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表紙イメージ 2007 VOL.62 NO.2

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特集:最近の電力系統保護制御技術
巻頭言社会の安全・安心を支える電力システムの見張り番 本文PDF(129KB/PDFデータ)
横山 明彦

TREND電力系統保護制御技術の動向 本文PDF(468KB/PDFデータ)
伊藤 八大・須賀 紀善

保護リレー(保護継電器)は,電力系統又は電力設備などに発生した短絡や地絡などの異常状態(系統事故)を数十ms という短時間で検出し,事故が発生した箇所を,他の健全部からすばやく切り離すよう指令を出す装置である。
1907年に保護リレーが国産化されてから,ことしは記念すべき100年目である。この保護リレーなどを電力系統に配備した電力系統保護制御システムは,電力系統の拡大・発展に伴ってその構成も変化してきた。最近ではディジタル技術の発達によって,マイクロプロセッサを搭載してディジタル伝送を活用するディジタルリレーやディジタル形監視制御システムが主流となり,性能及び機能が高度化し,電力系統保護制御システムに常に要求される信頼度の向上も実現してきた。
今後は,知的処理や通信ネットワーク技術との融合により,電力系統の広域保護制御への発展も見込まれる。
音声帯域伝送路を用いる送電線保護用電流差動リレー 本文PDF(275KB/PDFデータ)
大野 博文・杉浦 秀昌・菊崎 朋裕

電力系統の保護には電流差動リレーが広く採用され,送電線保護にはPCM(Pulse Coded Modulation)通信を使用し,
送電線の各端子の電流データを伝送し合い,全端子分の電流データを収集し差動演算する方式を採っている。現行の電流差動リレーのデータ収集手段は,リレー専用の高速伝送を行うための伝送設備を必要とし,電流差動リレー適用にあたっては,この通信設備を含めて構築する必要があったが,音声帯域伝送路を使用する送電線保護用電流差動リレーでは,この通信設備を新たに導入することなく,既にある通信設備を使用することで実現することができる。
高信頼度GPS受信システム及びGPS受信実績評価 本文PDF(360KB/PDFデータ)
板垣 大樹

近年,電力系統の保護制御システムでは,様々な場面で広域の時刻同期処理が要求され,GPS(Global Positioning System)による時刻同期が利用されている。GPSを利用する場合,GPS 衛星からの時刻信号を安定して受信する必要があるが,変電所などにおける受信安定性については明らかになっていないのが実情である。
東芝は,保護制御システム向けのGPS受信システムの開発を進めてきた過程において,様々な変電所でGPS受信状態を計測し,十分な信頼性があることを確認した。また,GPS衛星が故障するなど過酷な状況でも,受信を継続する方法を確認した。これらの実績から,保護制御分野でGPSによる時刻同期がますます有効活用されることが期待される。
GPS同期型送電線保護用電流差動リレー 本文PDF(260KB/PDFデータ)
杉浦 秀昌・嵯峨 正道

従来,送電線保護用の電流差動リレーでは,伝送路を経由した同期制御により送電線各端子の電流を同一タイミングでサンプリングしていたため,伝送遅延時間が変化しない安定な伝送路が必要であった。
東芝は,GPS(Global Positioning System)受信機からの正確な時刻データを端子間のサンプリング同期に使用するGPS 同期型送電線保護用電流差動リレーを開発し,これまで伝送遅延時間変動の問題から適用が難しかったSDH(Synchronous Digital Hierarchy)網をリレーの伝送路に使用できるようにした。開発したリレーは,GPS信号が失われた場合や伝送路に不良が発生した場合でも保護を継続することが可能で,信頼性の高い保護機能を提供することができる。
距離リレーの高速化技術 本文PDF(372KB/PDFデータ)
高荷 英之・斎田  穣

電力系統保護分野において,送電線などの系統事故発生時に,事故点までの電気的距離(注1)を算出し,その値に応じて事故選択する距離リレーが幅広く利用されている。従来,距離リレーは,高速選択性に優れる主保護を補う後備保護としての適用が中心であったが,近年,電力系統保護の信頼度向上と自由度のある保護運用の観点から,距離リレーについても主保護として利用できるよう,高速化及び高精度化のニーズが高まりつつある。
東芝は,このようなニーズに応えるために,距離計測演算アルゴリズムの改良により,動作時間を従来比でおよそ40 %短縮するとともに過渡現象に対する安定性を向上し,高速化と高精度化を両立した距離リレーを開発した。
配電変電所用次世代保護制御システム 本文PDF(348KB/PDFデータ)
井上 泰典・南  裕二

配電変電所用保護制御装置の次世代システムとして,保護リレーと監視制御の機能を一体化した保護制御ユニットをキー
コンポーネントとし,Ethernet LAN を適用したディジタルシステムを開発した。このシステムは,ユニットの高機能化及
び機能集約化により,装置面数が削減できるとともにシステムを容易に構築できる。既設配電変電所にあるアナログシステ
ムの老朽化に伴う更新にもおおいに寄与するものであり,新旧の配電変電所で保護制御システムの低コスト化と省スペース
化が実現できる。
受配電系統保護制御用フィーダマネージャリレー 本文PDF(392KB/PDFデータ)
河野 史生・鳥越 秀樹

情報通信技術の飛躍的な発展に伴い,電力系統の保護制御分野では,保護や制御をはじめとした様々な機能の統合により,変電所の運用・保守コストを低減する要求が高まりつつある。
東芝は,これらの要求に応えるため,受配電系統用に保護制御一体型のフィーダマネージャリレー(FMR)を海外向けに開発した。FMR は,単線結線図や系統電気量の計測値を表示できる大型の液晶ディスプレイ(LCD),シーケンスロジックを自由にカスタマイズできるPLC(Programmable Logic Control)機能,更に,エンジニアリング支援用パソコン(PC)ツールを備えている。カスタマイズ性と操作性を備えたコンパクトな多機能IED(Intelligent Electronics Device)の一つであり,これまで中国,東南アジア,中東などに数多くの適用実績を持っている。
アナログリレー代替用ディジタルリレー 本文PDF(399KB/PDFデータ)
田中 年男・小杉  貢

誘導円板形リレーや誘導円筒形リレーに代表される電磁形アナログリレーは,長年にわたり重要な電力系統及び電力設備の保護リレーシステムの一翼を担っているが,東芝においては,生産設備の老朽化,構成部品の廃止,製造・試験技能者の不足によりその生産維持が困難な状況となり,2002年に廃止となった。トランジスタ形に代表される静止形アナログリレーについても,各種電気部品及び電子部品の廃止に伴い,一部を除いて生産継続が困難となった。
そのため当社は,従来のアナログリレー代替用として,性能や信頼性を向上させた新しいディジタルリレーを開発し,2000年以降ラインアップしている。

一般論文
ランタンアルミネート直接接合ゲート絶縁膜 本文PDF(386KB/PDFデータ)
鈴木 正道・山口  豪・小山 正人

将来のSi(シリコン)-LSI高性能化のために,金属酸化膜半導体(MOS)トランジスタ用ゲート絶縁膜は1nm以下への薄膜化が必要であるが,従来の材料である酸化シリコン(SiO2)は薄膜化でその絶縁性が破綻(はたん)するため,より誘電率の高い(以下,High-kと記す)ゲート絶縁膜の導入が必須である。既存のハフニウム(Hf)系High-kゲート絶縁膜では,Si基板との界面に不可避的に低誘電率層が形成され,これが更なる薄膜化を阻害していた。
東芝は,Si 基板と,Hf を含まない新たなHigh-kゲート絶縁膜として,ランタンアルミネート(LaAIO3)の直接接合形成に成功した。この結果,SiO2換算厚さ0.31nmという世界最高水準の薄膜化を達成し,更に漏れ電流をSiO2膜に対して100万分の1にまで抑制することに成功した。
国内向けCDMA2000 1xEV-DO方式 携帯電話端末W47T 本文PDF(313KB/PDFデータ)
石川 二朗・越智 義仁・新留 順一・結城 義徳

auは,2006年12月から,CDMA2000 1xEV-DO Rev.A(Code Division Multiple Access 2000 1x EVolution Data Only Revision A)方式の通信サービスを開始した。
同時に,東芝は,このサービスに対応した国内向け携帯電話端末W47Tを商品化した。この方式を用いることによって,基地局から移動局への最大データレートが3.1M ビット/s,移動局から基地局への最大データレートが1.8M ビット/sと通信速度が向上している。また,QoS(Quality of Service)機能の追加により,ユーザーやアプリケーションの管理を行い,大容量コンテンツの高速ダウンロードやテレビ電話サービスを楽しむことが可能となった。W47Tは,CDMA2000 1xEV-DO Rev.A方式を用いた商用機種として,世界初の携帯電話端末である。
大阪PCB廃棄物処理施設の完成 本文PDF(454KB/PDFデータ)
足立  彰・川野 完司・西澤 克志

国内で長期間にわたり保管されてきたポリ塩化ビフェニル(PCB)使用機器の処理が,2004年12月から日本環境安全事業(株)(JESCO)の北九州PCB廃棄物処理施設で開始されている。
東芝は,国が計画した同社の大阪PCB廃棄物処理施設のプラント建設に参加して2003年12月に設計を開始し,試運転によるプラント性能の確認を行って2006年8月に完成させた。今後,2015年までに国内のPCB処理完了を目指し,プラントの維持及び安定運転に協力をしていく。
1kW級家庭用燃料電池の大規模実証と水素機開発の現状 本文PDF(355KB/PDFデータ)
岩崎 和市・金子 隆之・坂田 悦朗

東芝は,2005年度よりスタートした独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業である「定置用燃料電池大規模実証事業」に初年度から参画し,1kW 級家庭用燃料電池の商品化を目指している。2005年度に運転を開始した燃料電池システムの一部は既に1年以上の運転実績があり,約1万時間の運転を通して,発電効率は初期と同程度の32%(HHV(Higher Heating Value:高位発熱量))を維持していることを確認した。また,2005年度に運転を開始した125台の全平均省エネ率は,15%という結果を得ている。
2005年度からスタートした国土交通省事業の「集合住宅における水素供給燃料電池コージェネレーションシステムに関する技術開発」にも従事しており,当社開発の純水素型燃料電池は,定格500W 出力時の発電効率46%(HHV)を達成した。
超音波式ガスメーター 本文PDF(329KB/PDFデータ)
宇山 浩人・鮫田 芳富・石野 仁朗

東芝は,東京ガス(株),東邦ガス(株),及び愛知時計電機(株)と家庭用超音波式ガスメーターを共同開発した。
都市ガス用として用いられる現在の家庭用ガスメーターは機械的にガスの流量を測る膜式ガスメーターで,機械式のため形状が大きく,部品点数が多いものであった。今回開発した超音波式ガスメーターは,機械式可動部をなくし,超音波の伝播(でんぱ)時間を利用してガスの流量を計測する。これにより,高信頼性で小型のガスメーターを提供することができる。
地上デジタル放送送信ネットワークシステム 本文PDF(402KB/PDFデータ)
村上  宏・杉山 泰司・金子 友朗

地上デジタル放送は,2003年12月に東京,名古屋,大阪で開始された。その後,順次各地の放送局の親局送信所の整備が行われ,2006年12月までに全国の県庁所在地で放送されるようになった。今後は,地上デジタル放送のエリアを拡大していくために,全国に約1万局あると見込まれる中継送信所の整備を,2011年7月24日のアナログ放送終了までに行う計画である。
親局送信所から多くの中継送信所まで,放送プログラムを伝送する送信ネットワークシステムを構築する主な中継方式として,放送波を受信して中継を行う放送波中継方式や,マイクロ波帯の無線周波数を利用して中継を行うTTL(Transmitter to Transmitter Link)中継方式などがある。適切な中継方式を選択し,安定した送信ネットワークシステムを短い期間で効率よく経済的に構築していくことが,これからの課題となる。
現在東芝は,最適な送信ネットワークシステムを構築するために,回線設計による回線品質の検証及び,中継局送信機やTTL 装置など各種送信ネットワーク中継装置の開発を行い,全国各地において提案活動を行っている。
自律型コンピューティング技術により情報システムの問題判別を迅速化するDNCWARE ClusterPerfectTM EX 本文PDF(282KB/PDFデータ)
安藤 真也

統合クラスタソフトウェアDNCWARE ClusterPerfectTM EX で,情報システムの問題判別を迅速化する機能を実現した。
この機能は,自律型コンピューティングの考えに基づくもので,Common Base Event(CBE)標準フォーマットを採用したログ(注1)と,障害の症状とそれへの対処方法を記述した症状データベース(DB)を基盤としている。これらを連携利用することで,情報システム全体の動作の流れが容易に把握でき,障害原因の特定にかかる時間を短縮できる。
特許調査に役だつ特許情報分類技術 本文PDF(362KB/PDFデータ)
平  博司・松本  茂

近年のプロパテント化(特許重視)の流れを受けて,各企業においても,特許出願などのいわゆる知的財産関連活動(以下,知財活動と略記)が,これまで以上に盛んになってきている。この知財活動において,重要なものの一つに“特許調査活動”がある。特許調査は,自社及び他社の特許を検索し,分析し,可視化する活動であり,技術トレンドの把握や製品開発の方向性の検討,他社特許の侵害防止(パテントクリアランス)など,企業活動を行ううえでなくてはならないものとなっている。 しかし,一般に特許調査は多大な時間と労力を要するものであり,その負荷をいかに軽減するかが大きな課題となっていた。
また,調査だけで終わらせず,いかに新しい技術及び特許の創造に結びつけていくかも重要なポイントである。
東芝ソリューション(株)は,このような課題に対応するために,特許文書を自動的に分類する技術を研究開発している。この技術によって,特許調査の効率化が図られ,企業の知財活動が活性化されることが期待できる。

R&D最前線
マルチ無線システム間のシームレスハンドオーバ技術本文PDF(257KB/PDFデータ)
大場 義洋

様々な無線システムを効率よく発見し, 切替えを安全かつ迅速に実行
移動体通信では,端末が無線基地局を切り替えるための制御であるハンドオーバを,利用者に通信瞬断を意識させることなく行うことが重要です。特に,携帯電話や無線LANなどの複数の無線インタフェースを持つ端末においては,異なる無線システム間の基地切替えである異種網間ハンドオーバを考慮する必要があります。
東芝は,異種網間ハンドオーバを安全かつスムーズに実現するために,二つの新方式を考案しました。