概要
当社は、製造現場に蓄積した検査画像における不良や欠陥の種類を教示作業なしでグループ化する「教師なし画像分類AI」に対し、独自の深層学習AIを用いることにより、ベンチマーク画像に対する分類精度を従来の27.6%から83.0%へと大幅に向上させることに成功しました。
「教師なし画像分類AI」は、製品検査をする上で不要となる背景パターンの特徴もAIが認識してしまい分類精度が落ちることが課題でしたが、本AIは背景パターンから不要な特徴を無視し、製品の不良や欠陥に関する重要な特徴のみを学習して、高精度に画像を分類します。
本AIにより、手間のかかる手作業なしに、半導体などの複雑な製品パターンを持つ検査画像を、不良や欠陥の特徴毎に高精度に分類し、品質改善に向けた分析プロセスを加速させることができます。
当社は本AIの詳細を、2024年5月7日から10日にかけて台湾で開催される国際会議PAKDD2024(Pacific-Asia Conference on Knowledge Discovery and Data Mining)(*1)で発表します。
開発の背景
近年、製造業における検査において、検査画像を分類することで、不良や欠陥の発生状況を早期に把握し、生産性を向上させる高精度な画像分類AIに対するニーズが高まっています。AIには、分類する対象や判断基準を人手でAIに教示する「教師ありAI」と、AIが自ら対象の特徴を学ぶ「教師なしAI」があります。一般的に、「教師ありAI」においてより高い分類精度が期待できますが、人手による教示作業のコストが高く、製造現場におけるAIの普及の障壁となっています。「教師なしAI」は導入が容易で、人間が想定していない画像の特徴も学習できるメリットがあり、製造方法の変更などで発生した予期せぬ不良や欠陥を分類できることが期待される一方で、分類精度の向上が課題となっています。
そこで現在、「教師なしAI」の精度を上げる研究開発が進められていますが、従来の「教師なし画像分類AI」は、グループ化に影響を与える重要な特徴の識別が難しく、製品検査では不要な背景などの特徴(図1)で画像を分類してしまう課題がありました。例えば、空の色のように単純な背景の影響は無視できるものの、半導体の回路のように複雑な背景の場合には、背景につられて本来識別したい不良や欠陥の分類精度が低下してしまいます。
(a)正常な製品パターン(不要な背景の特徴)(b)欠陥が発生した製品
本技術の特徴
背景パターンの画像から不要な特徴の学習を抑制することで、分類対象が含まれる目的画像から不良や欠陥などの重要な特徴のみを識別する教師なし画像分類AIを開発しました(図2)。本AIは、深層学習AIを用いて背景パターンに含まれる不要な特徴を学習する「背景特徴抽出ネットワーク」を新たに導入し、不良や欠陥が含まれる目的画像の特徴を学習する「注目特徴抽出ネットワーク」と組み合わせました。これにより、背景パターンの不要な特徴を無視しつつ、目的画像から必要な特徴を効率的に抽出し、不良や欠陥を高精度に識別・分類することができます。
当社は、実際の製品の背景パターンを模したベンチマーク画像を用いて本AIを評価しました。縞模様を持つ背景パターン画像と、縞模様の背景画像の上に手書き数字が重なる画像を使用し、分類精度の検証を行ったころ、分類精度が従来の27.6%から83.0%に大幅に向上し、製造現場における実用化に十分なレベルを達成しました。従来では、背景の縞模様の影響で手書き数字と背景の組み合わせで細かくグループが分かれていましたが、本AIにより、目的の特徴である手書き数字のみの特徴でグループが分かれ、分類精度が向上しています(図3)。
本技術は、製造ラインの検査で蓄積される良品の検査画像を背景パターンに用いることで、製造工程でも効率的に活用することが可能です。背景パターンは対象画像の背景と厳密に一致する必要がないため、背景パターン画像の選定作業にかかる時間も削減できます。
本AIを製造現場の検査工程に適用することにより、品質管理の精度と効率が大きく向上することが期待されます。また、本技術による自動化により、技術者はより高度な分析プロセスに労力をかけることが可能となり、製造における全体的な歩留まりの改善につながります。
本AIは製造分野の検査工程への適用だけでなく、天気や季節変動による背景の変動の影響で分類が困難だった監視カメラ画像への適用が見込めます。
今後の展望
当社は、今後、本AIを当社グループの半導体工場に導入し、さまざまな検査工程・製品に適用し、性能実証を行う計画です。実証結果を踏まえた改良およびさらなる精度向上を進め、早期の実用化を目指します。