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表紙イメージ 02 2006 VOL.61 NO.2

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特集:イノベーションを支えるナノエレクトロニクス
巻頭言夢を形にする“ブレークスルー技術” 本文PDF(112KB/PDFデータ)
有信 睦弘

TRENDユビキタス社会に向けたナノエレクトロニクス技術への期待 本文PDF(352KB/PDFデータ)
石川 正行/平岡 俊郎
ロードマップに沿った性能向上が,エレクトロニクス技術の飛躍的な進化の原動力となってきた。しかし今後,このようなロードマップによるエレクトロニクス技術の進化は物理的な限界を迎えると予測される。こうした“ロードマップの限界”をきっかけに,ユビキタス社会におけるニーズの高度化と多様化に牽引(けんいん)される形で,エレクトロニクス技術はこれまでにない大きな変化を起こすと考えられる。その際,エレクトロニクス技術は“ロードマップの限界を越える”方向と“新たな価値軸を加える・変える”方向の二つの方向で展開できる可能性がある。2010年から2020年にかけて訪れるこの変化は,ナノテクノロジーに基づく技術革新による,多種多様なイノベーションが生まれる起点になると期待される。。

ナノ材料電極を用いた新型電池 本文PDF(365KB/PDFデータ)
高見 則雄/稲垣 浩貴/森田 朋和
携帯機器からハイブリッド自動車などまで様々な応用機器に合わせて,高容量,高出力,長寿命,及び急速充電など多彩な性能を持つリチムイオン電池の技術開発が進められている。これに応えるため,新しい電極材料の研究開発が重要となっている。
東芝は,従来の炭素に代わる材料としてナノ技術を利用した新負極材料の研究開発を進め,これまでにない新しい性能を持つリチウムイオン電池を開発した。まず,数ナノサイズに微粒子化したシリコンと炭素を複合化したナノ複合材料を合成することにより,従来の炭素負極の2倍の容量でサイクル性能に優れた負極を開発し,リチウムイオン電池のいっそうの高容量化の可能性を示した。更に,ナノ粒子からなる新非炭素系負極を開発することにより,リチウムイオンを高速に吸蔵しても電解液の分解がなく,従来の60倍のスピードで充電可能な新型急速充電電池を実現した。この新型急速充電電池によって,従来の二次電池の充電の煩わしさから開放されるばかりでなく,回生エネルギーを効率良く蓄電,再利用することができる。

0.7 nmの極薄膜SOIトランジスタ技術 本文PDF(258KB/PDFデータ)
内田 建/古賀 淳二
絶縁膜上に形成された単結晶シリコン膜(SOI:Silicon-On-Insulator)を利用したトランジスタは,将来のLSIの要素素子として期待されている。
今回,これまでにデバイス物性の評価で培ってきたシリコン層薄膜化技術を駆使することで,SOIの薄膜化限界を調べることに挑戦し,0.7 nm(5原子層)という世界一薄い(注1)単結晶シリコン層を持つトランジスタの作製に成功した。また,このように薄いシリコン膜中では,量子力学的な効果がデバイス動作に大きな影響を及ぼすことを見いだした。

超小型乱数発生素子 本文PDF(297KB/PDFデータ)
棚本 哲史/ 大場 竜二/藤田 忍
情報セキュリティへの要求が厳しくなるにつれて,その基盤技術の一つである乱数発生回路に対する要求も年々増加している。乱数の予測困難性の高さは安全性の根幹にかかわるために,近年,商用乱数としての統計検定項目も徐々に厳しいものが採用されるようになってきた。
東芝は,ナノスケールのシリコンデバイスを発展させることにより,より高品質で高速な乱数を生成可能な超小型乱数生成回路を開発した。

電流狭窄型ナノオキサイドレイヤーを用いたCPPスピンバルブ膜 本文PDF(325KB/PDFデータ)
福澤 英明/湯浅 裕美/岩崎 仁志
高密度磁気記録のハードディスク装置(HDD)を実現するために,感度の高い磁気再生ヘッドが求められている。このような磁気再生ヘッドは従来技術の単純な延長では実現不可能であり,新機能を加えた,高感度なスピンバルブ膜が必要である。
東芝は,特殊なナノ微細構造を持つスピンバルブ膜の作成に成功した。スピンバルブ膜の一部に極薄酸化物絶縁層からなるナノオキサイドレイヤー(NOL:Nano-Oxide-Layer)を挿入し,NOLを貫通する電流を通電するためのナノサイズの金属電流パスを形成して,大幅に感度向上が可能な膜を開発した。

ナノパターンドメディア 本文PDF(394KB/PDFデータ)
櫻井 正敏/木村 香里/稗田 泰之
ハードディスク装置(HDD)に代表される磁気記録装置は,最大記録容量を低コストで提供している。媒体記録密度増大のためには記録サイズ縮小に伴う媒体ノイズ問題の克服が必要であり,隣接ビット間を物理的に分断するナノパターンドメディア技術によるブレークスルーが望まれている。課題は媒体全面の低コストナノ加工とドットの位置制御である。
東芝は,自己組織的に形成される微細周期構造を位置制御する手法により,1平方インチに1T(テラ:1012)ビットの記録容量を可能にするナノ加工技術を提供する。

RF-MEMSデバイス 本文PDF(326KB/PDFデータ)
板谷 和彦/川久保 隆
快適なユビキタス社会の実現に向けて,無線技術は著しい進化を遂げている。今後,通信速度の高速化や接続の快適性を追求すると,携帯端末を代表とする無線機器内部の部品,特に受動部品数の増大が大きな問題となってくる。これらに対して,部品の大幅な小型化を可能にするRF-MEMS(Radio Frequency-Micro Electro Mechanical System:RFメムス)技術が注目されている。
東芝は,圧電薄膜における原子層レベルでの配向性を制御する技術を開発し,これをRF-MEMSに適用することで,無線機器を小型化するうえで鍵となる受動部品のうち,チューナブルキャパシタを小型化かつ高性能化することに成功した。LSIなどの半導体デバイス作製プロセスとプロセスの互換性が高く,この技術により,今後チューナブルキャパシタやフィルタなどの受動部品とLSIがワンチップ化できるなど,次世代無線機器を大幅に小型化できる道が開けた。

量子フォトニクスのための半導体ナノテクノロジー 本文PDF(357KB/PDFデータ)
アンドリュー シールズ
自己形成量子ドットを利用することで,非古典光の発生・検出を可能とするナノテクノロジーの開発が進められている。既に東芝は,従来の半導体発光ダイオード(LED)の活性層に埋め込んだ1個の量子ドットからの単一光子生成を実証している。今回,量子ドットの結晶成長の最適化により,光ファイバ通信に適した波長の発光が可能であることが実証された。更に,このLED構造と共振器構造とを組み合わせ,単一光子の発光効率を1けた向上させるとともに,キャリアの運動を電気的に制御することで,1 GHzもの高い繰返し周波数が達成できることも実証した。量子ドット構造は,単一光子検出器の高効率化にも利用される。

ポストシリコン素子の3次元ナノアーキテクチャ 本文PDF(330KB/PDFデータ)
藤田 忍/野村 久美子/安部 恵子
シリコン(Si)を使ったCMOS(相補型金属酸化膜半導体)が10年程度で限界を迎えるといわれるなか,ポストシリコン(ポストSi)素子としてカーボンナノチューブトランジスタや,ナノワイヤトランジスタなどが期待されている。集積回路の演算性能を向上し続けるためには,ポストSi素子に適した新しいナノアーキテクチャが必要である。この新しいナノアーキテクチャには,3次元(3D)回路を土台としたものであること,及び,3D化によって素子リソース数とバンド幅の両方を増大すること,が求められる。また,トランジスタ以外に機械的な動作をするナノスケールのスイッチ素子も,3D化可能なポストSi素子として有望である。

スピンエレクトロニクス デバイスと磁化制御技術 本文PDF(356KB/PDFデータ)
中村 志保/斉藤 好昭/森瀬 博史
スピンエレクトロニクス デバイスは,伝導キャリアが持つスピンの自由度と磁性体材料の不揮発性を利用することで,これまでにない省電力化,高性能化,及び新規機能の発現を目指している。
東芝は,高度ユビキタス社会に向けたスピンメモリやロジックデバイスを実現するため,スピンエレクトロニクス デバイスの心臓部となる磁化制御技術としてスピン注入磁化反転の低電流密度化を進め,新型構造の導入により1×106 A/cm2までの低減を実現してきた。今後,更なる低電力化を進め,これを基盤として新規デバイスを確立する。


一般論文
家庭用燃料電池システムの大規模実証試験と愛知万博のマイクログリッド実証試験 本文PDF(390KB/PDFデータ)
中島 良/佐薙 徳寿/矢吹 正徳
燃料電池システムは高効率で環境保全性に優れており,定置用や車載用などへの幅広い適用が期待されている。東芝は,2000年から家庭用燃料電池システムの開発に着手し,性能や信頼性の向上への取組みを加速してきた。固体高分子形(PEFC)による家庭用1 kW級 燃料電池システムの大規模実証試験では,東芝燃料電池システム(株)製の40台のシステムが一般家庭などに設置され,実際の使用条件下において期待どおりの高い省エネルギー性が確認された。また,愛知万博の会場で実施されたマイクログリッド (注1)実証試験では,同社製の200 kWりん酸形燃料電池システム(PAFC)4台を含む複数の新エネルギー分散電源により,系統が安定的に自立運転可能であることが実証された。

海外最新コンバインドサイクルの制御システム 本文PDF(353KB/PDFデータ)
齋藤 宏幸/堂園 武志/高嶋 路晴
近年,アジア圏を中心に,大規模な海外コンバインドサイクル発電プラントの建設,及び総合リハビリテーションの需要が拡大している。東芝は,この市場に本格参入し,これらの物件をターンキー契約形態として受注し,また,その主要制御システムである分散型監視制御システム(DCS)としてTOSMAP-DSTMシリーズを多くのプロジェクトに適用してきている。
ここでは,これらプロジェクトのうち海外プラント向けDCSの適用例について述べる。

真空遮断器用低コストろう材 本文PDF(280KB/PDFデータ)
草野 貴史/長部 清/奥富 功
真空遮断器は,小型・軽量,メンテナンス省力化,環境調和などの観点から,他の遮断器(油,空気,磁気,ガス)に比較して,社会的ニーズにもっともマッチした機器として,その適用範囲が飛躍的に拡大してきた。
真空遮断器の主要機器である真空バルブの製造には,真空ろう付けは不可欠な製造プロセスである。これらの構成部品は無酸素銅や銅-クロム(Cu-Cr)合金などの極めてガス含有量の少ない特殊材料によって構成されており,これら部品間の接合に真空ろう付けを用いている。このプロセスで使用するろう材には,従来,第1ステップとして高価なパラジウムろう,第2ステップとして汎用性のある銀銅共晶ろう(以下,共晶銀ろうと言う)を使用し,組立て温度に応じてこの種のろう材料を使い分けている。
しかし,パラジウムろうは,パラジウム(Pd)の価格高騰,ステンレスろう付け面へのニッケル(Ni)メッキ処理の必要性などから,真空バルブの低価格化を阻害していた。そこで東芝は,パラジウムレスろう材料を開発し,製品適用の拡大に取り組んでいる。

LCDMを利用した建設情報の活用モデル 本文PDF(379KB/PDFデータ)
香西 敏弘/望月 義明/矢野 令
現在,わが国では政府が策定したe-Japan戦略に基づき,電子政府や電子自治体の実現に向けた取組みがなされている。建設分野におけるIT(情報技術)化及び標準化も,CALS/EC(Continuous Acquisition and Life-cycle Support/Electronic Commerce)や電子国土などによる進展が見られるものの,利活用面での課題がある。
東芝ソリューション(株)は建設情報の有効な活用に向け,LCDM(Life Cycle Data Management)フォーラムに参画して,積極的に普及のための活動を行っている。

高効率セラミック メタルハライドランプネオセラTM照明システム 本文PDF(315KB/PDFデータ)
高山 大輔/寺坂 博志/鈴木 則雅
今回,セラミック メタルハライドランプ ネオセラTMシリーズ(100 W,250 W,400 W)を開発し商品化した。従来の技術では両立が困難であった高効率と高演色を同時に実現(1)し,100 W形と250 W形では業界最高レベルの115 lm/W(100W,250WのTバルブ)を達成した。100 W形においては従来の150 Wクラスのランプと同等の光束値が得られることから,省エネランプとして市場から好評を得ている。また,250 W,400 Wクラスでは,高効率に加えて,このクラスでは業界初となる点灯方向制限をなくしたユニバーサル点灯を実現した。更に,ネオセラTMシリーズを高効率で点灯するための専用の電子安定器と,高効率器具 フロアーマスターTMを商品化し好評を得ている。

高容積冷蔵庫 GR-W45FB 本文PDF(349KB/PDFデータ)
合野 一彰/真下 拓也/野口 好文
東芝は,1930年に国産第1号の冷蔵庫を開発し商品化して以来,食品保存性能や使い勝手の向上,省エネなどランニングコストの低減,更に,近年では自然環境に配慮した設計など,新技術の開発に積極的に取り組み,2005年11月に国産冷蔵庫誕生75周年の記念モデルとして,“置けちゃうビッグTM”GR-W45FBを市場に送り出した。
主な特長として,(1)ツイン冷却器のスリム化と設置レイアウトの見直し,及び放熱器のコンパクト化などにより,前年度モデルと同設置面積で,定格内容積を38L増やした高容積設計,(2)ナノ光プラズマTMで冷気を脱臭・除菌・エチレン分解する冷気清浄機能“クールプリファイヤーTM”の搭載,が挙げられるが,そのほかにも電動タッチオープン&オートクローズドア,製氷皿の除菌機能,及び“霜ガード冷凍”など,使い勝手と食品保存性能の向上に配慮した付加機能を搭載している。


R&D最前線
HD DVD-Rディスク 本文PDF(233KB/PDFデータ)
森田 成二
新規有機色素と低コストプロセスで30 Gバイトの2層HD DVD-R(Recordable)を実現
映像ディスプレイの大型・高精細化及びデジタル放送に対応した映像技術の進歩に伴い,次世代DVDが必要とされています。
HD DVDは,DVDを規格化したDVDフォーラムが承認し規格化した青色レーザを使った次世代大容量DVDフォーマットです。既に,多くの映画などのコンテンツプロバイダー及びパーソナルコンピュータ産業を担うハードウェアやソフトウェアのプロバイダーが,HD DVDを使った商品化を発表するなど,記録型HD DVDへの期待が高まっています。
東芝は新規な有機色素と低コスト製法を開発し1度だけ記録が可能なHD DVD-Rを実現しました。

熱応力解析への形状最適化手法の応用 本文PDF(263KB/PDFデータ)
中谷 祐二郎
高温エネルギー機器の形状を最適化するシミュレーション技術
エネルギー機器に代表される大型構造物の設計においては,高信頼性とコスト競争力の両立が必要となっています。そのために,近年発達の著しいコンピュータ支援エンジニアリング(CAE)システムをベースとした構造最適化設計が進められています。特に,火力発電機器などの高温環境下で使用される機器については,温度分布や熱膨張差により熱応力が発生し,機器の信頼性が低下するという問題があります。そのため,この熱応力を最小化するための形状最適化が課題となっています。
東芝は,高温エネルギー機器を対象に形状最適化技術を開発し,高信頼性とコスト競争力を両立しました。