけを短時間で視聴できるようになります。

母国語で外国語の情報を収集できる言語横断検索技術 本文PDF(300KB/PDFデータ)
真鍋 俊彦

海外の情報に,日本語で簡単にアクセス
インターネットなどによりグローバルな情報へのアクセスが容易になっていますが,必要な情報が外国語でしか存在しない場合や,ワールドワイドな情報収集に迫られる場合が多くあります。しかし,習熟していない外国語の情報を正しく検索することや,かりにそのような情報にアクセスできてもその内容を理解することは困難です。
東芝は,情報アクセスにおけるこのような言語障壁を解消するために,外国語と母国語の情報を区別なく検索できる言語横断検索技術を開発しています。件数が増大している中国や韓国の特許文献の公知例調査で,この技術の有効性が確認できました。